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【読書感想文】言葉の力を信じようと改めて思った (1236字)

noteで記事を書くことを継続している方だったら、ご自分の言葉にこだわりをお持ちでしょう。今の社会では、言葉はただの記号のように感じることもあります。でも、言葉は人の心を変える力を持っています。歌人、木下龍也さんの歌集『あなたのための短歌集』を読んでそう感じました。改めて言葉の力を信じようと思えたので、有難かったです。

この歌集は普通の歌集とは異なっています。読者の依頼によって詠んだ短歌が収められています。読者からのお題が届き、それに従って歌が詠まれました。そんな個人的な短歌が収められているので、木下さんは印税を受け取っていないそうです。一人の歌人から読者への心のこもった贈り物といった雰囲気があって、本当に感動しました。

生きづらい世の中を反映したお題が多いのですが、木下さんはそれに怯むことなく、読み手を励まし、勇気づける短歌を書いていきます。その姿勢は歌人という立場を超えて、人生の同伴者といったところです。三十一文字という日本人に一番馴染みの深い表現形式だからこそできる試みです。特に心を揺さぶられた短歌を以下に紹介します。

「悩む」とは想像力に火をつけて無数の道を照らすことです

自分の進路で悩んでいる人に向けた短歌です。深い優しさを感じて、じーんとしました。どの方向へ行くか迷うのは、多くの人が経験することです。それが大きな負担になることもあります。そんな風に思えないことも多いですが、どんな人でもいろいろな可能性を持っています。それは個人が持っているかけがえのない力です。この短歌は、そのことをさりげなく教えてくれます。

愛された犬は来世で風となりあなたの日々を何度も撫でる

この短歌は、自分が飼っている犬との別れを恐れている人のために、書かれました。最初に読んだ時は、なんて優しい歌なのだろうと思い、泣きました。愛犬(または愛猫)が死ぬことは、飼い主にとって本当に辛いでしょう。動物だけではなく、愛する人との別れも身を引き裂かれる悲しみです。この短歌はそんな悲しみを慰めてくれます。「風となり」という表現が透明感があって美しいです。

死者たちは重石をくれる大切なあなたが追ってこないように、と

心の一番深いところまで届く本当に優しい短歌です。この歌を読んだ時も、泣きました。大好きな家族を失ってしまう恐れを克服する短歌を書いてください、という依頼によって書かれたものです。自分にとって大切な人が死ぬと悲しいものです。後を追いたくなるのは自然な感情です。でも、それは死んだ人が望まないことでしょう。この短歌に出てくる「重石」は、死んだ人のそんな想いが結晶化したものです。目には見えないのですが、きっと心で感じ取れます。

この歌集も、以前記事で書いたbooks selvaで購入しました。こんな歌集が出ていることは全く知らなかったので、selvaで買えてよかったです。『あなたのための短歌集』は、店主の方のこだわりによって選ばれた本が並んでいる本屋に、ふさわしい一冊です。books selvaの杣谷さんは、noteで記事を書かれています。(下記参照)


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