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井上手漉き工房/井上みどりさん

2023年6月16日&23日放送

 今回のお客様は、土佐市高岡町「井上手漉き工房」の4代目・井上みどりさん!

■ 井上みどりさん
室戸市出身。製紙会社で勤務する中でご主人と知り合って結婚!ご主人の実家が土佐市で明治から続く「井上手漉き工房」でした。長く工房を牽引してきた3代目(ご主人の父親)が今から20年前に亡くなってからは義母が工房を続けていましたが、和紙への想いを募らせた井上さんが2017年に家業を継承。現在は4代目として、手漉き和紙の販売・卸のほか、和紙を使った雑貨の製作、体験イベントの開催などを行っています。

〔 番組収録風景 〕

▶ 導かれるように土佐和紙の世界へ!

 室戸市に生まれ、毎朝波の音で目覚めるような生活だった子ども時代は、実はインドア派だったという井上さん。家の中で読書をしたり、いろいろなことを空想するのが好きな少女でした。子どもの頃から紙に興味を持っていて、折り紙を使って“天女のちぎり絵”を作ったり、夏休みの宿題として紙を使った製作物を作った記憶が残っているそうです。

 その後も“紙”との縁は続き、学校を卒業した後に就職したのが製紙会社!そこでご主人と出会って結婚します。そんなご主人の実家が土佐市で明治から続く土佐和紙工房「井上手漉き工房」だったのはまさに必然だったのでしょう。井上さんにとっては、子どもの頃から一本の道がスーッと開けていたんでしょうね。

〔 伝統ある井上手漉き工房 〕

▶ 先代の想いを継いで

 井上さんが嫁いだ頃「井上手漉き工房」は10代から和紙職人一筋だった義理の父親(3代目)と、幼い頃から和紙づくりの手伝いをしていた義理の母親が切り盛りしていました。3代目は重要文化財修復用の和紙を製作する技術保持者として文化庁より認定を受け、様々な文化財の修復に携わっていて、鎌倉時代に書かれた藤原定家の日記【明月記】も3代目の和紙を使って修復されたんだとか。土佐を代表する和紙職人だったんですね。

 しかし今から20年前に3代目が急逝。夫の想いを継いだ義理の母親が和紙づくりを続け、井上さんも徐々に工房の手伝いをするようになります。職人として一心不乱に和紙を漉いてきた3代目の背中を思い出し、その想いを継いだ義母の背中を見つめ続けているうちに、いつしか井上さんの胸には「工房のために何かしたい」という想いが芽生えてくるのでした。

 その後10年間、工房を守ってきた義母も高齢となり「今後工房をどうしていくのか?」という話になったときに、井上さんの脳裏に浮かんだのが先代の姿でした。先代が漉いた和紙を手に取った瞬間、電気が走った感覚が思い出され、気が付けば「お義母さん、私がやります!」と口にしていたそうです。特に意識することもなく日常の光景として見ていた義父と義母の背中から、知らず知らずのうちに受け継いでいたものがあったんですね。

 こうして2017年、27年間勤めた会社を退職し、4代目として家業を継ぐ決意をした井上さん。周囲からは「今から始めるのは無謀だ」という声もあったそうですが、先代が作ってきた綺麗な土佐和紙に一歩でも近づきたいという真っ直ぐな想いはもう誰にも止めることが出来ないのでした。

〔 井上手漉き工房の作業場 〕

▶ 土佐楮から和紙が生まれる奇跡!

 手漉き和紙ができるまでには様々な工程があります。大まかに分けると…
① 原料となる楮を山から切り出す
② 楮の皮を剥ぐ(へぐる)
③ 皮をアルカリ溶液で煮る(煮熟)
④ 皮を叩いて繊維をほぐす(打解)
⑤ 簀桁という道具を使って漉く
⑥ 漉き上がった紙を乾燥させる

 和紙を漉く作業は、原料である楮から繊維のみを取り出し、全体の96%を削ぎ落していくという作業。楮という植物を選び、その枝から和紙を作り上げる術を編み出した先人の知恵にはただただ驚くばかりです。

〔 土佐楮の枝から和紙ができるなんて♪ 〕

▶ 土佐人がつくる土佐和紙

 「井上手漉き工房」では様々な和紙をつくっています。

■ 柿渋紙(かきしぶし)
 手漉き和紙に柿渋を刷毛で一枚一枚手塗りしています。自然な柿渋の色目や風合いで表具で用いられる以外にも、耐水性、防虫効果もあるので食品の保存袋等にも用いられています。

■ 鬼皮(おにかわ)
 楮の黒い外皮を和紙に漉きこみました。固くてゴツゴツした外皮は無骨そのものですが、和紙に漉きこむと素朴でやさしい風合いを醸し出します。

■ 墨入り(すみいり)
 淡いグレー色の手漉き和紙です。墨に染まった黒い繊維がチラチラと、程よいアクセントになっています。

■ とも白髪(ともしらが)
 楮の赤く変色して固くなっている箇所「ヤケ」を漉きこみました。生成り色の和紙に茶褐色のヤケが混ざり、楮の力強さを感じられる和紙です。

〔 この味わいが堪りません! 〕

 土佐和紙は、福井県の越前和紙、岐阜県の美濃和紙と並び、日本三大和紙のひとつに数えられます。その中でも、最も自由で、様々なバリエーションがあるのが土佐和紙!その数、実に300種類以上と言われています。

 これには「他とは違う自分だけの和紙を作りたい!」という土佐人の気質が表れていて、しかも自己表現のひとつとして作り出した和紙の用途を決めることなく、好きなように使ってもらいたいとの願いも込められています。まさに“自由の国”・土佐が作り出した和紙なんですね。


 「井上手漉き工房」で作った和紙は、土佐市高岡町の工房で販売しているほか、「いの町紙の博物館」でも販売されています。ホームページからのお問い合わせメッセージで注文することも出来ますので、興味のある方はぜひ
「井上手漉き工房」のホームページや各種SNSをご覧ください。

『 井上手漉き工房 』
【住 所】  土佐市高岡町乙2776
【電話番号】 088-852-0207

〔 繊維が作り出す奇跡! 〕

▶ オリジナルの和紙も作ってます!

 様々な和紙を製作している「井上手漉き工房」ですが、ご相談いただければオリジナルの和紙も製作しています。最近ではSDGsへの取り組みもあって、使わないもの・捨ててしまうものを使って和紙が作れないかという相談が多くなってきました。

 例えば「ショウガ」!
食用となる地下茎以外の部分(葉や茎)はこれまで廃棄されてきましたが、「そこから繊維を取り出して紙が作れないか?」というご相談に応えたのがオリジナルの【 ジンジャーバッグ(Ginger Bag)】でした。

〔 これがジンジャーバッグ! 〕

 “土佐和紙は楮から出来るもの”と考えてしまいますが、井上さんは「植物であれば(繊維があれば)和紙は作れる」と考えています。(場合によっては和紙というよりシートと言った方が適しているかもしれませんが…)

 なので、ショウガ以外にも、オクラやイタドリといった高知らしい植物を使った和紙(シート)の相談もあるそうです。今後は自由な発想で、新しいオリジナル素材が出来上がりそうですね。

▶ 卒業証書用の和紙づくりも!

 「井上手漉き工房」のある土佐市の高岡中学校では、昔から卒業証書用の和紙づくりが行われてきたんですが、このたび、井上さんが大先輩の和紙職人さんからこの仕事を引き継いだそうです。

 地元の伝統産業を身近に感じてもらいたいという想いでスタートしたこの活動には土佐市の和紙職人たちが大勢関わっています。生徒たちが懸命に和紙を漉いている姿を見ていると、ものづくりの原点を感じるそうです。素晴らしい取り組みですよね。

 今では全国に広がっている「手漉き和紙の卒業証書」、その発祥は高知県です!この活動をとおして伝統文化が次の世代へと受け継がれ、新しく土佐和紙の世界の門を叩く若者が現れるといいですね。

〔 自分で漉いた卒業証書 〕

▶ 今後の夢は?

 明治から続く「井上手漉き工房」の4代目を受け継いだ井上さんは、伝統の和紙づくりをより多くの人に知っていただき、次代へ繋いで行きたいという想いを持っています。

 そのために行っているのが和紙づくりの体験イベントやワークショップ!色付けした繊維を使って自分だけのアートを作ってもらったり、季節感溢れるランプシェードや、キレイな和紙の小箱を作ったり。旅行専門雑誌とタイアップして参加を受け付けているほか「井上手漉き工房」のホームページからも工場見学などを受け付けています。ぜひチェックしてみてください。

〔 自由な感性で作れちゃう💗 〕


 最後に井上さんの今後の夢を伺いました。

■ 日本の伝統文化の技法が “小学校の義務教育”になる!
■ 伝統工芸品の職人が“子供たちの憧れの的“になる!

 
これが井上さんの描く未来のビジョンです。
そのために、日本人のものづくりの原点を子どもたちに感じてもらい、未来へと継承して行ってほしいと考え、いま積極的な活動を行っています。

 土佐和紙の歴史は千年以上。平安時代の延長5年(西暦927年)に完成した「延喜式」の記述には、国に紙を納めた主要産地国として土佐の名が登場します。坂本龍馬が姉の乙女に宛てた手紙も、織田信長が「天下布武」を記した朱印状も、源頼朝の花押が記された書状も、和紙があったからこそ現在まで残っているのです。

 千年の時を超えて時代の声をリアルに伝える手漉き和紙。
次の千年にも伝えていけるように井上さんの活動はこれからも続きます!

〔 この美しさをずっと伝えたいですね 〕

【 放送プレイバック 】📻✨
★ 6月16日(金)放送 ⇒ コチラ から!
★ 6月23日(金)放送 ⇒ 
コチラ から!

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