【訳詩】ソネット1
ウィリアム・シェイクスピア
美しいものは増えるように、と私たちは望む
だから美しい薔薇は消えることはないのだろう
老いた者は時間とともに消えるとしても
花の記憶は優しい子供が受け継ぐから
でも君は自分の美しい目と婚約したかのようだ
自分で自分のことを美しく輝かせる
圧倒的な美しさのために人は君に恋い焦がれるのだ
君自身が君の敵、美しすぎるゆえに残酷だから
いま君はこの世で一番の美しい装飾品
君だけが豊かな春の先触れになれる
君自身の中に君の美しさが埋まったまま
驕った人は吝嗇なので
この世を憐れんでくれ、
そうでなければ君は愚か者のまま
墓に入る
シェイクスピアの『ソネット集』が一番好きな本です。その一番最初に出てくる詩を訳してみました。原文は14行で韻を踏んだ非常に整った形式で書かれています。
原文の音楽的な美しさを日本語に翻訳することはできません。でもシェイクスピアの想いや感情は、言葉の壁を越えて伝わります。その点が素晴らしいです。だから文豪と呼ばれるのでしょう。
詩の前半には、美しいものはなくならない、と言うシェイクスピアの信念が表現されています。この信念に深く共感します。人間は死んでしまいますが、人間が作った芸術は後の世代に受け継がれます。シェイクスピアの場合は言葉です。言葉の力を誰よりも信じていた人と言えるかもしれません。言語は違いますが、言葉を使って創作するnoteに集う人たちを勇気づけてくれる先達でもあります。
後半では自分の美しさに閉じこもっている若者への助言が書かれています。この部分は人間の苦しみの表現と言えるかもしれません。『ソネット集』には嫉妬や報われない恋の苦しみも書かれています。
浮世離れした美しさだけではなく、人間の苦しみや悲しみが描かれているので、『ソネット集』には真実味があります。そのようなことを洞察できたので、四大悲劇のような心を揺さぶる作品が書けたのでしょう。
私の翻訳はお粗末なものです。時々読み返して訳を練り上げていくつもりです。以前もnoteで『ソネット集』を訳したのですが、原文にこだわり過ぎて訳の分からないものになりました。今回はできるだけ自然な日本語になるようにしました。
下記の画像は、私が持っている『ソネット集』のペーパーバックです。何度も読み返してボロボロになっていますが、愛着があります。