金商法で禁止されている不公正取引まとめ(風説の流布、インサイダー取引、ネイキッド・ショート・セリング)
こんにちは、プロ証券家のCNMです。
今回は金融商品取引法で設けられている不公正取引の新規に関する規定を扱います。
概要
金融商品取引法では、金融商品の公正な取引や、市場阻害行為の防止を目的として、不公正取引の禁止に関する規定を設けています。
これに違反した場合、刑事罰が課されます。
禁止事項
金融商品取引法において「有価証券の取引等に関する規制」として挙げられている事項は、上述の「不正行為の禁止」のほか以下の通りです。
風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止
相場操縦行為等の禁止
相場操縦行為等による賠償責任
金融商品取引業者の自己計算取引等の制限
信用取引等における金銭の預託
空売り及び逆指値注文の禁止
上場等株券等の発行者が行うその売買に関する規制
上場会社等の役員等による特定有価証券等の売買等の報告の提出
上場会社等の役員等の短期売買利益の返還
上場会社等の役員等の禁止行為
特定組合等の財産に属する特定有価証券等の取扱い
会社関係者の禁止行為
公開買付者等関係者の禁止行為
未公表の重要事実の伝達等の禁止
無免許市場における取引の禁止
虚偽の相場の公示等の禁止
対価を受けて行う新聞等への意見表示の制限
有利買付け等の表示の禁止
一定の配当等の表示の禁止
無登録業者による未公開有価証券の売付け等の効果
大事なこととはいえ、信じられないくらい多いですね。
これらすべてを扱うのは骨が折れますので、ここでは特に重要性の高い太字の3つを取り上げます。
風説の流布
金融商品取引法第158条では、風説の流布について、以下の通り規定されています。
「風説の流布」とは、有価証券の募集、売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、風説(うわさ、合理的な根拠のない風評等)を流布(不特定又は多数の者に伝達)することです。
つまり、株価を動かすために、根拠のない噂を吹聴することです。
実際に、自ら保有する株式を高値で売却するため、インターネットの掲示板で虚偽の情報を書き込み、株価が上昇したところで同株式を売却し、不当な利益を上げた事例があります。
ちなみに、同法に違反した場合、課徴金を国庫に納付することになります。
課徴金額は風説の流布により得た利益ではなく、有価証券売付価額から買付最低単価に数量を乗じた価額です。(空売りの場合は逆)
※簡単に説明しましたが、実際にはもっと複雑に計算されます。
インサイダー取引(内部者取引)
上場会社の会社関係者や情報受領者が、その立場を利用して得た未公表の情報(重要事実)をもとに有価証券を売買することは、証券市場の公正性と健全性が損なわれ、証券市場に対する投資家の信頼を失うことになるため禁止されています。
ちなみに誤解されがちですが、この取引によって損失が出た場合もインサイダー取引に該当します。
内部者の定義
会社関係者の主な範囲は、以下の通りです。
上場会社等の役職員
帳簿閲覧権を有する株主
法令に基づく権限を有する者(例:監督官庁の職員)
契約締結者、締結交渉中の者(関与する弁護士等も含む)等
元会社関係者(会社関係者でなくなってから1年以内の者)
「上場企業等」には、親会社や子会社も該当し、当該上場企業が上場投資法人等である場合における当該上場会社等の資産運用会社及びその特定関係法人を含みます。
また、役職員とは、役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者を指します。
契約締結者や締結交渉中の者の主な例としては、取引銀行、公認会計士、引受人、顧問弁護士などが挙げられます。
情報受領者の主な範囲は、以下の通りです。
会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(例:家族、同僚)
具体的には、会社関係者から重要事実の伝達を受けた第一次情報受領者を指します。
重要事実
重要事実には、以下のような未公表情報が該当します。
※日常用語の「重要な事実」と異なる点に注意。
投資判断に重要な影響を及ぼす情報
新株等発行、株式交換、株式移転、株式交付
合併、会社分割、解散、業務提携、災害等による損害、主要株主(議決権の100分の10以上を保有する株主)の異動
業績予想修正、その他投資判断に著しい影響を及ぼす情報 等
重要事実については、子会社に生じた重要事実も同様に規制対象となります。
また、ここで挙げた事項を行う決定だけでなく、行うと決定した事項を行わない決定についても、重要事実に該当します。
重要事実の公表
以下のいずれかに該当した場合、重要事実が公表されたと認められます。
TDnetを通じた適時開示
新聞等報道機関2社以上+12時間ルール
開示開示書類の公衆縦覧
報道機関2社以上+12時間ルールというのがピンとこないと思いますが、上場会社の役員等から新聞社・通信社・放送局等の2社以上の報道機関に対して公開されたときから12時間以上を経過した場合のことを指します。
報道機関に対する公開後12時間以上経過が要件であり、報道機関による報道は要件ではありませんのでご注意ください。
適用除外
インサイダー取引の要件に該当する場合であっても、以下のケースは違法ではないとされています。
株主割当てを受ける権利を有する者が当該権利を行使することにより株券を取得する場合
新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより株券を取得する場合
オプションを取得している者が当該オプションを行使することにより特定有価証券等に係る売買等をする場合
株式買取請求または法令上の義務に基づき売買等をする場合
重要事実を知る前に締結された契約の履行をする場合 など
その他
役員や主要株主による報告義務や、短期自社株売買の規制、自社株の空売り禁止などが規定されています。
ネイキッド・ショート・セリング
金融商品取引法第162条では、空売りについて以下の通り規定されています。
有価証券を保有せずに売付けを行うことは禁じられています。
ここで注意したいのが、禁じられているのは一般にいう「空売り」ではなく、「ネイキッド・ショート・セリング」である点です。
「空売り」とは、金融商品取引法施行令で規定される以下の取引を指します。
また、同条では「これらについて借入契約の締結その他の当該有価証券の受渡しを確実にする措置として内閣府令で定める措置(決済措置)が講じられていることを確認できないときは、当該空売りを行ってはならない」と規定されています。
ここでいう「決済措置が講じられていることを確認できないとき」に空売りを行うことを、「ネイキッド・ショート・セリング」と呼びます。
簡単にいってしまえば、空売りとは「借りてきた有価証券を売り付けること」であり、ネイキッド・ショート・セリングとは「存在しない有価証券を売り付けること」です。
裏付けがないにも関わらず売付けを行う「ネイキッド・ショート・セリング」は、市場の健全性を阻害するだけでなく、相場操縦にも利用される恐れがあるため禁止されています。
ただし、信用取引や先物取引のように制度として確立しているものは許容されます。
空売りについては、明示・確認義務、価格規制(アップティック・ルール)、残高報告義務などにも触れるべきですが、こちらはまたの機会に扱います。
最後に
不公正取引として規制されるものは多岐にわたり、さらに一つ一つが細かな規定を設けていますので、すべてを理解するのは難しいと思います。
今回は主要なものとして、「風説の流布」、「インサイダー取引」、「ネイキッド・ショート・セリング」を取り上げましたが、本来はここでは書ききれないほど法令が膨大で難しいです。
この記事をもとに、多くの方に興味を持っていただければ幸いです。
本当は「相場操縦」にも触れたかったのですが、あまりに内容が重すぎるため、今回は取り上げませんでした。別の機会にまとめられればと考えています。
それでは、良い証券ライフを。