ディア・ファミリー
予告を見て、またありがちな人の死で涙を誘うお涙頂戴の物語なんだろうなと思っていた。
が、それは全くの誤解だった。
涙はとめどなく溢れたが、これは死ではなくあくまで生に向かう、真の意味でポジティブな生命力あふれる家族の物語。
始まりは心臓の病を患う娘を救いたい、そんな父の夢がいずれ父娘の夢になり、そして家族の夢となる。
あくまで大泉洋さん演じる宣政と仲間たちの研究とものづくりのシーンがメインなので、家族の感動物語というよりは「下町ロケット」などの全くの素人がものづくりの知識を活かして前人未到の領域に挑むサクセスストーリーのような手触りがあった。死にゆくものの悲しみで泣かせるのではなく、愛する家族のために挑み、つまづき、絶望し、また立ち上がる宣政の姿に泣く映画なんだ、これは。
宣政と家族の絆にも胸を熱くさせられたが、私が特に好きだったのは宣政と一度は宣政と別の道に進んだ松村北斗さん演じる研究員の医師、富岡との友情のような関係性。
一度は宣政の挑戦に未来はないと彼のもとを去った富岡だったが、時が経ち、家族を持った富岡はふとしたきっかけで宣政と家族の絆を目の当たりにし、彼が娘に誓った新たな夢を叶えるために手を差し伸べる。
一度見放してしまった贖罪の気持ちもあったのかもしれない、そしてあくまで自分の未来を考えてくれる宣政の人間としてのあたたかさに富岡は自分の立場や体裁も捨て、医師を目指した頃の熱い気持ちを取り戻してゆく。その姿に私は胸が熱くなった。
はじめは娘を救いたい、そんな父としての小さな願いだった。それがやがて、娘との大切な約束となり、たくさんのひとの命を救う大きな夢へ。これが実話だというのだから泣きながら途方もない気持ちとなりため息が出てしまった。
娘の死を思わせる直接的なシーンがなかったのもとてもよかった。そのことで、宣政の中に確実によっちゃんは今も生きている、そう感じられたから。
演者の皆さん、皆素晴らしかったけれど彼が叫び、うろたえ、怒り、泣けば泣くほどあぁ、このひとのことばはちゃんと聞かなくちゃ、と思わせてくれる大泉洋さんはやはり今回も素晴らしく、そして後半の大切な役割を担う松村北斗さんは一度逃げてしまったものの哀愁を纏いながらも自然な演技がとても良かった。そしてよっちゃん役の福本莉子さんはどこまでも天使のようなピュアさを漂わせており、とても素敵だった。
左胸の心臓が止まるまで家族を愛し、精いっぱい生きた宣政、よっちゃんをはじめとする坪井家の生き様を代弁するよな生命力あふれる主題歌、Mrs. GREEN APPLEの「Dear」も素晴らしかったです。