ボヘミアン・ラプソディ(2018)
音楽、自由、そして愛を貪欲に求めた
フレディ・マーキュリーの激動の人生
イギリスの人気ロックバンド、クイーンのボーカル兼ソングライターとして活躍したフレディ・マーキュリー。1975年にフレディが創り上げた『ボヘミアン・ラプソディ』はクイーン屈指の名曲で、クイーンを伝説的存在に押し上げた1曲と言っても過言ではないでしょう。
ロックとオペラを融合した独創的で斬新な曲調が良いのはもちろんのこと、人を殺してしまった少年の懺悔のような衝撃的で難解な歌詞からは、自由を渇望しながらも、ままならない人生を生きていくことへの苦悩と葛藤がひしひしと伝わり、深く胸に迫ります。
その曲名をタイトルにした本作は、クイーンの成功の裏に秘められた、孤高の天才フレディの光と影を明らかにしています。
映画の序盤では、移民差別を受けてもなんのその、若い頃からフレディは相当の自信家で野心家だったことが伺えます。
ワゴン車1台で各地のライブハウスをめぐる“どさ周り”のようなツアーを嫌ったフレディは、ワゴン車を売却して自主アルバムを制作することを提案。そして、オリジナルの音楽を作るために行った、はちゃめちゃなレコーディングの様子がEMIのA&Rジョン・リード(エイダン・ギレン)の目に留まり、見事デビューを果たします。
革新的なクイーンは人気を博し、世界ツアーを行い、フレディは恋人のメアリー(ルーシー・ボイントン)と婚約。ヒット曲『キラー・クイーン』を超えるために、フレディが満を持して作った『ボヘミアン・ラプソディ』は突飛な展開と6分間の長尺により、シングル化をめぐり、EMI幹部と対立したものの、フレディの奇策が功を奏し、大ヒットを記録。クイーンの人気を不動のものとし、フレディは充実した人生を手に入れたかに見えました。
しかし、EMIのマネージャー、ポールと出会い、ゲイという自らのセクシャリティに気づいたフレディは不安定になっていきます。
メアリーとの別れ、愛する家族を持つメンバーとの溝。仲間たちとの決別を招いたソロ活動は想像以上に重圧がのしかかり、フレディは孤独や不安を紛らすように酒や薬、男性の愛人たちを求めます。そして、その先には不治の病が待ち受けていました……。
物語後半、溢れんばかりの才能を持ちながら、自らの存在に悩み続け、転落していくフレディの姿は、皮肉にも『ボヘミアン・ラプソディ』の歌詞を体現しているかのようです。しかし、自らの死を受け入れたフレディは自らを取り巻くすべてのことを受け入れ、限りある命のゴールに向かって駆け出していくのです。
映画のクライマックスには、そんなフレディの前向きな決意表明にふさわしい舞台が用意されました。それは、1985年に開催された20世紀最大のチャリティコンサート「ライブエイド」のステージ。フレディ自身が圧巻のパフォーマンスを繰り広げた伝説のライブを、主演のラミ・マレックが渾身の演技で再現しています。
エジプト系のラミ・マレックはファミリー・エンターテインメント映画『ナイト・ミュージアム』シリーズで「展示物」の若きエジプト国王アクメンラーに扮するなど、そのエキゾチックな風貌が特徴的ですが、本作では顔や体型、動きやしぐさまで、見事にフレディになり切っていて、本当に驚かされます。
米アカデミー賞主演男優賞に輝いたマレックのほかにも、穏やかな面差しのブライアン・メイなど、クイーンのメンバーを演じた俳優たちはみんなどことなく本物に雰囲気が似ており、物語をリアルに感じさせる俳優たちの演技は本作の見どころの一つです。
監督は『ユージュアル・サスペクツ』(’95年)、『X-MEN』シリーズ(’00年~’16年)のブライアン・シンガー。フレディの激動の人生を、クイーンの名曲の数々をちりばめながら、テンポよく描き、見応え十分です。
特に、ライブエイドシーンでの『ボヘミアン・ラプソディ』からの『レディオ・ガガ』、『伝説のチャンピオン』、そして、エンドロールの『Don’t Stop Me Now』まで、クイーンの楽曲を畳みかけたラストが爽快です!
それにしても、フレディが45歳の若さで逝ってしまったことが改めて悔やまれます。圧倒的な歌声と、奇抜なのに心に沁みるメロディ、そして、厳しい人生を生きる人々に寄り添う歌詞――。さまざまな人生経験を乗り越えたフレディの作る楽曲をもっと、もっと聴きたかったです。
*****************************************************************************
【実在のミュージシャンの人生を描いた映画なら、こちら👇もどうぞ】
ポップ・スター、エルトン・ジョンの激動の半生
元天才子役ジュディ・ガーランドの哀しき晩年