
中身が空っぽの文章を書いて、心に少しの余裕を取り戻す
自然と消えるまで、頭の中に溜めておけるほどの余裕があればいいのだけれど
放っておけば流れていくものでもなく、なかなか消えてはくれなくて
あの時のように少しずつまた、埋め尽くされてゆく
間に合わなくなる
頭蓋骨を突き破る前に、自制が利くうちに放出しなければ
頭の中で深く追求していくよりも、とにかく形になっていなくても吐き出してしまう
思い浮かんだ言葉を出来るだけ全部、漏らさないように書き記していく
ペンは猛スピードで次々と文字を書き足して
書き続けていくと、いつの間にか考えるより先に手が勝手に動くようになる
けれど読み返してみれば、まるっきり中身が空っぽで
言葉と言葉の間にあったはずのつながりも、文章の脈絡も消え失せている
何かしらの解釈を与えてみようとしても、どうにも支離滅裂で
なぜその言葉を書こうと思ったのか
あったつもりの理由も見つからない
でも、それでもいい
言葉の順番を並び替えたり、選んで組み合わせることで無理矢理に形を作り出すのではなく、
思いつくままに書き散らした、その複雑で不安定で、掴みどころのない塊をまず視覚として捉える
思考回路を経由せずにペン先から溢れ出たものを出来るだけそのまま
それまで目で見ることが出来なかったもの、頭の中で蠢いているものを
「書く」という行為を通して視覚化する
真っ白だった一枚の紙が黒々と文字で埋め尽くされていく
感情や気分、記憶、予感、現実も想像も
願望、古びたものや、まだ生々しいものも
分類されることなく、片っ端から書き取られていく
文字として掬い取ってみて初めて、こう思っていたのかとハッと気づくことがあるのだ
意図的にではないにせよ、普段隠されているもの
それはその時の自分には受け止めきれないことや、認めたくないものも含まれている
時間を掛けて整えられた綺麗なものではないからこそ、その勢いにまかせて大事なものが転がり出てくる
今はわからなくても、引き出された言葉には引き出されるべき理由があったはずで
核に触れることが出来なくてもいい
表面をなぞっているだけだとしても、それで輪郭はわかるから
もやもやしたわけのわからないものが、どんな形をしているかがわかるだけでも不安は減って
それだけで救いになることだってある
ペン先から出てくる無秩序なものを論理的に理解出来ていなくても、感覚的に掴み取れているだけで随分違うから
いきなり完璧に理解することなど初めから期待していない
まず最初の一歩として自分の手で書いてみる 目で見てみる
そうすることで、心の絡まりに触れることが出来る気がする
どんな絡まり方をしているのか
それだけで紐解くための最適なキーワードを掴めることは稀だけど
掴むきっかけを見出す可能性は大いにある
だから書いてみる
文章に中身がないとしても、支離滅裂だとしても、ひたすらに書き尽くしてみる
頭の中で思いあぐねているだけでは余計に苦しくなっていくものも、「書く」という作業を通しているだけで
不思議と心は落ち着いてゆく
どんなに激しく運動しようとほぐせない 何時間音楽を聴こうと結び目が緩むことはない
自分の心の言葉を使うからこそほどけてゆく絡まりがあって
完全にほどけなくても、理解できなくても 自覚しきれなくても
書き終わった時、なにか少しすっきりとしたような気分になっている
それは絡まりをほんの少し緩ませることが出来たということなのかもしれない
紙の上に無造作にばら撒かれた心の澱
諦めなければ時間は掛かったとしても
「いつかきっと」
この一歩は、その希望に繋がっているはずだから
一時凌ぎだっていい、少し余裕を作れればいい
あの時の過ちを繰り返さぬように、また駄目な自分を投げ出さぬように