プラプラ堂店主のひとりごと㊵
〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜
『山の手』のはなし
ようやく暖かくなったと思ったら、粉雪が降る寒さになったり。そして、今日はまた急に暖かくなった。春の札幌の天気は、こんな繰り返しが多い。昔は平気だったけれど、最近は身体がついていかない。だるくて、頭がぼーっとする。何もやる気が起きない。とりあえず、ぼくは散歩に出かけた。
真駒内公園に来たのは、今年初めてだ。お気に入りの散歩コース。豊平川と合流する真駒内川が 園内を流れていて、ピクニックに来る家族連れや、ウォーキング、ランニングをする人たちに人気の公園だ。すっかり雪が溶けて、芝生にはうっすらと緑が生えてきている。木々の枝の膨らみかけた蕾が、今にも顔を出そうとしている。日向にはもう、クロッカスや福寿草が、ちょこちょこと顔を出している。でも、花の時期はもう少し先だ。北海道の花は、いっきに咲く。梅より先に桜が咲き、クロッカス、福寿草、水仙にレンギョウ、カタクリ、水芭蕉…。「私が先よ!次は私、私も私も…!」まるでそんな声が聞こえてきそうな勢いで、次々と花が咲く。雪解け後の薄い灰色の山々は、うっすらと瑞々しい緑になる。そして、あっという間に色濃く力強くなってゆく。
今は、そのほんの少し前。春に伸びる力をうちに秘めている植物たち。そこからは、もうフェロモンのようなものが出ている気がする。ぼんやりとしていた身体に、命のエネルギーを分けてもらったようだ。外に出るとやっぱり気分がいい。
藻岩山を眺めながら公園を歩いていて、ふと、花輪和一の漫画「コロポックル」を思い出した。コロポックルは、アイヌのお話に出てくる小人だ。アイヌ語で「蕗の葉の下の人」という意味。その漫画の中の『山の手』という話がある。雪が溶けた頃、コロポックルが烏天狗と木々や土の中の春の音を聞きながら、山からの合図を待っている。「桜の蕾がもう出たがってるね」「土の中でも草の芽が出たがってる」「まだかな、まだかな」そうしていると、パアン!という音と共に、山から手が出る。(本当ににょきっと!手首から上が、山から生えたように!)合わせた手が、ほんの少し開いたような、花が咲いたような手。その途端、桜が咲き乱れ、カエルたちが土から顔を出す。このシーンほど、北海道の春の様子を的確に描いたものを、ぼくは他に知らない。
(もうすぐ。本当に、もう、すぐだろうなぁ…)
藻岩山の上に、観音様のような手がにょっきりと生えている絵が浮かんできた。
ありがとうございます。うれしいです。 楽しい気持ちになることに使わせていただきます。 また元気にお話を書いたり、絵を描いたりします!