ボーッとできない

日頃の平均睡眠時間は7時間ほどなのですが、本音をいえば10時間は寝たいし、なんなら月イチで3日くらい寝たままで過ごしたいくらいには、寝るという行為が好きです。

「あったかい布団でぐっすり寝る、こんな楽しいことがあるか」という野比のび太氏の名言にもあるように、睡眠は人間の負の感覚のすべてを取り払ってくれる。

思えば自分が最初に銭湯やサウナにハマった理由も、スーパー銭湯の休憩スペースなら外で寝ていても誰にも何も言われないから、だったはず。飲食店で机に突っ伏して寝たら怒られるし、電車内ではそうがっつりとは寝られない。

じゃあスーパー銭湯の休憩スペースではがっつり寝ているのかというと、実はそうでもありません。たまに鼾をかいてがっつり寝ている人を見かけますが、あれになるにはまだ修行(？)が足りない。

他人に自分の鼾を聞かれるのも恥ずかしい。少し前に、寝ながら起きて起きながら寝ている時に、偶然にも自分の鼾の音を自覚してしまってなんだか凹んだので。

鼾って自覚するとなんか凹みません？え？寝ながら起きて起きながら寝ているってどういうことかって？そりゃまあ文字どおりです。私のように睡眠を極めた者は、もはや二度寝とか三度寝とかいう概念では図っていません。寝ながら起きて起きながら寝ているのです。

なのでがっつりは寝ませんが、サウナの中で寝ているフリをすることはあります。というか、テレビのないサウナでは寝ているフリしかすることがありません。

意識の高い言い方をすれば、いわゆる瞑想というやつですが、実際のところは全く心頭滅却できていません。むしろ真逆でして、……恥ずかしながら、なぜかエロいことばかり考えてしまう。

まあ、自分の脳内には常に睡眠と銭湯と角ハイボールとエロしかなく、3大欲求に忠実なのでいつものことではあるのですが、なぜかいつもより激しいエロいことを考えてしまう。

その具体的な内容をここに書いても良いのですが、今や巨大SNSサイトであるnoteには健全な未成年のユーザーさんも多数いらっしゃるので自重するとして、なぜかやたら妄想が捗る。私が同人作家なら、薄い本が5冊くらい描けている。しかもちょっと特殊なジャンルの……。おっとこれ以上はいけねえ。

なぜそうなってしまうのか、しばらく考えたのですが、ボーっとすることって、なかなか難しくないですか？そして、たぶんその原因の大半はスマホの存在だと思われる。

これひとつで、なんでもできる。

本が読める。アニメが視られる。音楽が聴ける。文章が打てる。その文章を世の中に晒すこともできる。インターネットの大海には、貝殻も、海藻も、宝石も、誰かが捨てた空き缶も、誰かが書いた「080-xxxx-xxxx 即ハメOK」というメモも、雑多にたくさん落ちている。

要するに、スマホは情報量がものすごく多い。それを毎分毎秒と見ているわけで、ボーっとする隙間がない。

『野原ひろし　昼メシの流儀』は『クレヨンしんちゃん』のひろしを主人公としたスピンオフ作品で、敏腕営業マンの野原ひろしがいろんな昼メシを食べに行く漫画ですが、昼休みに外食した際にスマホを持っていくのを忘れ、さらに調理に時間がかかる釜飯を注文したために、待ち時間を持て余してしまい、他にすることがないので、店内を隅々まで観察する、という話があります。

その話中でのひろしは(彼の脳内で)語ります。「何もしない　ただ静かに待つ」「情報だらけの昨今　こんなに落ち着く気持ちになったのはひさびさな気がする」

これがひろしが到達した「ただ待つという贅沢(極上の昼メシを食べるために)。」である。ページの3分の2を占める大ゴマでキメ顔をする彼の姿は菩薩のようです。ただ昼メシ食ってるだけだけど。

メニューがメニューとはいえ、20分以上も待たせる店など今時すぐにGoogleに☆ひとつ評価で長文の悪口を書かれそうだし、ましてやひろしがいつも食べ歩いているところなんておそらくオフィス街だし、昼間は客の多くが急いでいるだろうから、そのような店が実在するのかどうかはわかりませんが、もしそこまで待たせる店に自分が入って、果たしてスマホなしでボーっとし続けられるだろうか。

店内を見回すにも限度がある。このラーメン屋には『受験の帝王』全4巻があるのか……、というくらいの感想しか出てこない気がする。飲食店の本棚の20年前の月刊マガジン率の高さよ。

しかし、漫画も雑誌も置いていなければ、どうすれば良いかわからない。終いには、公共の食事の場で、あんなことやこんなことを妄想してしまうかもわからない。

そもそもこれを書いている今が、モスバーガー待ちの真っ最中なのである。モスバーガーなのでもちろん20分も待たされることはない。というか、ついさっき、文字を200個も打たないうちに来た。

スマホを置いて店内を見渡したいところだが、別のウインドウでXを見てしまうし、本も読みたいし、別のnoteも書きたいし、いやそれよりもチーズバーガーを冷めないうちに食べないと……。

現代人は忙しい。