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目立たない街の居心地と鴻之湯
大阪の京橋から京都の木津川を結ぶJR学研都市線は実際はJR片町線という名称で、基本的に大阪府の東部から京都市の南部を走る路線ですが、大阪府の北の民の自分にとって、長いあいだ未知の路線でした。
京橋の街並みについてはなんとなく知っていたものの、その京橋から続くJR路線が存在するのを知ったのは、おそらく生まれて初めて就職活動をした頃だと思います。つまり、20歳そこそこになるまで知らなかったわけですね。
どこだったかの面接会場?の最寄り駅が鴻池新田駅だったような記憶が朧気にあるのですが、いざ鴻池新田駅で下りて、周りを歩いてみても、企業のオフィスビルがありそうな雰囲気はまるでしない。
もしかしたら、記憶ちがいなのだろうか……。でも、なぜかその時に初めて学研都市線というところを認識したような憶えはあるのだが。
今となってはその真偽を確かめる術もないのですが、鴻池新田駅の南側の一帯は、昔ながらの商店街が続いています。かつては北側にも商店街があったそうですが、現在は南側に集中して、コンパクトにまとまっている印象。
その商店街の向かいには、横にずいーっと細長いイオンが建っています。しかしこのイオン、確かに看板にはAEONと銘打たれているのだけど、ひとたび中に入れば、おお、これは……。
マイカルかサティか、それともビブレか。
わからんが、とりあえず平成のひと桁台の匂いを、確かに感じる。バブルの風に抱かれながら幼少期を過ごした俺にはわかる。
調べてみたら、このイオン鴻池店、本当に元サティだったらしい。
しかし、ここまで元サティ感の強いイオンというのもなかなかにレアリティが高いように思う。ここまで純度の高い元サティは、昨今なかなかお目にかかれない。
なぜここまで高い純度を保てるのか推測してみたのですが、イオン系列にしてはかなり珍しく、テナントにダイ○ーとユニ○ロがいないからだと思われる。このふたつは、ある種2000年代以降の日本文化の象徴のような企業なので。
その代わりに入っている100円ショップと生活雑貨ショップが「Watts」と「パレット」なのも、なんだかほっこりする。どちらも近畿圏を中心にマイペースに展開している企業です。イオン鴻池店は、あくまで地域密着でやっているようだ。
そこから徒歩2分で行ける鴻之湯もまた、偶然に通りかかることはまずなさそうな奥まった立地からして、いかにもこの地域にひっそりと収まった銭湯、という趣がある。
外装が綺麗なので、平成に入ってそれなりに時代が経過してから改装されたのだとは思いますが、そのモダンな雰囲気とは別に、何十年も昔からワレはここに鎮座しとったんや、という謎の貫禄がある。
やっぱり立地のせいかなあ。
イオンについつい気を取られてしまうものの、駅の南側の商店街も実際なかなかにディープで、おそらくイオン(サティ)ができる前は、良い意味でごった煮で、カオスな街並みだったのではなかろうか。
夜のお店の跡などもちょくちょく見えるし。今でも隠れ家のごとく、知る人ぞ知るお店はいくつかあるのかも。
鴻之湯もまた隠れ家的な立地ですが、お客さんは多く、繁盛しています。カランがほぼ埋まっている。今どきの銭湯ではなかなか見ない光景である。
なぜか鏡がすべて楕円形で、宇宙船の窓っぽいのがかわいい。洗い場の一部は椅子が石造り。石鹸置き場がいくつか用意されているのがありがたい。
浴室に入ってすぐ手前には露天風呂があります。ふつう露天風呂というのは浴室のいちばん奥にあることが多いですが、なぜかここは洗い場よりも手前にそのエリアが存在する。
灯台もと暗しな雰囲気がありますが、人気があってなかなか空かない。しばらく待ってみて、ようやく空きができましたが、なるほど、銭湯のど真ん中の位置にエアポケットのように存在するエリアだからか、妙に心地が良いのは確か。
空が四角く区切られるので眺めが良いとはいえませんが、サンルーフつきの車からの眺めのようだというか。サンルーフつきの車に乗ったこと、たぶんほとんどないけど。
サウナ料金が50円と安く、店舗そのものの面積がさほど広くなさそうなだけに、小さいサウナを想像していたのですが、いざ開けて入ってみると、10人くらい入れそうな広さでびっくり。それなりに人が入っているのもびっくり。
あくまで街の銭湯のサウナなので、めちゃくちゃととのうというわけでもなく、軽いリラックスゾーンといった感じですが、これはこれで別にいいかと思わせる居心地の良さがあり。
イオン鴻池店はスーパーのみ23時まで営業されていますが、21時台なかばの時点でも人はまばら。
辺りの人たちの多くは夜が早く、みんなもう風呂にでも入っているのだろうか。と思いきや、24時間営業の古着屋には若者が屯っているのも見えた。
決して目立つことはない、でも不思議な安らぎがある。そういう街には、そういう銭湯があるものなのでしょう。
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