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プレシャス(2009)

人に愛されなかった少女が知った本当の愛
辛いけれど希望に満ちた佳作

原作はアメリカの女流作家サファイアのデビュー小説『プッシュ』。

悲惨な境遇にいる黒人の少女の物語なので辛いシーンも多いですが、素晴らしいメッセージが込められたヒューマンドラマです。

【ストーリー】
1987年ハーレム。16歳の少女プレシャス(ガボレイ・シディベ)は幼い頃から父親に性的虐待を受け続け、父の子を2人も妊娠してしまいます。家に引きこもる怠惰な母親からは「自分の男を取った」と憎まれ、暴言や暴力を繰り返されます。
そんな過酷な境遇にいるプレシャスが、人生に希望を見つけて歩き出すまでの道のりが描かれています。

絶望的な現実に打ち勝つ術は、夢を見る力なのかもしれません。終始、不機嫌で仏頂面のプレシャスですが、その頭の中はとびきりの想像力大きな夢で溢れています。

両親から暴行を受けている時や、男子生徒にいじめられている時に思い描くのは、憧れの先生との恋愛や、スターになった未来。きらめくスポットライトの中、ゴージャスなドレスでポーズを決め、満面の笑みを浮かべるプレシャスのおちゃめなこと。衝撃的な現実シーンの狭間で挿入されるポップな空想シーンは救いになっています。

プレシャスは父親の2人目の子を妊娠したことが高校にばれ、問題を抱えた子供が通うフリー・スクールへと送られることになります。悲惨な家庭環境のために16歳で読み書きもできないプレシャスは、そこで自分と似たような境遇の少女たちと出会います。

始めのうち、少女たちは互いに反発し合い、授業中もふざけてばかりいましたが、献身的な女性教師レインの熱心な指導や、プレシャスの出産を通し、人を愛する喜びに目覚めていきます。

フリー・スクールを通し、自立を決意したプレシャスですが、彼女が真の幸せを掴むためには乗り越えるべき大きな壁があります。心の内に秘めてきた父の虐待を告発し、その蛮行を知りながら許した母に罪を償わせることです。

“プレシャス”という貴い名前を与えながらも、なぜ母が娘にひどい仕打ちをしたのか。母親がその理由を告白するクライマックスシーンは圧巻です。人を愛するという理屈では解明できない感情について、深遠な問題を突き付けます。

母親を演じたモニークは米アカデミー賞助演女優賞に輝きましたが、彼女の鬼畜ぶりは本当に恐ろしいです! アカデミー賞の受賞スピーチでは、夫から「正しいことをすべき」と言われて、「役を演じる決意をした」と語っていましたが、人気コメディエンヌのモニークが稀代の憎まれ役を演じることは本当に大きな冒険で勇気のいることだったと思います。彼女の決死の思いが本作に大きな説得力を与えているような気がします。

デビュー作でプレシャス役に挑んだ新星ガボレイ・シディベ、プレシャスのカウンセラー役のマライア・キャリーや看護師役のレニー・クラヴィッツら、大胆なキャスティングも奏功しています。深刻な物語の中、彼らの自然体の演技は切なく胸に迫ります。

監督・製作のリー・ダニエルズは黒人初のアカデミー賞監督か、とも期待されましたが、抜擢した異色の俳優陣から名演を引き出し、学ぶ機会や親の愛のない家庭が存在するアメリカ社会の実相を描き、辛い題材を希望に満ちた佳作に仕上げた手腕は見事。

ぜひ多くの人に見て欲しい作品です!

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