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研究/探究の9割は問いで決まる

専門分野(教育学)の性質上、大学院生でも学校教育に関わらせていただくことが度々あります。
特に多いのは、高校の「総合的な探究の時間」。
そして、「調べ学習にならないようにするにはどうしたらいいですか?」という質問を先生方からよくいただきます。この質問は、高校生をどう探究へと導けばよいのか、という単なるハウツーより、調べ学習と探究がどう違うのか、ということから答えていく必要があると思っています。

(個人的)ショートアンサーは、すでにある答えを知りたいのが調べ学習、まだない答えを出したいのが探究、です。
でも、話はそう単純ではありません。

私自身も、高校生の探究指導に関わらせていただいて4年目。大学院生として培ってきた研究のスキルを、どう伝えれば高校生にもわかってもらえるか、ということを試行錯誤してきました。なんとなくコツを掴んできたような気がするものの、言語化する機会がないので、noteとして書くことに。
悩みを共有する誰かに届けば一石二鳥、です。
そういうわけで、大学院生として研究に向き合ってきた中で「良い問いを立てるためのポイント」をまとめてみました。卒論で悩んでいる大学生にも届けばいいな、と思います。


0. 大前提

文系院生の私見です

私は、人文社会科学、いわゆる文系分野の院生です。
教育学は、その中でも、探究する対象の名(教育)を冠しただけで、方法としては学際的な学問ではあります。ですが、私個人の研究は、哲学分野を中心に本や論文を読んで、新たな理論を構築していく手法をとっているので、誤解を恐れずに言えば、コテコテの文系なわけです。
理系分野の研究に対するスタンスや発想とは、違いがあるかもしれないことを予めご了承ください。

「総合的な探究の時間」の時間数が足りない

探究は、次のようなプロセスで展開されるということになっています。
①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現
もちろん、この①~④は、直線的ではなく、②から①に戻ったりもするし、一連のサイクルとして繰り返されるものです。
では、このサイクルを1年間でやるとしましょう。
そうなると、①の課題設定は、1カ月とか2カ月そこらでやらないといけないことになってきます。仮に、このサイクルを1年で2周したいなんてことになれば、もっと短い時間で課題を設定しなくてはいけません。
しかも、探究の時間として取れるのは週に1コマが限度でしょうし、学校行事等で、それより少なくなる可能性大です。
ところが、課題の設定、つまり問いを立てるという段階は、探究の質を左右する、最も重要で、最も難しい、時間のかかる段階です。
大学4年生の卒業論文だって、問いを立てるのに苦労するのですから、関心がある分野も定まりきっていない高校生が、1-2カ月でいい問いを立てられるはずがありません。カリキュラム上の限界です。

いい問いを立てるためのステップをわかりやすく解説してくれた本があります。すでに話題になっていますが、かゆいところに手が届く良著なので、もっと広まれと思っています。

1. 「○○について」からの脱却

探究を始めるとき、最初に決めるのは「何を」探究するか、です。
それは、グループでの探究でも、修学旅行を活かした探究でも、どんな探究の形態でも変わりません。

そのときに「テーマ」を決めよう、とだけ言ってしまうと、高校生は自分のワークシートに「○○について」と書いてしまうかもしれません。そこには、問いが含まれていない。つまり、「○○について」の基本的な情報を調べて並べて、それで終わってしまう可能性が高いです。
先に紹介した『リサーチのはじめかた』にもはっきりと書いてありますが、「テーマは問いではない」からです。テーマを決めたら、さあいよいよ探究だとはいきません。次に決めなければならないのは問いです。

問いを決めるときに大事なのは、「自分がなぜそのテーマに関心があるのか」です。これまでの人生のどこかに、そのテーマに心惹かれる具体的な経験=原体験があったはずです。原体験がないとだめ!というわけではないですが、重要なのは、「なぜそのテーマにしたのか説明できること」です。
そして、その説明をしようと思うと、自分自身のこと、そのテーマのことを深く知る作業が始まります。そのステップが必要なのです。

2. 良い問いに必要なのは「調べ学習」

調べ学習と探究の違いは何かという質問のショートアンサーとして、すでにある答えを知りたいのが調べ学習、まだない答えを出したいのが探究、と言いました。そして、話はそう単純じゃない、とも。

私は、いい探究をするためには、たっぷり調べ学習をする必要があると考えています。なぜなら、あるテーマのなかで「まだ答えのない問い」を立てようとすれば、「すでに答えのある問い」が何なのか、知らないといけないからです。
ああ、ただ、誤解しないでいただきたいのは、「すでに答えのある問い」でも、その答えを疑うところからも探究は始まります。何かを調べた時に「納得できないよ」という直観はぜひ大事にしてほしいです。もちろん、なぜ納得できないのか、きちんと言葉にしましょう。

でも、これだけでは高校生に「問う前に知ること」の重要性は伝わらないものです。具体例で示してみます。私がハリー・ポッター好きなので、ハリー・ポッターをテーマとして考えてみましょうか。

ハリー・ポッターに詳しい私と、全然知らない友達Aさんがいたとします。

まず、ハリー・ポッターの世界では、魔法族と非魔法族(マグル)が共存しています。魔法族は、マグルにその存在を知られないように気を付けながら。でも、魔法界では、たいていのことが魔法でできちゃうので、マグルの開発した機械はほとんど使いません。もちろん電話も。基本的な連絡手段は、ふくろう便とか、動く肖像画に伝言を頼むとか、ペアになっている魔法の鏡で片割れを持っている人とだけ話せるとか、そんな感じです。
私はこう思います。「緊急の連絡をとりたいときめっちゃ不便じゃん、もっといい魔法の道具開発できないかな?」

一方、ハリー・ポッターのことを「魔法使いの話」ということくらいしか知らないAさんは、「へぇ~、11歳になったら魔法学校に入るんだ、入学するときペット飼っていいんだ。でもなんでふくろうが人気なの?」みたいなことを疑問に思うかもしれません。魔法族の人たちからしたら「なんで連絡手段が必要なの?」くらいの質問に聞こえるでしょう。
しかし!Aさん、実は鳥類にめっちゃ詳しくて、「え?ふくろうって伝達手段に向いてなくない?」と思ったとしたらどうでしょうか(※実際そうなのかはわかりません)。「魔法族にとってぴったりの鳥はどの鳥か?」という問いに発展できるかもしれません。

良い問いを立てるには、たくさんの知識が必要です。
「調べ学習か探究か」ではありません。「調べ学習あっての探究」です。

3. 質問上手になろう

さあ、問いを立てよう、と思ったら、一人で考える時間が必要!と思ってしまってはいませんか?
それももちろん必要ですが、意外と忘れがちで、大事なのが、「人の研究に質問すること」です。

大学生は、3年生くらいになったら、たいてい「ゼミ」という近いテーマに関心を寄せる人たちの集まりに参加しますね。そこでは、人の発表をきき、質疑応答する時間があるでしょう。
高校生なら、関心の近い友達でも、仲の良い友達でも、他人の探究の話をきく機会をつくるのです。

そうは言っても、質問するのは勇気がいります。
私も、学部生時代は、ゼミで質問することに異常な緊張感を抱いていました。今ではもうかかないような量の手汗と脇汗をかきながら、「この人の次、この人の次」と心のなかでつぶやいて、手を挙げました。
「あっ、あの、ここでいう高等教育っていうのは、4大のことを想定していますか?それとも短大とか、専修学校も入りますか?」
「特に限定はしていないです」と先輩。
「あ…そうですか…」となりかけたとき、先生が「僕もそこは気になった。学校種によって事情は違うから、明確にしておくといいよ」とフォローしてくれました。
今思えば、先生は、私がまだ2年生のぴよぴよであることを気にかけ、意識的にフォローしてくれたのかもしれません。それからは、質問することが少しだけ怖くなくなりました。

似たような話は、森野キートスさんもしています。
というか、私は、大学院入りたてのときに、この記事に感動して、森野さんのブログのファンになりました。今は更新がなくて寂しいのですが、こんな書き手になれたらいいな、とひそかに思っています。

質問するということは、相手が自分から話した内容には含まれていない新しい情報を引き出すことです。質問するためには、相手の話をよく聞く必要があります。質問しようと思いながら、考えながら注意深く聞きます。
その過程が、問いを立てる訓練として大事なのです。

さいごに

もう少しいろいろ書けそうな気もするのですが、あんまり長くなってもいけないので、今日はこのへんで。

良い問いを立てるというのは、一朝一夕にできませんし、頭を使うと、とんでもなく疲れます。
私は、自分の意志で研究の道を選んだくせに、研究をほっぽりだして、適当な働き口を見つけて、生活に困らない程度に稼げればそれでいいやと思うことが度々あります。

でも、宮崎駿さんが、『プロフェッショナル―仕事の流儀』で言っていたように、「世の中の大事なことってたいてい面倒くさい」んですよ。面倒くさいけど、そのなかにたまに面白いが混ざってる。砂金を集めるような気持ちで、研究をやっています。

さあ、これからゼミの時間です。


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博士のたまご
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