ETF入門③ - レバレッジ型ETF /上がっては買い、下がっては売る
さてETF入門①②ではETFとは何かというところから、ファンド側のそのテクニカルな運用またその運用が内包しているリスクなどについても言及してきた。
今回はETF入門の最終章として一般にベア/ブルと呼ばれるようなレバレッジ型ETFの基本、特徴またその有効的な活用法について述べていきたい。巷では「レバナス」と言われるナスダック指数のレバレッジ型ETFが有名であり、その積み立てまで推奨しているような記事もよく見かけるが、実は一般にレバレッジ型ETFはその運用規則上長期保有には適していないし、そのことは各アセットマネジメント会社が発行するそれぞれのETFの正式な文書である目論見書にも漏れなく記載されている。本記事ではレバレッジ型ETFが長期保有によって、なぜその価値が「減価」していく傾向にあるのか、また逆に先物や同じ運用額のETFを保有しているよりもレバレッジ型ETFを保有している方が儲かるのはどのような時かなども触れていくつもりである。そして最後に最も合理的なレバレッジ型ETFの活用方法を提言したい。
1. レバレッジ型ETFとは何か
レバレッジ型ETFとはその名の通り、日々の値動きが連動する原資産の値動きの何倍かに連動するものを指す。たとえば、メジャーなものでいえば、2倍に連動するブルETF、-1/-2倍に連動するベアETFなどがあげられ、3倍に連動する超ブルなども存在する。日経の2倍ブルETFを例に出して説明すると、それは日経平均が1%あがると2%基準価格が上昇するようなETFである。すなわちブルETFは日経平均が上昇するとう強い相場感があるときに購入し、逆にベアETFは日経平均が下落するという相場感があるときに購入するものということになる。これらレバレッジ型ETFにより、これまで通常のETFによっては表現できなかった相場観を表現できるようになるのである。たとえば2xの日経ブルETFを使えば100万円しかもっていないひとでも、100万円の資金のみで日経平均200万円分のリスクをとることができる。またたとえば-1倍のベアETFを使えば、トヨタ株を100万円分とベアETFを100万円分を購入することにより、トヨタ株が日経平均指数をアウトパフォームするような相場観をリスクに落とし込むことができるわけだ。加えてベアETFはもともともっていたロングポジションのヘッジにも有用だ。たとえば1億円分の通常の日経ETFを持っている投資家がゴールデンウィーク前に長期休暇の間だけリスクをヘッジしたいとしよう。彼はもともと持っているETFを1億円分売る必要はなく、-1倍ベアETFを1億円分購入し、休暇明けに売却すればいいわけだ。日経平均が5%下がったとしても、もともと持ってるETFからは500万円分の損失がでますが、-1倍ベアETFから500万円分の含み益がでるというように、マーケットがどのような動きをしてもそのマーケットリスクをほぼヘッジすることができるのである。もともと持っていたETFを1億円分売ればいいじゃないか、と思う方もいるかもしれないが、もしそのETFのポジションが3000万円分の含み益をもっていたとしたらどうだろう。その投資家は連休前に3000 x 20%の600万円もの税金を払うことが確定してしまうのだ。一方でベア型ETFを利用していれば、含み益/損0の新規の-1倍ベアETFを買うわけだから、たとえヘッジ部分から利益が出たとしてもそれに対して払うキャピタルゲイン税は600万円に比べればたいぶ小さいものだろう。このようにベア型ETFをコアのロングデルタのヘッジに使うことによってキャピタルゲイン税の不用意な支払いを避けることができることがある。その他にももちろんベアETFを単体で購入し、シンプルにマーケットの下落にベットする、というような使い方も可能である。
2. レバレッジ型ETFの運用と特徴
さあ上記のようにレバレッジ型ETFは原資産のパフォーマンスの整数倍に連動するわけだが、そのファンドはどのように運用されているのだろうか。実は1倍の通常のETFと違いそれらは原資産の先物を使い運用されている。正確にいうとx倍のETFは運用額AUMのx倍の先物ポジションを持つことによって、原資産のx倍のパフォーマンスに連動するファンドというものを実現しているのだ。たとえば運用額100億円、2xのブルファンドであれば、その中身は200億円分の先物のロングポジションであるし、-1xのベアファンドであれば中身100億円分の先物のショートポジションである。
しかしながら、彼らはAUMに合わせてそれらの先物ポジションをそのまま放置しているわけではない。「原資産のx倍に連動する」ということを達成するために毎日機械的に先物を買ったり売ったりするオペレーションが必要になるのである。結論から言うと彼らはマーケットが上がった日には先物を買い、下がった日には先物を売る必要がある。それゆえ単日ではなく、複数日で見た場合はレバレッジ型ETFは「原資産のx倍に正確には連動していない」という現象が起こるのである。この現象を運用額100億円の2xブルETFを例にとって簡単に説明しよう。ある日、日経平均が2%あがったとする。2xブルETFはもともと200億円分の先物を持っていたので、2%あがるとその価値は204億円分になる。ところがもともとの運用額は200億円ではなく100億円だったので、2%あがったあとの運用額は100億円 + 100億円 x 2(ブル) x 2%(値上がり率) = 104億円であるはずである。そして運用額104億円に対して2xブルETFがもたなければいけない先物は208億円分であるから日経平均が2%上がった時点で、このファンドは4億円分の日経平均先物を買い足す必要がある。(3x, -1x, -2xなどの他の整数倍の場合も買う/売るの量こそ違えど同一方向のヘッジニーズが生じる。ご自身で計算してみていただきたい)このようにレバレッジ型の「あがったら買う/下がったら売る」とう方向のヘッジはオプションのショートガンマからくるデルタヘッジと同一方向なので、レバレッジ型ETFはマーケットに対してよくショートガンマ性をもつ、などと言われたりする。なお、このヘッジニーズはマーケットが1%動くにつき4,500億円ほどのインパクトがあると言われている。正確な額は毎日公表されているレバレッジETFのAUMを全て合算すれば求まる。非公表のプライベートなレバレッジ型ETF・ファンドもあるであろうから、それを加えるとその数字はさらに大きくなる。
さて、ここまでくればレバレッジ型ETFがどのような性質を持つかがみえてきたであろう。彼らはマーケットが上がったらさらに買い、下がったらさらに売るわけだから、上がって下がってのようなレンジ相場ではその基準価額は(シンプルにx倍の先物を保有している場合に比べて)減価し、逆にずっと上がり/下がり続けるというようなトレンド相場ではその基準価格は増価するのである。それを考えるとここ一年で強い上昇トレンドをもっている米国株のインデックスレバレッジ型ETFをロングするのは結果的に言って非常に合理的なポジショニングだったということもできる。ただしそれが他の参照指数について一般的に成り立つわけではないことは再度強調しておく。
3. レバレッジ型ETFはどのように活用されるべきか
上でレバレッジ型ETFはレンジ相場に弱く、トレンド相場に強いと言うことを述べたが、基本的には運用会社はレバレッジ型ETFの長期保有を推奨していない。そのことはレバレッジ型ETFの目論見書をしっかり読み込めばどの銘柄の目論見書にも書いてあるはずである。 なぜならばマーケットは基本的に長期で見るとレンジ相場だからだ。株式市場は過去を見ると、あがるときには短期間に思いっきりあがり、あとはレンジを推移しているということが多い。したがって、レバレッジ型ETFを長期保有するというのはレンジ相場の中で保有する期間が長くなる可能性が高いということを意味し、言い換えると価格が高いところでマーケットを買い、低いところで売るということを繰り返す可能性が高いわけだ。故にレバレッジETFの最も効果的な活用法は私の見解としては、
1. 短期的に指数が上がる/下がるという強い相場観を持っている場合
2. 短期的に自らの持っているロング/ショートポジションをヘッジしたい場合
この2ケースに限られると考えている。たまたま「レバナス」の長期保有は良いパフォーマンスをあげているかもしれないが、それはナスダック指数が歴史上見ても類い稀な上昇トレンドにいる、という前提の上で、はじめて実現している「 結果」にすぎないのだ。
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