昭和湯と淡路のヌルさ
阪急電車には淡路という駅があり、子供の頃は、この淡路駅こそが、かの有名なCM「ホテルニューアワジ」の最寄り駅だと思っていました。
「ホテルニューアワジ」です。正確にいえば、「♪ホテルニュ~~ア~ワ~ジ~」です。関西人ならきっと、このように音符付きで読むはずです。
関西人でない方のために説明すると、この「ホテルニューアワジ」は、淡路島にあるホテルの名称であり、関西の民は幼少時から半強制的にこれのCMソングである「♪ホテルニュ~~ア~ワ~ジ~」を聞かされているのです。
あと、「箕面温泉スパガーデン」「551の蓬莱」「関西電気保安協会」「松本引っ越しセンター」なども、多くの関西人が胎教音楽として聞かされていますが、その話だけで記事が終わってしまうので本題に入りますと、つまり、私がとても幼くて、オトンとオカンとたぶん阪神百貨店の屋上にあった遊園地に連れられていた頃のこと、淡路駅は淡路島にあると勘違いしていましたが、実際には淡路島は兵庫県の離島であり、淡路駅は大阪市内の駅でした。
それを知ったのがいつ頃だったのかは忘れてしまいましたが、高校生の頃には、休日と友達とちょっとお出かけに行くとなると、大抵は梅田ビッグシティでした。
梅田というのは、めちゃくちゃいっぱいの路線が入り乱れている大阪市北部のバビロンで、阪急大阪梅田駅・阪神大阪梅田駅・地下鉄御堂筋線梅田駅・地下鉄谷町線東梅田駅・地下鉄四つ橋線西梅田駅・JR大阪駅があります。
ええ、簡単ですね。ちなみに大阪人はJR大阪駅のこともナチュラルに梅田と呼ぶし、JR大阪駅からJR北新地駅まではかの悪名高い地下ダンジョンで繋がっているので、人によっては北新地駅も梅田あつかいだったりする場合もあり、あと最近は、おおさか東線も大阪駅に繋がりましてね……。
あ、すいません、淡路駅の話でしたね。
実は阪急淡路駅、通過駅としては認識していたものの、この駅で下りたことは、大人になるまで、いや、むしろこの数年まで、ほとんどありませんでした。
隣の十三駅は宝塚線の乗り換え駅だし、十三駅付近のある地帯は夜の街なのでフロ○スとかいう某消費者金融に名前もロゴもそっくりのキャバク○に行った前世の記憶がある。現世の記憶でいえば、近くにサウナシャンというステキなサウナ施設がある。
施設そのものもステキだが、店主?のおじさんからあふれるダンディズムもまたステキだ。キャバレーの向かいという立地と、その昭和すぎる外観に思わず最初は面喰らってしまうが、サウナ好きなら一度は行くべき場所である。
そう、昭和。
今回ご紹介するのは、淡路駅から徒歩3分という至近距離にある銭湯、昭和湯です。
もう屋号からして、昔ながらの風情あふれるレトロ感が溢れる銭湯なのかと思いきや、そうでもありません。レトロ感で勝負するなら圧倒的にサウナシャン。それに対して昭和湯は、なんだか不思議なモダニズムがある。
「昭和湯」と掲げられた看板の文字の下部には青いストライプが掛けられていて、あまり昭和っぽくない、むしろ平成くさいワンポイントオシャレをキメている。「銭湯力たったの5か……」となぜかラディッツの口調で煽ってくるノボリに迎えられ、いざ暖簾を潜ろう。
昔ながらの木札の靴箱、昔ながらの番台、昔ながらの呉座の床。脱衣場は昭和そのものである。
しかし、浴室はあまりレトロ感がない。清潔にされているから、というのもありますが、街の銭湯には珍しくボディソープとシャンプーの備え付けがあったり、シャワーが昔ながらの銭湯によくある固定式ではなく現代的な自分で取り外せる式だったり、ラドン発生ユニットが後から取り入れたような雰囲気だったり(実際にどうなのかは不明)する。
低温のスチームサウナしかなく、水風呂への導線も悪いので、ギンギンのサウナとキンキンの水風呂に行きたいサウナー層には不向きかもしれませんが、駅前でふらっと立ち寄る銭湯としては使いやすいと思います。
銭湯力5でも、というかむしろ、銭湯力が低いほうが楽しめそうな銭湯。
ラディッツにゴミ呼ばわりされたおっさんの戦闘力は5でしたが、昭和湯はラディッツほどの強敵ではなく、ピラフ一味くらいのヌルさなので、装備が頼りなくても充分に対峙できる。シャンプーとリンスが用意されているし、自分は頼んだことないけどフェイスタオル1枚なら無料で貸してくれるらしい。
ゲストハウスも運営されているらしく、そちらはガッツリと昭和仕様の部屋に泊まれて、さらにゲストハウス宿泊者は昭和湯に無料で入れるとのこと。
淡路駅前は意外と飲食店があまり見つからず、そんな中でたまたま訪れた「黄金の道」というカレー店がとても良かったです。「きんのみち」と読むらしい。メニューがめちゃくちゃわかりやすく、「カツカレー」と「その日のカレー」のみ。あまり辛くないあっさり風味ですが、言えば辛くしてもらうことも可能かもしれません。
作り置きをしないみたいなのと、おそらく店主さんのワンオペなので、待ち時間はありますが、常に出来立てが食べられます。全体的に店内の雰囲気がゆるく、煮込みを待つ店主さんが常連さんっぽい人と延々と野球の話をしているのもなんか良い。
淡路も活気のある街ですが、梅田や十三に比べると都会感は薄く、かといって閑静でもない、ちょうど良い湯加減。
梅田や十三だと、せっかく都会に出たんだから、あっちもこっちも寄ろう、というように気持ちが荒ぶってしまいますが、淡路だと、まあ、気持ち良い銭湯に行けて美味いカレー食えたからそれでいいか、帰ろう。となる。
このヌルさのせいで、今でも淡路に他にあるのか、よくわかっていない。
サウナはたのしい。