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インガ [scene003_03]

滞在を黙認された私たちが最初に取った行動は、食事だった。

というのも、エレベーターに乗り込んだ途端、空っぽになって久しい私の腹の虫が「これ以上放置するな」と抗議の声をあげたのだ。

真っ赤になって俯く私に、思い出したように早めの昼食を提案してくれた大人2名。

聞こえないフリをしている気遣いがわかるので、却って羞恥心が煽られたけど、そこはもう黙っておくことにした。

「食事をするなら2階だ。私もご一緒させて頂こう」

ハナヤシキさんの案内で通されたフロアには、いくつものテナントに様々なジャンルのレストランが看板を構えていた。

和洋中、驚いたことにハンバーガーショップやラーメン屋まで。

「病人には脂っこ過ぎやしないか?」

「発想が乏しい。何も、当院に訪れるのは患者本人だけではない。見舞いに来たご家族ご友人も持て成してこそだろう」

なるほど、と興味なさげに返すヒバカリさんが、入店先の選択権を私に投げてくる。

「じゃあ、和食で」

隠しようもなく腹ペコだけど、脂っこいものを口に入れる気分ではない。

昨日カオリと学校を出てから、喫茶店でヒバカリさんが奢ってくれたコーヒー以外は何も口にしていないのだ。つくづく、ストロングベリーパフェを一口でも貰わなかったことが悔やまれる。

とにかく、空きっ腹にいきなり重たいものを放り込んだら、驚いた胃腸がひっくり返ってしまうだろう。
そうなったら、財善メディカルセンターが誇る最新医療の世話になりかねない。

入院でもすれば、それこそ局長さんが保護を断る理由も無くなるのだろうけれど。

「良いね、和食。俺は天そばでも頼もうかな」

高級料亭のような装いの和食レストランに入ると、割烹着姿の女性が座敷に案内してくれた。

席に着いてお品書きを見ると、ヒバカリさんご所望の天そばを始め、丼物、麺類、定食、鍋物、なんでもござれといったラインナップだ。

どれにしようかとメニューに目を通していると、何かが足りない気が。
違和感の正体に気付いて、ギョッとする。

「これ、値段が書いて無いんですけど…」

まさか、時価というやつだろうか。
食にも贅を凝らしているに違いないこの財善メディカルセンターで、和食を選んだのは迂闊だったかもしれない。

そう冷や汗をかいていると、

「ヨシノくん、言っただろう。大人といるときは、素直にご馳走されておくものだ」

ヒバカリさんが男前なことを言い、そのまま

「というわけで、先輩、ありがとうございます」

と、ハナヤシキさんに会計を丸投げした。

いや、それは申し訳が無さすぎるでしょ。

ほとんど泣き落としみたいな形で滞在を許してもらったばかりなのに、厚かましいにも程がある。

おろおろしている私を見て、ハナヤシキさんがため息をついた。

「お前に貸しを作るのはやぶさかではないが、悪ふざけはよせ。
お嬢さん、安心なさい。ここの食事は、すべて無料だ。
当院にとって、食事はあくまで持て成すもの…というのは建前だが、種を明かすとね、財善で健康保険費として設けた予算を使っているのだよ。
なに、職員も皆このフロアで食事を摂っている。一般に開放している社員食堂とでも考えてくれたまえ」

なるほど。
値段が無いというのは、文字通りの意味だったのか。

安心して、私は焼き魚定食を、ヒバカリさんは(つまらなさそうな顔で)天そばを注文する。
ハナヤシキさんについては、意外にもお茶漬けを選んでいた。

「これが一番美味い」

医療の象徴たる施設で局長職を与る人間が、なんとも質素なメニューを…。いや、偏見はよそう。

数分待っていると、各々の前に注文の品が並んだ。

海老、茄子、舞茸など5種類の天ぷらが盛り付けられた皿を見て、ヒバカリさんが苦笑いする。

「随分と豪勢な社食だ。これに比べたら、本社のは豚のメシだ」

財善のなかでも、食料格差があるらしい。

「いただきます」

ハナヤシキさんが手を合わせて丁寧に一礼し、音を立てず上品にお茶漬けを啜る(器用な人だ)。

対照的に、暴力的な勢いで蕎麦を吸い込むヒバカリさん。

私も久しぶりの食事を楽しむことにした。

付け合わせの漬物を齧り、味噌汁を口に含む。
胃に温かさが広がるのを感じて、思わずため息が漏れた。温かいご飯というのは、それだけで多幸感を与えてくれる。

「お嬢さんは持て成し甲斐がある」

「え?」

「此処に来てから君が見せてくれた表情こそ、この城のコンセプトだよ」

周りくどい言い方なので判りにくいけど、相当美味しそうにしていたらしい。

観察されるのは恥ずかしいけど、嫌な気はしなかった。

だって、その感想は本心だろうから。

「年相応の顔になったじゃないか、良い笑顔だ」

と、ヒバカリさんも微笑みかけてくる。
恐ろしいことに、ザルの上にはもうほとんど蕎麦が残っていない。

実はかなりお腹が空いていたのだろうか、単に早食いが過ぎるだけなのか、もしくは両方か。

「折角なんだから、ちゃんと味わえば良いのに」

「堪能しているよ。食べるのが早いのは昔からだ、君は気にせずゆっくり味わいなさい」

そう言って、今度は天ぷらに齧り付くヒバカリさん。乱暴にも、15センチほどの海老がたった二口で飲み込まれていく。

なんとまぁ、気持ちのいい食べっぷり。
この様子だと、あと2〜3分で皿が空きそうだ。
でも、ゆっくりしていいと言われたことだし、私はマイペースに箸を進めさせてもらおう。

そうと決めたら、あとは黙々と定食を平げていくだけで、これといった会話もなく食事は終了した。

相当に空腹だった、というのもあるけれど、正直なところ食事中に何を話せばいいのかわからない。普段は一人で食べているものだから。

ヒバカリさん達も特に会話らしいやり取りをしていなかったので、少々気まずさがあったものの、これでいいのだろう。

早々にヒバカリさんが天そばを平げ、次いでハナヤシキさんが箸を置き、ややあって私も食事を終えた。

そして、丁度いいタイミングで出された緑茶を啜りながら一息つく。

「さて、ヒバカリ。しばらくは私の一存で滞在を許せるが、いつまでも此処にいて、問題が解決するわけでもあるまい。これからどうするつもりだね?」

ハナヤシキさんの問いを受け、ヒバカリさんは湯呑みに口をつけたまま私をチラリと見る。

そしてグイとお茶を飲み干し、

「少しここを見学させてください。俺が寝てる間に、どれくらいシステムが成長したのか把握しておきたい。一通り見たら、一度ハルのところに戻りますよ」

「…お前が見たいものは、ツアーのメニューには無いと思うがね」

訝しむ目で、そう返すハナヤシキさん。
対してヒバカリさんは、右手をヒラヒラと振って微笑み返す。

「他意はありませんよ。ある程度はハルからIMGの進化について聞きましたが、この目で見た範囲はまだまだ狭くて、キャッチアップしきれていないってのが正直なところなんです。
百聞は一見にしかず、と言うでしょう?
象徴たるこの施設を見れば、色々と現状把握に役立ちそうだと思いましてね」

それを受けて、ハナヤシキさんはじっとヒバカリさんの顔を観察し、やがて小さくため息をついて頷いた。

「良かろう、好きに見てまわれ。お前もかつては財善で働いていた身だ、後輩に挨拶がしたいと言うなら、水は差さん」

「そいつはありがたい、馴染みの顔でも探してみましょう」

ニヤリとするヒバカリさんに、ハナヤシキさんが付け加えるように続ける。

「ただし。私の目の届くところで、妙な小細工はやめておけ。休暇中とはいえ、部外者が不審な動きを見せようものなら、それなりの対応を取らねばならん」

アイサー、と返しながら、ヒバカリさんが立ち上がった。

「と言うわけでヨシノくん、悪いが少しばかり別行動を取らせてもらうよ。先輩に着いて、しばらくここを見学していてくれ。会計は…そうか、無料だったな」

そう言い残し、店を出て行く。

…え、この局長さんと、二人きりにされるの?
少し、いや相当に気まずい。

ハルさんみたいに人の好さが滲み出ている人物ならまだしも、ハナヤシキさんはどう考えても、その、初心者向けじゃない。

「…」

「…」

残された私たちの間には、しばらく沈黙が横たわっていた。

当然のことだろう。
だって、私とハナヤシキさんに面識は無く、話など積もりようが無いのだから。

さて、どうしたものか。

ヒバカリさんは「しばらく見学していろ」と言い残していったけど、これといって見たいものがあるわけじゃない。

多分、ここを出たら空中庭園のモニュメントとやらを見に行くことになるのだろう。で、その後は?

もちろん、癒しの森や書物のアーチは目に楽しく、それなりに興奮させられるものがあった。
でも、だからといって「今度はアレが見たいです」と次の見学場所を思いつけるわけじゃあない。

つまり、この手の話題は振りようが無い。沈黙に耐えかねて口火を切ったところで、会話と呼べるほどのキャッチボールは出来ないだろう。

そもそも私は、初対面相手に気軽にコミュニケーションをとれない程度には人見知りなのだ。

黙ってお茶を啜るハナヤシキさんを前に、あと何分こうしていれば良いのかと思うと、とても気まずい。
気まずいけれど、それを打開するイメージも湧かない。

そうなると、私にできることはひとつ。

座して待つ、それだけ。
なんて格好つけた言い方にしても、実態は身体を硬らせて湯呑みを両手で握りしめるだけという、何とも情けない姿だ。

ちょっと本気でハルさんあたりに助けを求めようか迷い出した頃、ハナヤシキさんが口を開いた。

「お嬢さん、君には若者らしからぬ礼儀正しさがあるようだね」

思わぬ切り口からの発言に、目をぱちくりさせてしまう。

確かに、今の私は体が硬直していて背筋がピンと伸びているので、お行儀の良い子に見えるかもしれない。

けれど、それは緊張の賜物であり、目上の…というか、局長さんを前にダンマリを決め込んでいる今の状態は、却って礼を失しているのではないだろうか。

そう思い、返事として口から出たのは

「はぁ」

という、なんとも間抜けな言葉だった。

何が言いたいのですか、という思いが顔に出てしまったのか、ハナヤシキさんが微笑んで続ける(微笑むことがあるんだ、この人)。

「なに、君ぐらいの歳頃ならば、私のような堅物と二人きりにされたら、露骨に嫌な顔をしても仕方ない。
いや、そもそもIMGで感情を見てからでないと、まともに会話すら出来ない子がほとんどだ。
しかし、事情があってログインを控えているとはいえ———控えているのだろう?そんな状況にあって、お嬢さんは実に人間らしい振る舞いを見せてくれている」

そうか。確かにIMGを使えば、この岩のような表情の裏側で、ハナヤシキさんが何を思っているのか知ることができる。

なんだったら、IMGの以心伝心システムはそのために生み出されたようなものだ。

けれど、普段からツールで人の気持ちを覗き見することを嫌っている私は、この状況に不便さを感じることもなく、「この人といると緊張するな」という自然な感情しか抱いていない。

心の内側を見える化するツール、それが当たり前になったのはここ5、6年のこと。
それ以前の世界で長く生きてきたハナヤシキさんにとっては、私の反応こそごく自然で当たり前なものなのだ。

「財善で働く私が言うのも何だがね。すぐに相手の心の内を詳らかにするというのは、それが出来ないことにストレスを感じるというのは、健全とは言い難いと思うのだよ」

意外だった。

財善メディカルセンターの局長職にまで昇り詰めた人が、根幹ともいえるIMGシステムに、それによって醸成された常識に違和感を覚えているだなんて。

いや、あまり人付き合いが得意ではなさそうな彼にとって、それは意外なことでも何でもなく、むしろ当然と言えるのかもしれない。

しかも、それは私が日頃から抱えている違和感や不快感に近いものだ。

この人も、孤独を許さない世界で孤立した人間、なのだろうか。

…いや、それは考えすぎか。
けれど何となく、私の中にはハナヤシキさんに対する親近感が湧いてきた。

「さて、ヒバカリもすぐには戻らないだろうし、見学ツアーを進めようか」

と、腰を上げるハナヤシキさん。私も立ち上がり、座敷をでて靴を履く。

「さっそくだが、空中庭園に案内しよう」

「はい、モニュメントがあるんですよね」

私の返しに、ハナヤシキさんがこちらを見やり

「その通りだ」

と、目を細めて言った。



サン・パウ病院を模して、教会のような風体をした財善メディカルセンター。

その11階、ハナヤシキさんの言う空中庭園は、フロア全体に石畳が敷き詰められ、空間に張り巡らされた格子から彩豊かな植物がぶら下がる、四次元的な装飾が施された場所だった。

壁際に寄ると、大きな窓からオカザキ区の街並みが一望できて、流石に眺めが良い。

と、せせらぎの様な音がして、それが足元から聞こえていることに気づく。
幅30センチほどの水路が、庭園の端を縁取るように走っており、所々に穿たれた穴から階下に水が流れ落ちていた。

1階に創られた癒しの森とはまた違う、自然物の匂い。それに、かすかに聴こえてくるピアノの音色。
それらが渾然一体となり、この場所のヒーリング効果を高めている様に感じる。

「落ち着くだろう。当院の患者やスタッフも、1階よりこちらを憩いの場にしている。
私も、疲労が溜まったときなどは、よくここで心身を休ませているよ」

ハナヤシキさんの説明に、私は頷いて返した。
確かに、身体から余計な力が抜けるのを感じる。

もちろん、それは物理的な意味で言っているわけじゃあない。開放的でありつつ穏やかに時間が流れるこの場所が、私の緊張感をいくらか解きほぐしてくれているのだ。

ここにしばらく居たら、おそらく睡魔がやってきて、それに逆らおうという気すら起きないだろう。

そこかしこにおあつらえ向きのガーデンチェアが設てあるので、私はあそこで寝そべったら気持ちよさそうだなと思った。

「こっちだ、お嬢さん」

と、ハナヤシキさんが進行方向を指さす。
連れられてしばらく歩くと、庭園の中央に大きな湖が見えてきた。

大きな橋が四方から伸びており、その上で患者と思しき人たちが湖面を興味深そうに見下ろしている。

私たちも石造りの橋を渡り、湖の丁度真ん中に行く。
そこで、前を歩いていたハナヤシキさんが立ち止まり、掌で仰々しく橋の下を指し示した。

「ご覧あれ、これぞ当院をまさしく象徴するモニュメントだ」

橋の手すりから見下ろすと、湖の中央にポッカリと大穴が空いていた。足元に底知れぬ空洞が広がっているという状況に、本能的に足がすくむ。

後ずさり橋の中央で怯んでしまったが、ハナヤシキさんが無言で手招きするので、私はあらためて手すりに近づき、湖面の大穴を覗き込んだ。

恐ろしいほどの勢いで水が吸い込まれていくグローリーホール、その奥にぼんやりと何かが浮かんでいる。

所々ぼこぼことしていて、歪ながら生々しさを感じる白い球体。
下方からライトアップされたそれは、湖から叩き落とされた水の飛沫に濡れて、てらてらと光を反射している。

自然の穏やかさを湛えた空中庭園、その周囲を取り囲むように走る水路は、中央の湖から引水している。
その湖の中に浮かぶ球体は、さながらこの空間の心臓部だ。

よく見ると、歪な球体は時おり脈動するように伸縮していて、妙なグロテスクさを醸している。

「あれが、ここを象徴するモニュメント、ですか?」

確かに、その物体は異様な存在感を放っていた。
けれど、財善メディカルセンターを象徴しているかと言われると、いまいちピンと来ない。

印象的ではあるものの、象徴的ではないというのが、率直な感想だ。

「これを見たまえ」

私の疑問を感じ取ったのか、それとも当然そう思うだろうと予想していたのか、ハナヤシキさんが種明かしをするような言い方でモブを寄越す。

見ると、カメラが起動しており、画面には私の足元が映っている。

何のことか判らず、モブとハナヤシキさんの顔を見比べると、彼は両手を目の高さで構えて庭園を見渡すようなジェスチャーをした。

これで辺りを見てみろ、ということだろう。
意図を察してその通りにすると、そこには実際の空中庭園とは違う賑やかしさがあった。

宙を泳ぐ鮮やかな熱帯魚、空間に浮かぶ木枠の窓から庭園を眺める人々、ゆったり沈下と浮上を繰り返す蓮の葉、その上で寝そべる男女。

穏やかな現実世界に上塗りされた、トリップしたような錯覚を覚える鮮やかな別世界。

と、画面の端にIMGのアイコンが表示されていることに気づく。

そうか。
これは、IMGのAR機能だ。

システムに登録されたグラフィックが、端末を通して見る現実に重なって表示される、オーグメンテッド・リアル(拡張現実)。

件のPALCOでも、フロアに設置されているオブジェクトアイコンをモブで見ることで、マスコットキャラクターが施設案内をしてくれるARサービスを提供している。
仕組みとしてはそれと同じなのだろうけど、この場所に展開されているそれは、まるで規模と次元の違うものだ。

「面白いだろう。我々が開発したIMGレンズをつければ、その景色を肉眼で楽しむこともできる」

IMGレンズとは、財善が次世代端末としてリリースしたコンタクトレンズ型のスマートモブだ。
確かに、それを使ってこの画面に映る世界を体感するのは、一味違った臨場感があるだろう。

「IMGを使って見る景色…これが、ハナヤシキさんの言う象徴、ですか?」

「ふむ、確かにこれも見せたかったものではあるが、本質はそうじゃない。
私が披露したかったのは、あくまでもモニュメントだ」

と、勿体つけた言い回しをするハナヤシキさん。

まだ、私には真意が理解できない。
なぜなら、モブを湖の球体に向けても、画面には何の変化も無いからだ。

「まず、ARビジョンで見ることができる景色、そこに映る人々はここに入院している患者達だ。
彼らは、IMGを通じてメタバースの空中庭園を訪れている」

確かに、画面越しに見えた人影はどれも自由気ままといった風情で、演出のために用意されたキャストではなさそうだった。

あらためて一人一人の様子を観察すると、なかには明らかに会話をしているような振る舞いを見せているものもある。

「あれが全部、実在している人たち…」

「いや、それだけじゃあない」

それだけじゃない?
どういうことかとハナヤシキさんの顔を仰ぐと、

———びっくりした。

局長室で垣間見た、医療の象徴について語る彼の悦楽。
その感情が、満面の笑みとして形になっている。

「現時点で…15名だな。ここには、死者も居る。
厳密には、肉体が機能停止した者たちの意識が、IMGを介してこの場所に集っている」

「し、死者の意識が?それって…」

ハナヤシキさんが、湖面に穿たれたグローリーホール、その奥を指差す。

「あれだよ。あのモニュメントが内包するIMGサーバー、それこそが患者と死者たちの意識を繋いでいる。
システムを通じて、生死の隔たりすら超えて繋がる人間の意識———思い当たるものがあるだろう?」

電脳の世界に、意識を飛ばす技術。IMGに施される、ちょっぴりえげつない改造。

もしかして、

「そう、インガだ」

ハナヤシキさんが、笑った。

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