お母さんが一緒
橋口亮輔というひとは目をそらしたくなるよな人間のきたない部分をこれでもかというほど描いて、それでもそんなきたなさのなかに残されたひと握りのうつくしさを描くひと。それが、今回は次女が折る折り鶴、そして真心を込めて鶴を折る指先に込められていた気がする。
9年ぶりに作られたこの映画もまた、ペヤンヌマキさんの演劇が原作で舞台を観ているよなセリフまわしでこれまでの作品とは手触りは違えど、そんな「橋口亮輔らしさ」に満ちていて。
お母さんのお誕生日のお祝いに旅館へとやってきた三姉妹のきょうだいゲンカ、いや、諍い、いや、罵り合いは女同士、しかも肉親同士の罵り合いってこうだよね〜言っちゃいけないことって家族同士でも絶対あるんだよね〜でも、家族だから踏み越えちゃうんだよね〜というリアルさがあり、この日の朝に母と言い合いのケンカかましたばかりの人間にはなかなかにキツかったです。
三姉妹それぞれがきょうだいへのコンプレックスや劣等感を抱えていて、その思いたちの原点には母へのどうしてありのままの私を愛してくれないの、という憎しみと表裏一体の切ない想いがあり、特にお互い強い劣等感を抱き合う長女と次女の言い合いはわかりすぎて見ていてとても痛かった。
そんな罵り合いの応酬を最後まで楽しく見れたのは散りばめられたクスッと笑ってしまうユーモアとどこまでもやさしくおおらかな三女の彼氏の酒屋の息子の癒し効果のおかげ。演じる青山フォール勝ちさんはお笑い芸人さんなんですね!江口のりこ、内田慈、古川琴音というお芝居モンスターに負けないあの飄々とした存在感がすごく良かった。彼が三女に言った「夜に考えたことはだいたい良くない。大事なことは太陽が出てるうちに考えなきゃ」みたいなことばが胸に響きました。「覚えてない」そのやさしさも。
罵り合うだけ罵り合っといて、叩き壊すだけ叩き壊しといて、3人揃って「うわ〜ん!」と泣いて身を寄せ合ったら何もなかったようにぴたりとくっつきあってしまうのも家族だから。血を分け合った、どこか似ているお母さんが一緒の姉妹だから。そこに理由も理屈もへったくれも、ないんです。