『銀河の図書室』読了、病院の待合にて
※本の感想以外に、自分自身の近況なんかを書いています。
感想だけを読みたい方は目次で飛ばして読んでください。
はじめに・楽しみな本ほど読めない
ものすごく久々に紙の本を読んだ。
『銀河の図書室』は、登録しているKinoppyのトップ画面に出ていた。
読みたいなと思って、発売して割とすぐ、近くの大きめの書店に行って買ったのだ。
でも、読み出すのに1ヶ月近くかかってしまった。
ここ数年、楽しみにしていた本が読めない。
本全般が読めないわけではない。Kinoppyに入っている本を読み返したり、Kindle unlimitedの読み放題の本は次から次に読んでいる。
でも、何ヶ月も前から発売するのを楽しみにしていて、電子書籍で予約していたり、発売日当日に本屋に買いに行ったりした本が読めない。
受動的に本を読んでいる感じ。回転寿司で流れてくる皿を取るだけ、という感じ。
読みたい本がどんどんと本棚に溜まっていく。
まあ、本は傷まないし、いつか読めばいいか……と思って放っていたのだが、この間、久々に電車に乗ったとき、不意にずっとKinoppyに眠らせていた本が読めた。
あれ、精神状態が安定したのかな、と思って、家に帰って積ん読を引っ張り出したが、それは読めなかった。
そして今日、試しにと、長く待つことがだいたい確定している病院に、『銀河の図書室』を持って行った。読めた。
普段在宅で仕事をしているのもあって、案外家だと100%オフの気持ちになれないのかもしれない。急な来客もある。
それに家にいると、いろいろやれることがある。ゲームもするし動画も見るし……そんな中で、読書に集中できるだけの力? みたいなものが、どうも今の私からは失われているのだろう。
その点外にいれば、やれることは限られている。読書に集中するには、外の方が、今の私にはちょうどいいみたいだ。
というわけで、しばらくの間は外で本を読もうと思う。せっかくなので、その記録もこうしてつけることにしてみた。リハビリ記録のようなもの。
家で楽しみな本を読める日がいつ来るのか、あるいは来ないのか、わからないけれども、ゆっくり向き合っていきたい。
今回の外読書・病院の待合にて
今日は婦人科の定期検診の日。
数年前に不正出血があって総合病院の中の婦人科にかかったら、子宮筋腫があったので、それ以来ずっとお世話になっている。
中学生だったか高校生だったかの時に生理痛がひどくてかかった開業医の産婦人科は、9割産科といった感じで、妊婦さんが多かった。お医者さんも「まあ出産したらましになりますよー」みたいな、今苦しい私の立場はないのか……? みたいなところで苦手だった。
でもここは、産科の人も婦人科の人もいるし、そもそも他の科の人も待っているし、その雑然とした感じが好きだ。先生も一度人は変わったが、どちらもとても優しくていい先生だ。
ただ、総合病院の中なので、割合いつも混みがちだし、会計も結構待つ。
というわけで、本を読んでみようと思って買っていた『銀河の図書室』を持って行った。
感想・『銀河の図書室』
『銀河の図書室』は、作・名取佐和子、今年の8月に出た青春小説。
高校の同好会「イーハトー部」で活動する生徒たちが、宮沢賢治の言葉を介して、それぞれの苦しみや悩みと向き合っていく……、というような内容。
「イーハトー部」って、自分の学生時代にあったら絶対部室をのぞきにいったよな、と思ったので購入した。
↓以下、ネタバレ有の感想
出だしは新入生の勧誘のシーンで、はじまりは軽やかだ。
しかし、「イーハトー部」に所属する生徒たちの抱える事情は、重く、苦しい。主人公のチカは高校入試で失敗して以来、試験になると過度に緊張して実力を出せない。また、同級生のキョンヘはダウン症の弟を持ち、弟との関わり方、社会との関わり方に悩んでいる。新入生のマスヤスは昔のできごとから男性と一対一になるのが苦手。そして、先輩の風見さんはある日突然不登校になり、連絡が取れない。
彼らの苦しみは重いが、それをいっそう辛くさせているのは、それを誰にも言えないことなのだろうと思った。言って解決する訳でもない、相手に気を遣わせたくない、でも、言えない自分が相手に線を引いているみたいで負い目がある……。そんな葛藤がこちらにまで伝わってきて、胸が塞がるようだった。
そんな彼らが自分の気持ちを託すのは、本の言葉である。宮沢賢治の本以外にも様々な本が出てきて意外だったが、彼らは小説や詩を読み、そこに自分の気持ちを重ねていく。印象的だったのはキョンヘと弟のことだ。彼は弟を愛せない(と自分では思っている)。弟の潤平が笑う理由をきちんと知っている彼は、ちゃんと弟を愛していたと感じられるのに。
弟が亡くなり、棺に弟が気に入っていた本を入れたいと思ったキョンヘは、チカに本を買ってきてほしいと頼む。持っている本は図書室の本で燃やす訳にはいかないから。
この一連の流れ、自分自身の気持ちに自分では気づけないもどかしさや、葬儀という非日常の中で、取り残されてしまったようなキョンヘが懸命に日常を装おうとしている不安定さなどが伝わってきて、あまりに苦しかった。
「潤平君に両親を独り占めさせてあげたことが、キョンヘ先輩の潤平君への愛です」(p172)
これはマスヤスがキョンヘにかけた言葉だが、作中で私が一番好きな台詞だ。
兄、姉は、自分も子供であるにも関わらず、幼いときから年長者としての振る舞いを求められる。その相手に障碍があれば、なおさらだろう。
自分の幼さに蓋をして、子供の座を弟に明け渡したキョンヘの行動には、間違いなく愛がある。それが仲間に伝わっていることがとても嬉しく思った。
キョンヘは「虔十公園林」を読んで、「自分の愚かさを突きつけられた気がした」と言っていたが、次に読むときは、きっと違う感想を持つのではないかと思う。
作中で共感したのは風見さんの心情だろうか。私自身不登校で高校を留年したり退学したり大学を休学したりしたので、彼の抱えるどうしようもない不安に心当たりがあった。
「俺の鈍い言動がまた知り合いや見知らぬ誰かを傷付けそうで、学校で誰かと関わることが億劫になっちゃったんだ」(p269)
本当にこの通りのことを私も思ったことがある。相手が嫌いな訳ではなくて、傷付けたくなくて距離を取る。今となっては、その遠慮こそが周囲を傷付けたな、とわかるのだけれど、10代くらいのときは、こうするしかなかったよね、と、自分の傷と再会した気持ちになった。
また、作中でキーワードになる「ほんとうの幸い」。カバーの「『ほんとうの幸い』って、何だろう?」という問いかけを見たときには、てっきり青い鳥は案外近くに……みたいな話かと思うが、全然違った。
誰かのためにいいことをする、それが「ほんとうの幸い」だと信じたいけど、それってエゴだよね? 相手にとって本当にいいことだったかどうかはわからないよね、というのが今作の基幹になっている。
風見さんは「ほんとうの幸い」のために深く傷付き、傷付けた美濃部さんもまた傷付いている。
誰も、100%相手のために行動なんてできない。でも、相手のことを思った気持ちが0%なわけでもない。
よくあろうとすること。そうできる仲間がそばにいると知ることが、今作の救いだった。
今後、彼らの行く道にどんな困難があっても、一度は心くじけても、この記憶が支えになって必ず立ち上がって歩いて行ける、そんな確信を持って読み終えることができた。
↑ネタバレ感想ここまで
読み終わって感じたのは、高校生の頃、先輩ってすごく大人びて見えたよな、ということ。大人になってみれば、1、2歳差なんてなんてことはないのに。
チカから見て、部長の風見さん、そして偶然であった憧れの先輩美濃部さん。この二人ははじめ、尊敬や憧れの対象であり、ひどく遠い存在だ。
でも、そんな彼らもまだ10代で、思い悩むこともあれば、苦しむこともある。
物語を通してチカはそれを知り、「先輩たちに対して何かできることはないか」と模索する。その中で、自身の悩みを克服していく。
彼が大人になっていく一歩一歩を間近で見たような、そんな気分だ。
また、出てくる大人がみんな本当にいい人で、見守り続けてくれるのがいい。
同じ作者の『図書室のはこぶね』を読んだことがないのだけど、同じ学校が舞台なので、もしかしたら彼らがまた出てくるのかもしれない。読んでみたいと思う。
登場人物の成長の傍らに、ずっと本があり続けるのがとてもよかった。
表紙では、登場人物がいる図書室の外は銀河で、本がはばたいている。なんとなく、本からこぼれおちた文字が、星となってきらめいているように感じた。
人生は長く、どれだけ仲間や友人、家族がいようとも、必ず孤独は訪れる。
それを支えてくれるのが、心の中で星の光となって輝く、本の言葉なのではないだろうか。
この本も、間違いなく私の支えになる。
終わりに・今後の「外読書」に向けて
中盤~終盤にかけて会計待ちの間に読んだので、かなり泣いてしまい、ハンカチを忘れたのをたいへん悔やんだ。マスクの中で鼻は出るし……。
今後外読みの際にはハンカチを忘れず持参することにする。
それから、作中で書店がどんどんなくなっていて……、という話があり、実際私の住んでいるあたりでも一件本屋がなくなったので、せっかくなら本屋で買った紙の本しばりで外読書をしようと思う。
実際問題スマホで電子書籍を読んで泣いていると、周りから見てなぜ泣いているかわからなくて、気味悪がられたり心配されたりしたことがある。それを避けるためにも、「あ、この人本読んで泣いてるのね」とわかってもらえる方がいいかな。
長年多読で生きてきて、「感想書いてる間に本読みたい!」と思っていたのであまり感想を書くことをしてこなかったが、こうして本があまり読めなくなった分、一冊一冊を大切に読んでみるのもいいかな、と。
徐々に感想もうまくなっていったらうれしい。
4000字を超えてしまった。長々と書きましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
また外読書をした際にはこうしてnoteで外読書の感想と本の感想を書くつもりですので、読んでいただけると嬉しいです。