乳製品が大腸がんを予防する効果がある。その効果は主にカルシウムによるものである
牛乳とがんの関係ってのが懐かしくて・・・
Papier, Keren, Kathryn E. Bradbury, Angela Balkwill, Isobel Barnes, Karl Smith-Byrne, Marc J. Gunter, Sonja I. Berndt, ほか. 「Diet-wide analyses for risk of colorectal cancer: prospective study of 12,251 incident cases among 542,778 women in the UK」. Nature Communications 16, no. 1 (2025年1月8日): 375. https://doi.org/10.1038/s41467-024-55219-5.
序文
大腸がんの発症状況
大腸がんは世界で3番目に多いがんであり、2022年には1,926,425件の新規症例が推定されている。
高所得国(欧州諸国、北米、オーストラリア、ニュージーランド、日本)で発症率が高く、低所得国(アフリカや南アジア)で低い傾向がある。
低発症率地域でも発症率は増加傾向にある。
移住者の発症率は10年程度で受け入れ国の発症率に近づくことが示されており、生活習慣や環境要因が発症に関与していることを示唆している。
発がん性に関する分類
国際がん研究機関(IARC)は、アルコール飲料と加工肉を「ヒトに対して発がん性あり(グループ1)」、赤肉を「おそらく発がん性あり(グループ2A)」と分類している。
この分類の根拠は、部分的に(アルコール)または主に(赤肉・加工肉)、大腸がんに関する研究結果に基づいている。
リスク因子と保護因子
世界がん研究基金(WCRF)/アメリカがん研究所(AICR)の報告では、次のことが示されている:
アルコールと加工肉の高摂取は大腸がんリスクを増加させる「確実な」証拠がある。
乳製品、牛乳、カルシウム、カルシウムサプリメント、全粒穀物、食物繊維を含む食品の高摂取はリスクを「おそらく」低下させる。
赤肉の高摂取はリスクを「おそらく」増加させる。
その他の食品、栄養素、飲料についての証拠は結論が出ていない。
研究における課題
アルコールや加工肉以外の食事要因と大腸がんリスクの関係についての一致が得られていない原因には以下が挙げられる:
包括的な結果を報告する研究の少なさ。
食事測定の誤差。
小規模なサンプルサイズ。
本研究の目的と方法
97の食事要因と大腸がんリスクを体系的に分析するため、英国の女性542,778人を対象とした前向き研究を実施。
詳細な食事アンケートと一部の参加者による24時間オンライン食事評価を活用。
ミルク消費に関するメンデルランダム化解析も実施し、ColoRectal Transdisciplinary Study、Colon Cancer Family Registry、GECCOのデータを使用。
結果
研究の概要と結果
対象者と追跡期間
542,778人の女性が対象で、平均16.6年間の追跡期間中に12,251人が大腸がんを発症。
大腸がん発症者は年齢が高く、身長が高く、家族に腸がんの既往が多く、不健康な生活習慣を持つ傾向があった。
主な食事要因とリスクの関連
アルコールとカルシウム摂取が最も強い関連を示した:
アルコール:リスク上昇(20g/日あたりRR=1.15)。
カルシウム:リスク低下(300mg/日あたりRR=0.83)。
リスク低下に関連した食品・栄養素:乳製品、ヨーグルト、リボフラビン、マグネシウム、リン、カリウム、朝食用シリアル、果物、全粒穀物、炭水化物、食物繊維、総糖分、葉酸、ビタミンC。
リスク上昇に関連した食品:赤肉・加工肉(30g/日あたりRR=1.08)。
食事要因の相関と調整の影響
食事要因間の相関
乳製品関連(カルシウム、リン、リボフラビンなど)や食物繊維関連(果物、全粒穀物など)の間で強い相関が観察された。
アルコールと赤肉・加工肉は他の要因との相関が弱かった。
調整の影響
アルコール、カルシウム、乳製品摂取のリスクとの関連は、ライフスタイル因子で調整してもほとんど変化なし。
果物、全粒穀物、朝食用シリアルなどの食品は、ライフスタイル因子で調整後に関連が弱まった。
カルシウムと乳製品の独立した影響
カルシウム摂取は大腸がんリスクと独立して関連があり、乳製品摂取は独立した関連を示さなかった。
感度分析と追加結果
感度分析
自己申告で健康状態が良好な女性やベースラインから5年以上経過後のデータで、結果はほぼ一貫していた。
アルコールの影響は部位ごとに異なり、直腸で最も有害であった。
交絡因子ごとの解析
喫煙経験のない人では乳製品やリボフラビンの関連が強く、低BMIの人では全粒穀物の関連が強かった。
遺伝的解析の結果
ミルク消費に関するMR解析
遺伝的に予測される牛乳摂取は、大腸がん(RR=0.60)、結腸がん(RR=0.60)、直腸がん(RR=0.49)のリスク低下と関連していた。
この関連は自己報告された乳製品摂取よりも強かった。
Discussion
研究の主な結果
アルコールと赤肉・加工肉
アルコール摂取は大腸がんリスクと有意に正の関連(20g/日あたり15%リスク増加)。
赤肉・加工肉摂取は30g/日あたり8%、100g/日あたり29%リスク増加と関連。
加工肉のリスク増加は赤肉よりも大きい。
カルシウムと乳製品関連要因
カルシウム摂取は大腸がんリスクを低下させる(300mg/日あたり17%リスク減少)。
乳製品(乳牛、ヨーグルトなど)やカルシウム関連栄養素(リボフラビン、マグネシウム、リン、カリウム)はリスク低下と関連。
これらの関連は主にカルシウム摂取によるものと推定。
その他の食品および栄養素
朝食用シリアル、果物、全粒穀物、炭水化物、食物繊維、葉酸、ビタミンCなどの摂取はリスク低下と関連。
ただし、これらの関連は生活習慣や食事要因による交絡の影響を受けた可能性が高い。
メカニズムの考察
カルシウムの保護的役割
カルシウムが腸内で胆汁酸や遊離脂肪酸に結合し、その発がん性を抑制。
腸管内の透過性を低下させることで、腸粘膜を有害物質から保護。
腸上皮細胞の分化促進、アポトーシス増加、酸化的DNA損傷の低下に寄与する可能性。
アルコールのリスク増加のメカニズム
高濃度のアセトアルデヒド生成によりDNA修復機能が阻害される。
活性酸素種の生成増加による発がん性。
赤肉・加工肉のリスク増加のメカニズム
ヘム鉄がN-ニトロソ化合物の形成を促進し、変異を引き起こす。
高温調理でヘテロサイクリックアミンや多環芳香族炭化水素が生成される。
燻製や保存料(硝酸塩など)による発がん性化合物の生成。
メンデルランダム化解析の結果
遺伝的に予測される牛乳摂取は、観察研究よりも大きなリスク低下を示した(200g/日あたり40%リスク減少)。
この差は、生涯にわたる乳糖分解酵素活性の影響を反映している可能性。
感度分析と制限事項
感度分析
健康状態の良好な参加者や追跡開始5年以上経過後のデータで結果は一貫。
部位別分析でアルコールは直腸で最も有害。
制限事項
長期間の再測定で一部の食事要因の摂取範囲が限られ、検出力が低下。
乳糖不耐症が多い集団への適用性は限定的。
バターなど一部の食品を含められなかった。
研究の意義と今後の課題
意義
アルコール、赤肉・加工肉のリスク、カルシウムの保護効果に関する既存の知見を確認。
カルシウム摂取の健康全般への影響を検討する必要性を強調。
今後の課題
カルシウムサプリメントの効果に関するさらなる研究が必要。
長期的な摂取とがん発症リスクの関係を評価する研究が求められる。
研究方法
研究の概要
倫理承認とデータ収集
研究は倫理委員会の承認を得て実施され、全参加者から医療記録による追跡調査の同意を取得。
データは英国のNational Health Service (NHS)システムを通じて収集。
対象者
1996~2001年にNHS乳がんスクリーニングプログラムに招待された56歳(±6歳)の女性1,300,000人が対象。
食事アンケートの完全回答者などを条件に542,778人が最終解析対象に含まれた。
データ収集と評価
食事評価
最初の再調査(2001年)で食事アンケートを実施。130種類以上の食品・栄養素について摂取頻度を質問。
栄養摂取量は食品の摂取頻度、標準的な分量、食品成分を基に算出。
再現性が高く、7日間の食事記録との相関も中等度~高い(例:アルコール0.75、カルシウム0.62、食物繊維0.62)。
一部の参加者(7%)には、約10年後に24時間食事調査(Oxford WebQ)を実施し長期的な摂取を再評価。
大腸がんの評価
ICD-10コードに基づき、NHSのデータでがん発症、死亡、移住を追跡。
主なエンドポイントは新規の大腸がん発症(ICD-10 C18-C20)。さらに部位別に分類(近位結腸、遠位結腸、直腸)。
データの除外基準
除外対象:
先行がん患者(非黒色腫皮膚がんを除く)。
不適切なエネルギー摂取範囲の回答者(500~3500kcal/日外)。
病気により食事を変更したと報告した者。
食事データが欠損している者。
最終的に542,778人が解析対象。
統計解析
解析手法
Cox比例ハザードモデルを用いて97の食事要因と大腸がんリスクの相対リスク(HR)を推定。
摂取量はベースラインで分位(五分位など)に分け、再測定データを用いて長期的な摂取を補正。
Benjamini-Hochberg法で多重検定補正を実施し、有意な17の要因を特定。
さらなる解析
食事要因間の相関(ピアソン相関係数)を計算。
主要な食事要因(カルシウム、乳牛、果物、全粒穀物)の調整後の独立性を評価。
カルシウムと乳牛摂取の独立した影響を残差法で解析。
感度分析
健康状態が良好な女性や追跡5年以上のデータを使用し、逆因果性を評価。
喫煙状態、BMI、地域の貧困度、アルコール摂取で層別解析を実施。
遺伝的解析
メンデルランダム化(MR)
遺伝的な乳牛摂取(LCT遺伝子のSNP rs4988235)と大腸がんリスクを関連付けるMR解析を実施。
欧州集団を対象に52,865件の大腸がん症例を含むGWASデータを使用。
遺伝的に予測される乳牛摂取は大腸がんリスクの低下と関連(200g/日あたり40%リスク減少)。
結論
食事要因の長期的摂取評価と多重検定補正により信頼性の高い結果を提示。
遺伝的および観察データに基づき、カルシウム摂取の大腸がん予防効果を支持。
今後の課題として、さらなる因果性の検証が必要。
昔、以下の情報がネット上記載されていた(私も、情報提供したことがある)