【ネタバレ注意】仮面ライダーBLACK SUNが何を描きたかったのか
2022年10月28日にprimeVideoにて一挙配信された仮面ライダーBLACK SUN
一挙配信であるが故に視聴ペースに個人差が生じていると思うが、少しでもネタバレを回避したいという気持ちもありツイートではなくnoteで書き残していこうと思う。
この作品、結論から言うと本当に面白かった。故に、いくつかの問題点が浮上しそのエピローグには消化不良感だけが残ってしまう。この言語化し難いモヤモヤを文字にすることで消化していく自己満足の文章を書き連ねていこうと思うので未視聴の方はここでブラウザバックし全10話の仮面ライダーBLACK SUNを視聴して欲しい。そして既に視聴した方は自身の考えや感想と照らし合わせながら読み進めて欲しい。
1.リアル過ぎる政治と差別問題のメタファーは必要だったのか?
1話から政治的主張のデモとそのデモに対するカウンターデモという構図が描写される。その他にも作中に登場する朝鮮の民族衣装やハングルは暗に在日朝鮮人の差別問題が怪人差別に置き換えて描写していることは明らかだ。
また、国会答弁の様子も仮面ライダーという作品らしさとは掛け離れた現実味を帯びた生々しいものだった。これらに始まる政治が腐敗している描写は現実における政権批判だとも受け取れる。(明らかにあの政治家をモチーフにしていそうな配役)
そして1972年の過去編におけるゴルゴムの描写は日本赤軍のそれを連想させるものだった。
挙げるとキリがないほどに現実とリンクする差別問題(怪人差別≒在日差別問題)
や政治の問題は仮面ライダーという作品に必要だったのだろうか?
人によっては序盤のこの政治的な主張や描写に辟易して視聴を止めてしまったり否定的な評価をつけてしまったりしているのではないだろうか。
個人的にはこういったテーマを扱うことには賛成である。しかし、それを正しく料理できてこその賛成であって、それらをうまく扱いきれないのであれば否定的な意見が出ても仕方がないと思う。
では本作はどうだっただろうか?個人的にはバランスが悪かったとしか言いようがない。
2.南光太郎と秋月信彦の物語
仮面ライダーBLACKの本質はこの2人の物語だ。この二人が怪人にされてしまった悲劇とその背景が作品を通して丁寧に描ききれていないように感じている。
というのも①1930年代に人間兵器として怪人が研究されていた(これは現実における満州国731部隊がモチーフかと思われる)②1972年には反政府ゲリラとして活動していたゴルゴム③2022年、怪人2世が生まれ差別が日常的に繰り広げられている世界
この3つの時間軸が複雑に断片的に描かれ、そこに多くの登場人物がそれぞれの思惑、異なる行動原理で動いていく群像劇としての色が強く製作されていることから2人の背負っているものがうまく映像として描き切れていないように感じる。むしろこの2人の描写を丁寧に扱っているのであれば先に挙げた政治的メタファーは作品に深みを与えるものとして評価できる。個人的な不満の大部分がこの南光太郎と秋月信彦の過去、1972年の描写を丁寧に扱って欲しかったところだと思う。
3.ニックというヤバい奴
怪人になりたいからという理由で友達を売った挙句騙され怪人にさせてもらえず、その後も葵たちと何事もなかったかのように同行する。この精神がヤバ過ぎる。最終的にはなんと怪人になってしかも喜んでいてこの作品に少ない生存ルートを辿った作中一番のハッピー野郎。そもそも葵も怪人にされた後にニックに会って許してしまうあたりが作品としてどうなのかとも思ってしまう。自分だったら釜で…
そんなニックがなぜあそこまで怪人になりたかったのだろうか。ニックの周りには怪人が多く存在した。差別という敵と立ち向かい、己の正義のために戦う様に憧れを抱いていたといえば多少ニックの評価も上がるのではないだろうか。
4.悲惨すぎるエピローグ
10話で光太郎と信彦は戦いの中で対話し、決着をつけた。光太郎の自己犠牲の上で怪人が生み出され続ける歴史に終止符を打つことができた。これだけ見るとハッピーエンドなのだが、この作品ここで終わらなかった。
創世王がいなくなっても怪人差別がなくなるわけもなく、政治にしても内閣総理大臣が変わったところで良くなるわけでもない。正義のヒーローなんていないのではないかと言わんばかりの現実を最後の最後で見せつけてくる。挙句、葵は少年少女を集め少年兵の育成・爆弾の製造を行い現政権への反政府活動を進めているところでこの作品が幕を閉じる。
ある意味リアリティがあるのだけど、それじゃおじさんが報われなさすぎではないか?せめて葵がもう戦わないで済む終わり方だったら綺麗に終わっていたように感じる。このエピローグを見せつけられたせいでモヤモヤが永遠に残ってしまっているのはきっと私だけではないと思いたい。
5.終わりに
この作品が何を描きたかったのかということを考えれば考えるほど、分からなくなってくる。仮面ライダーBLACKのリブート作品でありながら、差別というセンシティブなテーマに異様な雰囲気を漂わせる。そしてテロリズムを賛美し政権を批判するその作風はある意味大人向けというレッテルを貼られて仕方のない作品と言える。様々な解釈ができるとはいえ、エピローグで描かれた葵の決意こそが、この作品を通して貫いて描かれてきた正義の象徴なのかもしれない。長い歴史、次の世代にバトンを渡しながら理想を追い続ける。本当の平和が訪れるまで終わらない戦いに身を投じる覚悟を決める葵の物語だったのかもしれない。
個人的にはビルゲニアの怪人態は白塗りの顔であって欲しかったです。