加藤真史

私の記憶は、大きな木箱にあるようです。 その木箱の中から(おもいで)にまつわる、あれや…

加藤真史

私の記憶は、大きな木箱にあるようです。 その木箱の中から(おもいで)にまつわる、あれや、これやを。 『プラプラ堂店主のひとりごと』は、マガジンでどうぞ。

マガジン

  • プラプラ堂店主のひとりごと

    札幌にある古道具屋、プラプラ堂。ひょんなことから道具たちと話ができるようになった店主。店にやってくる道具たちと店主のひとりごとのようなお話たち。

  • 10年目の3.11

    「それぞれの10年」に参加しています。 かとうまふみ

  • プラプラ堂の始まり

最近の記事

記憶の木箱

私には、同じ歳の従姉妹がいる。名前はせーこちゃん。私の家は北海道、彼女は広島県と離れていたけれど、小さい頃から年に一度くらいは会っていたと思う。夏休みなど長い休みには、お互いの家にしばらく泊まることもあった。せーこちゃんは大の本好きで、いつもたくさんの本を読んでいた。会うと必ず「ドリトル先生」や「シートン動物記」など、読んでいる本のことを話してくれた。その頃の私といえば、外で遊んでばかりで、本は全然読まなかった。でも、せーこちゃんの話してくれる本の話はとても面白くて、自分が読

    • プラプラ堂、お休みします⭐️

      しばらく、プラプラ堂をお休みします。今後は、不定期に別のお話を書きたいと思っています。突然のお知らせで、ごめんなさい。 ここでの発表はしばらくありませんが、プラプラ堂は、札幌のどこかでひっそり営業中です。しっかり者の抹茶碗たちに見守られて、店主も、マイペースに成長してゆくと思います。また、再開する時は、どうぞよろしくお願いします。                             加藤真史

      • プラプラ堂店主のひとりごと㊽

        〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 (夏越大祓)のはなし  ひどい雨と風の翌日。空は一気に晴れ渡り、まるで台風一過のような青い空が広がっている。そして、急に暑くなった。その日、店は休みだったので、切れてしまった珈琲豆を買いに車を走らせた。道路には街路樹の枝が落ちていて、落ち葉が散乱している。昨日は本当にすごい風だったんだな。いつもの豆を買って店を出た。雨あがりで空気は少し蒸すけれど、日差しが眩しく、緑がキラキラして見える。少し散歩をしたくなって、途中にある月寒

        • プラプラ堂店主のひとりごと㊼

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 主婦のプロのはなし 初めて店に来たその人は、ドアを開けてぼくを見るとにっこりと微笑んだ。60代くらいだろうか。明るいショートカットで、細身の小柄な女性だ。黄色の花柄のワンピースにグレーのカーデガンが良く似合っている。店内をぐるりと眺める。大きな目がくるくると動く。それから、商品をひとつひとつ手に取りながら、店の中をまわった。 「あら、かわいい」 手にしていたのは、つい先日入ったばかりの小さなガラスのコップだ。おそらく手描

        記憶の木箱

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        • プラプラ堂店主のひとりごと
          49本
        • 10年目の3.11
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        • プラプラ堂の始まり
          1本

        記事

          プラプラ堂店主のひとりごと㊻

          〜主人のいない店のはなし〜 休日、天気がいいのでぶらぶらと街歩き。ライラックが咲きはじめた大通り公園をのんびりと歩いて、狸小路商店街まで来た。そうだ、久しぶりに「N」に行ってみよう。「N」は、ぼくが好きな古道具屋だ。主に日本の道具を扱っている店で、女主人のセレクトが素敵なのだ。この人と話すと、言葉の端々に道具たちへの愛情を感じられる。そして勉強になる。ぼくは密かに彼女を(師匠)と呼んでいる。  狸小路商店街にはいつの間にか、新しい店が出来ていた。「ニュー花園」に「ルマンド」

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          プラプラ堂店主のひとりごと㊺

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 空回りの日のはなし 灰色だった山の色が、ふわりと淡いグラデーションの緑色に包まれている。この時期の山並みの緑が好きだ。ふと、旭岳に行きたくなった。なに、登山ではない。ロープウェイで登って散策するだけのこと。でも、いっぺんで魅了された山だ。アイヌ語では「神々が遊ぶ庭」と呼ばれている。北海道の自然の雄大さを肌で感じられる場所だと思う。 (ああ、旭岳に行きたい)  すぐに近くのホテルを予約した。ぼくとしてはめずらしいことだ。そ

          プラプラ堂店主のひとりごと㊺

          プラプラ堂店主のひとりごと㊹

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 身代わりの器のはなし 札幌の桜も、そろそろ終わり。今はチューリップや水仙がきれいだ。いろいろな花たちがどんどん咲いて、短い北国の春を彩っている。そんな中、金継ぎをやっている洋子さんが店に寄ってくれた。半年前に頼まれたカップの金継ぎがようやく完成して、納品に行った帰りだそうだ。洋子さんはいつもたくさんの器の直しを抱えていて、忙しそうだ。今日は少し疲れているように見えた。ぼくは、珈琲を入れてすすめた。 「いい香りね。ありがとう

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          プラプラ堂店主のひとりごと㊸

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 小麦のはなし 久しぶりに高校時代の友人、深瀬が店に遊びに来た。深瀬は今、ライターのような仕事をしている。雑誌の取材、地方紙の記事の編集、イベントの主宰などなど、なんでもやっている。フリーランスのいわゆる何でも屋だと思う。が、本人はあくまで「ライター」と言い張る。深瀬は店に来るなり、いきなり言った。 「面白いこと、教えてやるよ。左手をお腹に当てて。それから右腕を真っ直ぐに横に伸ばして」  深瀬は唐突に変なことを言ったり、始

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          プラプラ堂店主のひとりごと㊷

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 桜のはなし 店の商品の買い付けに行く。しばらくは持ち込みばかりだったけれど、春の引越しシーズンだけあって、多めの買入れが続いた。古い椅子、テーブル、皿やカップが多い。札幌は先日、桜の開花宣言が出たばかりだけれど、今日は寒かった。車の移動だからと油断していた。もう少し厚着をすれば良かったな。そんなことを考えていたら、みぞれが降ってきた。 (寒いはずだ…)  早めに終わらせて早く帰りたいな。ニュースでは7分咲きの桜の映像を観

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          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 オーディオブックのはなし ぼくは、昔からラジオが好きだ。ラジオドラマも好きで「青春アドベンチャー」や「ラジオシアター文学の扉」なんかもよく聴いていた。最近はポットキャストやオーディオブックも聴くようになった。オーディオブックは、ハウツー本やビジネス書が多い感じがする。ぼくが聴いているのは、今のところ無料の、しかもごく短いものだけだ。  先日、カズオイシグロの「クララとお日さま」が1コインで聴けるのを見て、すぐに申し込んだ。

          プラプラ堂店主のひとりごと㊶

          プラプラ堂店主のひとりごと㊵

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 『山の手』のはなし ようやく暖かくなったと思ったら、粉雪が降る寒さになったり。そして、今日はまた急に暖かくなった。春の札幌の天気は、こんな繰り返しが多い。昔は平気だったけれど、最近は身体がついていかない。だるくて、頭がぼーっとする。何もやる気が起きない。とりあえず、ぼくは散歩に出かけた。  真駒内公園に来たのは、今年初めてだ。お気に入りの散歩コース。豊平川と合流する真駒内川が 園内を流れていて、ピクニックに来る家族連れや、

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          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ふきのとうのはなし うめさんが久しぶりに店に来てくれた。いつもの笑顔にほっとする。うめさんがいるだけで、店の中がぱっと明るくなるようだ。ぼくがほっこりしていると、うめさんは、開口一番、 「はい、これ食べて」 と、小さな瓶を差し出した。 「なんですか?」 「ふき味噌よ。山菜で春の毒だし!」 「春の毒だし…」 「そ。冬の間に溜まった体の毒を出す手伝いを、山菜たちがしてくれるのよ。この苦味がね、いいの!自然は本当にすご

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          プラプラ堂店主のひとりごと㊳

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 なくした手袋のはなし もうすぐ4月。札幌はすっかり暖かくなってきた。東京では満開の桜の便り。今年は札幌でも桜の開花は早い予想。楽しみだな。道路の脇に山になっていた雪も、ずいぶんと小さくなった。この時期の残り雪は黒く、道路はべちゃべちゃできたない。春はうれしいけど、ぼくはなんとなく、この残り雪を見るといやな気分になってしまう。それは、ただ、道路や雪がきたないからと思っていた。でも、つい先日思い出したことがある。手袋のことだ。

          プラプラ堂店主のひとりごと㊳

          プラプラ堂店主のひとりごと㊲

          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 四つ葉のはなし 本棚を整理していたら、古い絵本が見つかった。『ちびくろ・さんぼ』だ。赤い表紙の真ん中に、ちびくろ・さんぼが緑の傘をさして立っている。その周りでは、とらが、ぐるぐる回っている。お互いの尻尾をかじりながら。岩波書店の本だ。 「わあ、なつかしいな」 ぼくは思わず手に取った。 「おっと!うわぁ、ボロボロだなぁ…」  背は剥がれていて、かろうじて紐でつながっている状態だ。ページをめくると、外れたページがパラリと

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          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックのはなし〜 ブランコのはなし 札幌も、だいぶ春らしくなってきた。日中はプラスの気温が多くなって、雪どけがどんどん進んでいる。何より、空気が柔らかくなった。日も長くなってきたなぁ。春が近いことを感じると、やっぱりうれしくなる。とはいえ、公園でこどもたちが遊ぶのは、まだ先だ。ぼくがよく散歩する近くの公園のブランコは、ロープで縛られていて、雪がとけるまで使うことができない。ぼんやりとその公園を散歩しながら、縛られたブランコを見ていたら、こども

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          〜古い道具たちと、ときどきプラスチックの話〜 大きな木のはなし ときどき、近くにある神社に行く。鳥居の入り口から神社への道が、ものすごく急な坂になっている。距離的には100メートルくらいだけど、これがけっこうきついんだ。道の左右にはロープがあって、お年寄りはこれにつかまって登り下りする。冬はすごく滑るから、これに捕まらないと危ない。ロープは必需品だ。神社の裏手は山の散歩道になっていて、春は桜がきれいだ。神社でお参りをしてから、このあたりを散歩して帰るのがいつものコース。

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