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短編小説1000字

100
大体1000字くらいの短編小説です
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2024年10月の記事一覧

短編小説 マッチの男

 随分と肩身が狭くなってしまったが、良樹は喫煙者だった。子連れの母達が生活圏のトイレの場所を把握しているように喫煙できるスポットを良樹は知っていた。

 この小さな公園に隣接するコンビニには、細長い灰皿が置いてある事は知っていた。ただ、いつ撤去されたのかは知らなかった。
「まいったな」
 この辺りの吸える場所はあとは個人経営の喫茶店だけでそこのマスターは話好きなのだ。良樹が煙草を吸いたい時は、大体

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短編小説 運命の人

 鼻の大きな人だった。鼻の左横にはおできのような大きなほくろもあった。奈津子は卓司の鼻から目が離せなかった。
 じっと見ているのが失礼な事だとわかっている。だが駄目だと思えば思うほど、卓司の鼻が気になる。大きな鼻が好みな訳ではない。ただ、顔の真ん中で主張する鼻が奈津子の心を掴んだのは確かだった。
 卓司は微笑んだまま、スープを飲み、サラダを食べ、肉を咀嚼し、時々他愛ない会話を奈津子に振った。奈津子

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