サイドウェイズ(2009)
寄り道しながら生きることの味わいを日本人の視点で描く
大人のためのロマンチックなヒューマンドラマ
大人になりきれない2人の中年男が、ほろ苦い恋愛を通して人生を見つめ直すハリウッド映画『サイドウェイ』。
アカデミー賞作品賞候補にもなった味わい深い名作を日本人キャストでリメイクした本作は、ほろ苦い現実を送る大人のための青春映画です。
旅の目的の一つは、鬱屈した日常を抜け出すこと。カルフォルニアのウエストコーストを真っ赤なムスタングで突っ走る男2人の気ままな旅はとても気持ち良さそう。旅の開放感も手伝い、道雄は再会した麻有子と、大介は麻有子の友人ミナ(菊池凛子)と良いムードに。
友人以上恋人未満の道雄と麻有子、不倫になりそうな大介とミナ、訳ありな2組のカップルの愛の行方は、やがて人生の折り返し地点で挫折感を抱えた切ない大人たちの姿を浮かび上がらせます。
連ドラの仕事をしたのは遥か昔、今はシナリオスクールの講師に収まる道雄は、起死回生をかけたシナリオを必死にテレビ局に売り込んでいる最中でした。
恋人にも振られ、冴えない自分に沈む道雄とは対照的に、楽天的で軟派な大介。しかし、アメリカで役者をめざすも、代表作は子供向けヒーロー番組で、今はレストランの雇われ店長をする大介もまた、胸中は複雑に違いありません。アメリカ人のレストランオーナーの娘と結婚する迷いも見えます。
また、麻有子も御曹司と離婚後、一人アメリカで頑張っていました。
夢に向かって敷いたレールが気付いてみれば思いもよらない方向に向かっている――。そんな状況を修正しようと歩き続ける大人たちの不様でも逞しい姿は、遠いアメリカの地だからこそ、より鮮明になります。
寄り道しながら生きることの味わいや大切さが、オリジナル以上に力強く伝わるのは日本人キャストによる効果でしょう。実力主義のアメリカで孤軍奮闘する日本人の姿は素直に応援したくなります。
全編アメリカロケを敢行し、チェリン・グラック監督を始め、スタッフの9割はアメリカ人が占めるだけあって、シャレた洋画の雰囲気が漂います。
牧歌的な田園地帯でのワイナリー巡りはつかの間の旅行気分が味わえます。シンディ・ローパーの『タイム・アフター・タイム』を始め、’80年代のポップソングがちりばめられ、辛い現実に疲れた大人たちには、癒しのひと時を与えてくれるでしょう。