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PERFECT DAYS

とても静謐で、けれど雄弁なメッセージが込められた素晴らしい作品でした。

【孤立ではなく孤独】
トイレの清掃員、平山さんはかなり無口だけれど目が合うとちゃんと会釈をするし、なじみの店があり、その店主や客たちとコミュニケーションをとる。
家族との仲は上手くいっておらず、初めは孤立から始まった暮らしなのかも知れないが、今はそんなささやか慎ましやかな生活を楽しんでいる風にも見え、自ら孤独を選んでいるようにも思えた。
孤独だけれど、木ともお友だち。

【日本人のうつくしさ】
私はずっとヴィム・ヴェンダース監督に「日本人よ、あなたたちはこんなにも勤勉で美しい人種なのですよ」と語りかけられている気分だった。
例えば、後輩に丁寧すぎる、と嫌味を言われたりするくらいトイレをピカピカに磨きまくる平山さんの真面目さ、細やかさ。
それは平山さんの中に、私たち日本人の中に真面目に生きていないと必ずお天道様は見ている、と言った刷り込みがあるからだと思う。
ひとつの宗教を熱心に信仰するひとはあまりいないわりに、「神さまは見ている」と信じ、自分の子に伝えてゆく日本人は少なくない気がする。
平山さんは毎日、お昼ご飯を食べる神社の鳥居をくぐるとき、必ずお辞儀をする。その姿のうつくしさ。
異国の監督が作った作品なのに、良い面だけでなくもちろん悪い面もしっかりと撮られていて日本人、という人種の解像度がやたら高いことに驚いた。

【○✕ゲーム】
私が特に好きだったのはトイレを利用する誰かさんと○×ゲームをしているときの平山さんの嬉しそうな表情。
それはまるで私たちがSNSで勇気を出して話しかけた誰かから返事をもらえたときのようで。
Spotifyを知らない平山さんの、顔も知らない誰かとの密やかなこころとこころの交流。

【とにかく役所広司】
そしてとにかく役所広司さん演じる平山さんがかわいい。
育てている植物たちの頭をちょん、と触る仕草、転がり込んできた姪っ子を起こさないよういつもの倍速で植物たちに水をやる姿、そして三浦友和さん演じるバーのママの元夫と突然始まる影踏み。
ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司さんと同じく日本を代表する名優、三浦友和さんのあんなかわいい姿をスクリーンに焼き付けただけでも日本の映画賞をもらう意味がある。
そして、全部そうなのだけど、最後のあの表情のお芝居はまさに、役所広司さんにしかできないでしょう。

【変わらないものなどない】
後半、後輩が突然やめたことでルーティンが狂い始め、平山さんは劇中で初めて苛立ちを見せる。そして少しずつ日常に変化が起き始め、彼は言う。
「変わらないものなどありませんよ。」
そして私たちは知る、この作品がただのこういう暮らしって素敵でしょ?的な映画ではないことを。一瞬の刹那が繋がり、奇跡とも言えるルーティンを産み出していたことを。
「いつだって今日が新しい一日」
その奇跡を知っているから平山さんは、泣きながら、笑ったのだ。ただ泣くのではなく、泣きながらも、笑ったんだ。

【木漏れ日】
平山さんはその一瞬を、撮っていた。

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