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医療職の人に自己実現を考えてもらう前に整えるべきコト

理学療法士で20年以上働き、役職者として部下との目標設定面談も多く経験させてもらった。
その中で、本当にやりたい事が分かっていない職員が多いと感じた。仕事の目的は何か。何を成し遂げたいのか。
医療職に仕事人生設計の支援が必要と思い、キャリアコンサルタントの資格を取得した。今後は医療職へキャリア支援を提供していこうと活動中である。
しかし、すべての人が仕事の目的について考えられる状況なのだろうか。医療職ならではの環境が、自己のキャリアを考えることを困難にしているかもしれないと思った。
そこで、今回は仕事の目的や目標を考えられるための、必要条件・基盤になるものについて書いてみようと思います。


身体的な健康問題

病気や怪我、痛みなど、慢性的に身体的な健康に問題があると、将来の目標なんて考えられる余裕はありません。また、生活習慣の乱れとして、食生活や睡眠の質が悪いことで、病気にはなっていないが、良い身体状況ではない時も同じ事が言えます。このような状態では適切な目的を考え抜くことは困難だと思われます。

まずは身体的な健康のために改善すべき習慣や治療を受け、身体的に安定することが必要になります。こちらを優先的に支援することになります。

また、より健康的な身体を作るために、適度な運動や食事、睡眠時間を見直し、脳の機能を上げる事も重要です。

経済的な不安定

借金やローン、想定外の支出などで経済的に窮地に立たされている場合も将来の目標どころではありませんね。

金銭面の援助は基本的には出来ませんし、個人的な理由や要因も含まれているので、積極的に聞き出すことも困難です。
基本的には経済的安定のための策を共に考えたり、見通しが立つまで焦らずに待つのが良いかと思います。

もちろん経済的に不安定な状態であっても、見通しが立っており、不安感が消失していれば、問題なくキャリアを考えられる状態だと思います。

ストレスや過労

様々な職種や人とのやりとりが必要な病院や施設での勤務。人間関係の問題や上司からのプレッシャーや威圧的態度、患者さんや利用者さんとのトラブル、ご家族からの過剰な要望やクレームなどストレスを感じる場面は多いと思います。このように心身ともに疲弊している状態も目標を考える余裕が無くなります。
特に人間関係で問題があると、所属するコミュニティの一員となりたいという欲求が、先んじて解決したい事になります。

家庭環境の問題も心身を疲弊させる要因になります。仕事以外で生活する場にストレスが多ければ、心の安定がとれずに考える余裕が無くなります。

また、残業時間が多く、仕事をしている時間が多すぎれば、自分の事を考える時間を取ること自体が難しくなります。身体面の疲労は集中力や判断力を落とします。
実際の医療職は、過労と職場のストレスの両方が多くなっている人も少なくないと思います。その中で、最新知見の情報収集や自己研鑽など、仕事以外でも「すべき事」が多くあり、自分の事は後回しの状態になっていませんか?

自己否定感

病院の働き方の特徴として、医療事故などのインシデント、アクシデントを起こしてはいけないというプレッシャーが常にあります。その中で働くということは、ミスをしない事は評価される事ではなく、当たり前なんです。ミスをすると、防止するという観点で、どんな小さいことでも報告書を作成し、原因を考え、再発予防に取組むという流れになります。プラス評価の項目は少なく(患者さんが改善してもチームで治療しているため、特定の人が評価されることはありません)、マイナス評価の項目は無数にあります。小さなことにも再発予防としてルールが追加されるので、無数のルールを把握している必要があるのです。100個のルールを守っても1個のルール違反でインシデントが起きれば、その失敗だけがピックアップされます。

自分の失敗をピックアップされることが続けば、自己否定感が強まります。隠蔽する環境も育ちやすくなりますね。私も業務が終わるとホッとするのを感じていました。「今日も事故なく仕事ができた」と。つまり、自分を守ることで精一杯な状態なんです。失敗やミスを避けることが最優先だと無意識化で刷り込まれ、挑戦する気力を失います。そして少しずつ、少しずつ自己有能感は削ぎ落とされ、自己否定感が強まっていく性質が医療職は多いと感じます。

自己研鑽も医療職として当たり前というような暗黙の了解があり、自己研鑽していないことは、真剣に患者さんと向き合っていないからだと自分を責めるようになります。自己研鑽もやって当たり前であり、やらなければマイナスという風潮も感じていました。

そんな職場で頑張っている医療職の方々に、自己有能感や自己肯定感、自己効力感を十分に感じて欲しいと思います。目標を考える前にこれらを充足することが必要だと思います。

自己犠牲的な態度

「患者さんに手を差し伸べたい」
「患者さんのためになりたい」
言葉を変えれば、他者の期待に応えたい。
医療職の方々は特にこのような考えを持っている人が多いと思います。違う見方で考えると、自分の目標や欲求よりも他者の欲求に応えることを優先してしまう。また、自分に使うエネルギーや時間を他者のために使いすぎてしまう。

人に貢献していれば、自分の価値を証明できる。だから自分を守るためにも他者貢献を最優先にする。そのような人も多いと感じていました。自己価値感が低く、それを補うために必死で他者貢献をすると、自分の目的を見失うようになります。自分軸がないのも加わって、患者さん以外にも上司や周囲の期待にも応えようと頑張ってしまいます。

このようになると、自分の目的を考える思考はありません。
まずは自分のことを考えるきっかけをつくり、自分の価値を自分が認めるように支援していくことが良いと思います。

時間的ゆとりがない

仕事中はルールを遵守して、インシデントを起こさないよう気を許せない時間を過ごし、人間関係や様々な問題にも気を配る。時間内に終る業務量ではなく、残業時間も多い。仕事が終われば自己研鑽の時間、体調管理も仕事の内と食事や睡眠時間にも気を配る。

こんな毎日を過ごしていれば、自分のことを考える時間的なゆとりは出てこない。

つまり捻出するために、計画を立てる時点で確保しなくてはいけない。

そのためには、長期的な目標を考える必要性の理解や最優先事項の確認が重要だと思います。自分の人生で最も重要で必要な行動は何か。その時間を最優先で確保する計画を立てるように支援することが必要です。

まとめ

仕事の目的を考えてもらう前に、整えておきたい事を挙げてきました。
これらの基本的な考えにはマズローの欲求5段階説があります。

生理的欲求:身体的な健康問題
安全の欲求:経済的な不安定
社会的欲求:人間関係などストレス
承認の欲求:自己否定感(自己価値感)

自己実現の欲求の下位にはこれらの欲求がある。すべてを満たさないと上の階に上がれないという事ではない。しかし、基盤としての欲求が満たされていれば、自己実現の欲求(仕事人生の目的)を考え抜く可能性が高まる。

逆に言えば、基盤が不安定なら自己実現について考えたり、実現のために諦めずに継続して行動するという可能性が低くなる。

医療職の方々にキャリア形成支援をしたいが、すべての人がキャリア形成のタイミングとして適切な訳ではない。今の仕事の悩みが何かを的確に把握し、支援していこうと思う。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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