【プリズンライターズ】本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.1「生か死か」
はじめまして!私は某LB刑務所に務める無期懲役のカエルです。
私が"かえるP J"に入会したのはもう5年近く前の事になります。以来、汪さんや庄子さんをはじめPJの方には大変お世話になり、感謝の言葉しかありません。P Jの活動の根幹を成す"受刑者に本を"という取り組みに支えられながら受刑生活を送っています。
私が社会を離れてもう20年近くになり、すっかり浦島太郎となってしまいました。吉幾三の曲の続きにでもなりそうですが、スマホも実物は見たことも触ったことも無いですし、SNSだのYouTubeだのは知った振りはしてますが、今ひとつ良く分かっていないのが本音です。"10年ひと昔"なんて言いますが、今や3年でも昔と言えるほど目まぐるしく変遷する時代なので、黙って亀に乗って流されていては浦島太郎どころか、いつかは宇宙人になってしまいます。
そこで我々にとって大事な物が"本"なのです。刑務所で購入してもすぐに来ないとか題名しか分からないので買ったはいいが思った本と違うなどという問題もあるにはありますが、それでも貴重な情報源となっています。
それに何と言っても"本"には自由があります。刑務所では好きな曲がラジオやTVから流れても、繰り返し聞くことは出来ないし聞きたい時にも聞けません。TVにしても映画にしても同じです。好きな人と電話やメールすら出来ないし、食べたい物も食べれません。それが刑務所であって我々には当然の罰なので仕方ありません。ですが"本"にだけは多少の自由があります。好きな作家の小説だって、好きな趣味の雑誌だって許される時間であればいつでも読むことが出来るのです。それだけ受刑者にとって"本"が果たす役割は大きく、刑務所で生きていく上で大事な物なのです。
ただ無期懲役という今の立場から、雑誌は、週刊誌や本に関する物や世界情勢・スポーツといった一部雑誌をたまに見る位で、以前とは大きく変化しました。読むといったら殆どが小説などで"宇宙人にならない程度しに浦島太郎でいる"感じです。
恥ずかしながら、私は初犯ではありません。以前にも他の刑務所に服役した経験があるのですが、前刑は満期日のある短期刑でしたので「あと◯日で出所だ!」などと希望というフラッグが立っており、何度見ても変わらないカレンダーを穴が聞くほど見ていましたが、今回は一生をもって償わなくてはならぬほどの大罪を犯し無期刑になってまったので、希望(出所)というフラッグは何処を見ても見当たらず、見える物と言ったら墓場の墓標の様に暗い"絶望"というフラッグばかりが立ち、光さえ見えないため自身を奮いたたせ腐らず罪と向き合い、己の心の光で己の足元だけを照らしー歩ずつ前進する毎日なのです。
以前は満期があったので自然と出所後の為、車や時計、ブランド、旅行やグルメ雑誌ばかり見て「あれ買おう!」「あれ食べよう!」「これやろう!」などと考えたものですが、今刑は見る前から腹一杯で全く見なくなりました。別にいじけてる訳では無いですが、好きな車やブランドの雑誌を見ても20年後、30年後には当然それだけ古くなっている訳ですし、食べ物や店に至っては店そのものが無いかもしれませんからね。それでも入所したばかりのころは何となく淋しくて見たり買ったりしましたが、いつしか買わなくなり同じ部屋で生活している者に薦められても見なくなってしまいました。
ですがその分小説にのめり込み、本ばかり読む様になったのです。学も知識も何もない人間でしたが色々な本を通してさまざまな事を知り、それをきっかけに「あれも知りたい!」「それも知りたい!」などと思える様になりました。始めは日本のエンタメ小説や歴史時代小説ばかりでしたが次第に世界情勢や自己啓発といった多岐に渡り、今は翻訳ものばかり読み漁ってます。そして、その内段々生意気になり、自分にも時間は沢山あるのだから小説ぐらい書けるんじゃないか、自分が読みたいと思うことを書けばいいのだから、なんて馬鹿な気持ちになり「小説を書こう!」とチャレンジーしましたが・・・。ただただ自分のアホさ加減に気付くだけでした。まるで一匹のカエルが大海に飛び込み、泳ぐどころか海水がしょっぱくて目も開けられず溺れてしまった感じですかね。学の無い者が本が好きで、たかだか何冊かの"小説の書き方"などを買った位で小説が書けたら皆、作家ですよ。そんな甘いものではないとすぐに悟ったので、まずはこんな小説が書きたいと大まかなプロットやキャラクターを書き起こし、自分の物語の世界だけは決め、今は何年かけてでも文章力・話彙力・文法や描写技法などの勉強をしようと軌道変更して頑張っています。とにかく書くことと本を沢山読むことです。その内のひとつとして、本をただ読んで「あぁおもしろかった」 ではなく何が良かったか等、本の感想、書評をノートに書こうと決めて 拙いながらそれを続けていました。
そんな話しをP Jの庄子さんと手紙でやりとりしている内に庄子さんから"プリズンライターズ"に書いてくれない?と声をかけられ、少々拙すぎて恥ずかしいのですが、お世話になっている庄子さんや汪さん、そしてP Jの活動に少しでも協力出来るのならと、前置きの長い自己紹介ですが、これから私が読んで良かった本などを書評にして投稿しようと思います。恥ずかしい文章力しか現在はありませんがよろしくお願いします。 また拙い書評ですがコメント等いただけたら嬉しく思います。早速ですが今回は 2016年に早川書房から出版されたマイケル・ロボサムの「生か死か」を紹介します。
「生か死か」マイケル・ロボサム
十年前現金輸送車から七百万ドルが強奪され、死者四名を出す大事件が発生した。
主人公・オーディは、その供犯者として保安官の銃弾を受け、瀕死の重傷を負いながらも生き残ったが、強奪した七百万ドルの行方を知る唯一の男として逮捕され、十年の刑を宣告され刑務所に服役していた。
服役中は強奪した七百万ドルを横取りしようと金の在処を求める輩があとを絶たず、同囚は勿論、刑務所の看守までもが殺しにかかる恐怖と地獄に耐え抜かなければならなかった。しかし、日々命を狙われ続けたオーディは誰にも屈せず、秘密も明かすことなく務めて来たのだが、出所前日に脱獄という驚愕の行動を果たす。脱獄で捕まれば再犯防止規定に基づき二十五年の刑が科せられる。何故なんだ、あと一日で金も自由も手にしたはずなのに・・・。
謎が謎を呼ぶ物語は、脱獄後の行動と強奪事件へ至るまでの半生が克明に綴られており、人生を踏み外したオーディの兄や獄中で唯一心を許せる友となったモス、そして強奪事件を不可解に感じていたFBIの女性捜査官デジレーの視点から恐るべき陰謀とやりきれないほどの悲劇の全貌が明らかになる。
本作はCWAゴールドダガーを受賞したノンストップ・スリラーで、少しの喜びに大きな怒りと深い悲しみ、そしてページをめくる手を止められないほどの楽しみ。サスペンスフルな犯罪心説でありながら、まさに喜怒哀楽の揃った究極の愛の大作でもある。再読必至、声を大にして是非読んでもらいたい物語である。これほどの不運と、これほどの幸運を・・・。
■「生か死か」マイル・ロボサム
2016年ハヤカワ・ポケットミステリ
2018年 ハヤカワ文庫
【プチ情報】ロボサムの翻訳出版は昨年までありませんでしたが、昨年立て続けに出ました。
R3. 6「天使と嘘 上下」ハヤカワ文庫
R3. 6「誠実な嘘」 二見文庫
【PRISON WRITERS】投稿へのサポートに関して/ 心が動いた投稿にサポートして頂けると有り難いです。お預かりしたお金は受刑者本人に届けます。受刑者は、工場作業で受け取る僅かな報奨金の1/2を日用品の購入に充てています。衣食住が保障されているとはいえ、大変励みになります。