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インガ

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世界規模の感染症パンデミックにより、国家という枠組みが瓦解して企業自治体が乱立した世界。 感情を表層化するIMGシステムにより管理された社会で、謎の人型ロボット「インガ」に命を狙…
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2022年4月の記事一覧

インガ [scene003_01]

IMGのチャットログは、カオリと私を気遣う同級生の声で埋め尽くされていた。 昨日のPALCO襲撃事件がニュースアプリのトップを飾っており、クラスメイトのIMGインターフェイスの「あなたの関連」欄に、被害者として私たちの名前が上がっていたのだ。 安否も併せて通知されているはずだけど、彼・彼女らは本気で心配してくれているようで、「大丈夫?」「何ともない?」「とにかくレスしてくれ」などといったメッセージが、画面を4スクロールしても起点に遡れないくらい寄せられている。 驚くこと

インガ [scene003_02]

バイパスを使えば25分、というのは地図アプリの統計データで、実際にかかった時間とは少し乖離があった。 というのも、私がうたた寝する間もなく、車はおよそ15分程度で目的地に到着したのだ。 『君、法定速度って知ってるかい』 「5年前の常識がまだ通用するなら、ただの道路標識だ」 睦月のスピーカーから、これみよがしに大きな溜息が聞こえてくる。 『そう認識しているなら、書かれていることを守れよ…』 そんなハルさんのうんざりした声を無視して、建物から少し離れた位置に車を停める

インガ [scene003_03]

滞在を黙認された私たちが最初に取った行動は、食事だった。 というのも、エレベーターに乗り込んだ途端、空っぽになって久しい私の腹の虫が「これ以上放置するな」と抗議の声をあげたのだ。 真っ赤になって俯く私に、思い出したように早めの昼食を提案してくれた大人2名。 聞こえないフリをしている気遣いがわかるので、却って羞恥心が煽られたけど、そこはもう黙っておくことにした。 「食事をするなら2階だ。私もご一緒させて頂こう」 ハナヤシキさんの案内で通されたフロアには、いくつものテナ