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短編小説1000字

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2024年9月の記事一覧

短編小説 結婚適齢期

 アニサキスを見たのは初めてだった。切り身の鰤に塩を振る時に気がついた。キッチンペーパーを一枚取りアニサキスを引き出す。節のないミミズのようなそれを取り除き、手順通りに塩を振る。行洋は無の境地でそれを魚焼きグリルの中に置いた。火をつけると次第に鰤の焼ける良い香りが立ち上ってくる。しかし食べる時にアニサキスの事を忘れられるだろうか。

 行洋が自炊を始めたのは不摂生が祟り健康診断でCを貰った為だった

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短編小説 デビュー

 今日もチケットは売れない。タクミはあと二十枚ほどある自分のライブのチケットを眺めながら短く息を吐いた。
 売れる人には売ってしまった後である。初めは付き合いで買ってくれる人もいてなんとか捌けた枚数だが、毎回となると厳しいのである。タクミは月一でライブをしている。
 弾き語りのアコースティックなライブである。いつかはバンドを組みたいが、まだいい出会いがない。何曲かはカバーをやるがオリジナルで勝負し

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