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「情報Ⅰ」のパソコン実習まとめ|主体的・対話的で深い学びの実現のために

この記事では高等学校「情報Ⅰ」で実施できそうなパソコンを用いた実習の「ツール🖥️」や「授業例📄」をまとめています.

パソコンを用いた実習にも短所と長所があると思います.短所として,入学してきたばかりの生徒のパソコン操作に対する習熟度がまちまちで,授業の本質とは違う部分で時間を取られてしまったり,差が広がってしまったりする可能性があると思います.ただ,だからといって逃げてばかりというのも良くないと思います.高校生はスマホをメインツールとして使っているのかもしれませんが,大学に入ると山ほどレポートを書かされるため (体験談),スマホでは全く追い付かないでしょう.毎回の授業でコンスタントにパソコンを使い続け,高校生たちにとって未知のツールであるパソコンに慣れる機会を与えることは生徒の将来にとって重要だと思います.

長所として,パソコンを使わないとできない実習はいろいろとあります.紙の上での実習ではどうしても自分一人の世界に入ってしまうことがあるかもしれません.しかしパソコン上であれば,自分が何か操作をすることでパソコンが何か反応を返してくれるという「対話」が必ず生まれ,「深い学び」に繋がるのではないかと期待しています.もちろん,授業を受け身になって聞くだけなのとは違って実習中の生徒たちは「主体的」になるはずです.本記事でもこのような観点でパソコンを上手に使っている事例を紹介できればと思っています.

なお,本記事の構成は学習指導要領に依っていますが,より細かな構成については数研出版「高等学校 情報Ⅰ」(情I/708) とそのシラバス作成資料を参考にさせて頂きました (手元にあった教科書の目次をぱらぱらと見た限りでは最も学習指導要領そのままに近いように感じました).授業例については河合塾の「キミのミライ発見」から探させて頂きました.

本記事は随時更新します.自薦他薦問わず,他に良い「ツール🖥️」や「授業例📄」がありましたらぜひご連絡ください.どんどん追記していきます.紹介文の修正も遠慮なくご連絡ください.


(1) 情報社会の問題解決 [約 14 単位時間]

(1)-(ア) 情報とメディア [約 4 単位時間]

1. 情報とは何か? (残存性,複製性,伝播性など)
2. 情報源と情報の検証 (一次情報,二次情報,クロスチェックなど)
3. 情報とメディアの特定 (物理メディア,マスメディアなど)
4. 問題解決のプロセス (PDCA,ブレインストーミング,KJ 法など)

ツール🖥️ Figma
複数人で共有して使えるオンラインホワイトボードなどの機能があり,ブレインストーミングに使えます.

(1)-(イ) 情報社会における法と情報セキュリティ [約 7 単位時間]

1. 情報社会と法規・制度 (情報社会,情報モラルなど)
2. 個人情報 (個人情報保護法,プライバシー権,肖像権など)
3. 知的財産権 (産業財産権,著作権など)
4. 著作権 (オープンライセンス,著作権侵害,引用など)
5. 情報セキュリティ (機密性,完全性,可用性,マルウェア,サイバー攻撃など)
6. 情報セキュリティ対策の技術 (ユーザ認証,パスワード,生体認証,アクセス制御,ファイアウォールなど)
7. 情報セキュリティ対策の意識 (ソーシャルエンジニアリングなど)

授業例📄 フィッシングサイト体験
授業で使っているサイトの偽物を作って,ID とパスワードを盗まれる経験をさせるというものです.偽メールを送る前に丁寧に偽物であることを説明していますが,それでも話を聞いていなくて騙された生徒がいたそうです.

ツール🖥️ ネット詐欺体験
こちらでもネット詐欺 (っぽい) ページが公開されています.大阪大学のサーバー上で公開されているもので,実際に請求や情報の抜き取りが行われるわけではありません.

(1)-(ウ) 情報技術が社会に及ぼす影響 [約 3 単位時間]

1. 情報技術発展の光 (人工知能,IoT,DX など)
2. 情報技術発展の闇 (デジタルディバイド,インターネット依存症など)
3. 情報技術の適切な活用 (炎上,誹謗中傷,デマ,スパム,位置情報など)

ツール🖥️ To Share or Not to Share
SNS でフォロワーを増やすために他の人の投稿を選んで拡散するシミュレータです.実習後は解説や他の人が拡散したかといった結果を閲覧できます.

(2) コミュニケーションと情報デザイン [約 15 単位時間]

(2)-(ア) 情報のデジタル表現 [約 6 単位時間]

1. アナログとデジタル (連続,離散,失われにくさ,通信のしやすさなど)
2. デジタル情報の表現 (ビット,二進法など)
3. 文字のデジタル表現 (文字コードなど)
4. 音のデジタル表現 (標本化,量子化,符号化など)
5. 画像・動画のデジタル表現 (解像度,光の三原色,ラスタ形式,ベクタ形式,フレームなど)
6. データの圧縮 (圧縮率,可逆圧縮,非可逆圧縮,拡張子など)

ツール🖥️ 文字コードエンコード・デコードツール
文字列をビット列に変換したり,ビット列を文字列に変換したりできます.いくつかの主要な文字コードの場合を比較できます.

(2)-(ア) コミュニケーション手段の発展と特徴 [約 3 単位時間]

1. 通信とその発展 (モールス符号,無線通信,携帯電話など)
2. マスコミュニケーションの進展 (出版,放送など)
3. 情報の発信とメディアの性質 (5W1H,速報性,同報性,蓄積性など)

ツール🖥️ モールス信号変換・モールス信号解読
日本語の文章をモールス信号に変換したり,逆にモールス信号を日本語に戻したりできるツールです.

(2)-(イ) 情報デザイン [約 2 単位時間]

1. 情報を表現する方法 (配色,抽象化,構造化,可視化など)
2. ユニバーサルデザイン (UI,ユーザビリティ,アクセシビリティ,バリアフリー,ユニバーサルデザインなど)

ツール🖥️ ピクトグラミング
プログラミングの表記でピクトグラムを作成できるツールです.日本語表記,Scratch 風,Python,JavaScript に対応しています.

授業例📄 動くピクトグラムの作成
ピクトグラミングならではとも言える「動くピクトグラム」を作成した事例です.活動を通して生徒は,図を動かすことで意図が伝わりやすくなったり,既存のピクトグラムにも改善の余地があったりすることを学びました.

授業例📄 ドリトル製ゲームの UI 改善
既成の簡単なゲームのボタンの名称や配置,効果などを修正することで,遊びやすい UI がどんなものか自分たちで考えていきます.簡単な修正で大きく変えられる点が面白いです.

(2)-(ウ) 効果的なコミュニケーションを行うための情報デザイン [約 4 単位時間]

コンテンツの設計・制作・実行・評価・改善 (プレゼンテーション,ポスター,Web ページ,アプリケーションの UI など)

ツール🖥️ Microsoft Word
ポスターを作成する場合,Word の方が自然と縦のラインを揃えて綺麗に書けるので個人的にはオススメです.HTML への書き出し機能もあります.

ツール🖥️ Microsoft PowerPoint
プレゼンテーションといえばこれですね.UI 作成の用途でもある程度使えそうです.

ツール🖥️ GoogleドキュメントGoogle スライド
デザインという観点ではやや機能が不十分な気がします.共同編集できるのは便利ですね.

ツール🖥️ Canva
豊富なテンプレートや素材を基にスライドやポスターなどを簡単に作成できるサービスです.教育版もあります.

(3) コンピュータとプログラミング [約 15 単位時間]

(3)-(ア) コンピュータの仕組み [約 3 単位時間]

1. コンピュータの構成 (CPU,メモリ,レジスタ,キャッシュなど)
2. コンピュータのソフトウェア (OS,フォルダ,ファイルなど)
3. コンピュータでの数値表現 (2 の補数,論理回路,オーバーフロー,浮動小数点数,丸め誤差など)

授業例📄 micro:bit で学ぶコンピュータの構成
センサやライトなど,より様々な入出力装置を micro:bit から操作し,入力が出力へと繋がる過程をプログラミングさせることで,コンピュータの構成への理解を深めようという実践事例です.

ツール🖥️ SimcirJS
Web 上で動作する論理回路シミュレータです.情報Ⅰで使いそうな部品だけに絞ったバージョンも有志によって設置されています.

ツール🖥️ IEEE 754 単精度浮動小数点数
浮動小数点数で表現できない値がサンプルとしてワンクリックで表示できるようになっている点が便利.

(3)-(イ) プログラミング [約 6 単位時間]

1. プログラミング言語 (コンパイラ,インタプリタ,手続き型言語など)
2. プログラミング (変数,代入,算術演算など)
3. プログラミング (条件分岐)
4. プログラミング (繰り返し)
5. プログラミング (配列)
6. プログラミング (関数,デバッグなど)

ツール🖥️ Scratch
Scratch も制御構造等を学ぶには十分使えます.ただし,小中学校で生徒が使ってきた可能性やオブジェクト指向な面に注意が必要なこともあるかもしれません.

ツール🖥️ Google Colaboratory
メインでは Python に対応していますが,C 言語などにも利用可能なようです.ノートブック形式でコードと説明を並べていけるのが便利ですね.

ツール🖥️ Bit Arrow
Python,JavaScript,ドリトル,DNCL (どんくり) などに対応しています.手が止まっている生徒を見つけるなどの授業支援機能が充実しています.

ツール🖥️ PyTry
シンプルな Web 上の Python 実行環境です.エラーメッセージの日本語化など,自力でコーディングできるようになるための環境です.

ツール🖥️ MakeCode
Microsoft 社製のオンラインプログラミング環境で,特に micro:bit のシミュレータが活用されているイメージです.

ツール🖥️ PyPEN
Python 風 DNCL の実行環境です.PEN,PenFlowchart,WaPEN などの歴史がありますが,今の主力は PyPEN かと思います.

ツール🖥️ XTetra
モダンな Python 風 DNCL の実行環境です.ビジュアルプログラミングとテキストプログラミングの両方に対応しています.

※ 補足
DNCL は「Daigaku Nyushi Center Language」の略で,共通テストで出題される日本語の疑似言語です.DNCL の実行環境が上記の通り開発されていますが,DNCL のみを用いて授業を行うことには賛否両論あります.

ツール🖥️ Waquema
ソースコードを入力するとそれを基に問題を自動生成してくれるツールです.

(3)-(イ) アルゴリズム [約 2 単位時間]

1. アルゴリズム (フローチャート,アクティビティ図など)
2. アルゴリズム (線形探索,二分探索など)

ツール🖥️ アルゴロジック
順次・繰り返し・分岐を組み合わせてロボットをゴールまで移動させるゲームです.プログラミング・アルゴリズムの単元の導入として良いかもしれません.グループ対決用のワークシートも配布されています.

ツール🖥️ ソートアルゴリズムオンライン学習ツール
バブルソートや選択ソートをカードの並び替えで学習できるツールです.演習モードでは操作を自動で正誤判定してくれる機能が付いています.

(3)-(ウ) モデル化とシミュレーション [約 4 単位時間]

1. モデル化 (物理モデル,論理モデルなど)
2. モデルの作成
3. シミュレーション (物理モデルを利用したシミュレーションなど)
4. シミュレーション (論理モデルを利用したシミュレーション,乱数を利用したシミュレーションなど)

調査中です・・・

前述のプログラミング環境をそのまま使う場合や,Excel を使うことが多い気がします.

(4) 情報通信ネットワークとデータの活用 [約 16 単位時間]

(4)-(ア) 情報通信ネットワークの仕組み [約 7 単位時間]

1. コンピュータネットワーク (インターネット,LAN,WAN,ハブ,ルーターなど)
2. 通信プロトコル (アプリケーション層,トランスポート層,インターネット層,ネットワークインタフェース層など)
3. パケット通信 (ルーティングテーブルなど)
4. 通信の信頼性 (パリティビット,応答パケットなど)
5. IP アドレスとドメイン名 (DNS など)
6. WWW や電子メールの仕組み (HTTP,URL,HTML,SMTP,IMAP など)
7. 情報の暗号化 (平文,鍵,共通鍵暗号,公開鍵暗号,デジタル署名,デジタル証明書など)

ツール🖥️ ProtoSim
通信プロトコルシミュレータで,スマホでの Web ページ閲覧という場面における,各層のデータを可視化したツールです.ミッションを解きながらデータを観察することで,通信プロトコルの働きや役割がわかります.

ツール🖥️ Wireshark
言わずと知れたパケットキャプチャです.生徒に使わせるというよりも教員が演示するのに使えそうです.

ツール🖥️BOUCHO
共通鍵暗号,公開鍵暗号を PC とスマホで体験できるツールです.教員向けの紹介動画もあります.特に公開鍵暗号について,2 つの鍵を誰が持っていていつ使うのか理解が深まりそうです.

(4)-(イ) データベース [約 3 単位時間]

1. データベース (構造化など)
2. データベース管理システム (バックアップ,トランザクション,ロールバックなど)
3. 様々な情報システム (POS,GPS,ビッグデータなど)

ツール🖥️ sAccess
オンラインで利用できるデータベース実習支援ツールです.プリセットが豊富で,日本語で選択・射影・結合といった演算が行えます.

(4)-(ウ) データの分析 [約 6 単位時間]

1. データの形式と収集 (CSV,マークアップ,バイナリなど)
2. データの収集と整理 (一次データ,二次データ,欠損値,外れ値など)
3. データの種類と尺度水準 (質的,量的,名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度など)
4. データの分析 (度数分布表,ヒストグラム,代表値,分散,標準偏差など)
5. データの分析 (散布図,相関係数,回帰分析など)
6. テキストマイニング

ツール🖥️SGRAPA
中学校数学科で扱うレベルのグラフをぱっと作れるツールです.できあがる図がとにかく綺麗です.単元の導入などで使えそうです.

ツール🖥️ Connect DB
様々なグラフを簡単に作成できるツールです.スマートフォン内蔵の加速度センサ等で生徒が自らデータを取ることも可能な点が特徴的です.

ツール🖥️ とどラン
都道府県別で様々な統計データを蓄積しているサイトです.相関係数の絶対値が 1 に近いデータをサジェストしてくれる機能などがあります.

授業例📄 とどランで学ぶ相関と因果
とどらんのデータを流し込むと代表値の計算や相関図を描画してくれる Excel シートを配布したという授業事例です.仮説→検証→考察という探究の流れが実践されてています.

ツール🖥️ AI テキストマイニング by ユーザーローカル
テキストマイニングといえばこれですね.どこかからテキストデータを拾ってきて分析・発表すると絶対に楽しいです.

授業例📄 英語の入試問題をテキストマイニング
自信が志望する大学の実際の入試問題を使い,単語の出現頻度などを調べることで傾向を探ろうという事例です.ただ,生徒からは単語の出現頻度だけではよくわからなかったという声もあったそうです.(下の方にスクロールしてもっといろいろなグラフを見ると何かわかるかも?)

授業例📄 歌のテキストマイニング
世代の異なるアーティストの歌の歌詞をテキストマイニングで比較するという事例です.手作業で自分たちが目を付けたこととツールで表示されたことが違う,といったアルゴリズムの違いにも生徒たちが気づきました.(自分でもやってみたのですが,品詞の割合やポジティブ/ネガティブといった特徴がかなりはっきりと出て面白かったです.)


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