交響曲第6番『田園』ベートーベンの自筆
今年はベートーベン生誕250年(1770-1827)。世界中で企画されていた数々のイベントの多くが中止になったことと思います。
私は交響曲第7番を演奏する機会を失いました。一方で予定外に第6番『田園』(1808)を演奏することになりました。もっと大編成の曲を予定していたものを田園に変更したのです。
ベートーベンの交響曲どれも好きですが、敢えて言うなら聴くのも演奏するのも7番がもっと魅力的です。6番『田園』にはあまり興味がありませんでしたが、今回魅せられました。
私の担当楽器ティンパニは、全5楽章のうち4分程度と短い4楽章にしかなく、曲のほとんどは聴く側にいます。演奏の緊張から解放されて聴いていると、200年前に生きていた作曲者本人と私たちが会話をしているような不思議な気持ちになります。昔の曲を演奏するのはいつものことですが、なぜか今回はそれを深く感じました。ベートーベンの他の交響曲が構築的で力強さ、厳しさを感じるのに対し、6番だけは穏やかさ、優しさを感じ、目に浮かぶ田園の風景がそう感じさせるのでしょうか。
田園には、楽章毎に標題がついています。
1楽章 田舎に到着した時に人の心に目覚める愉快で明るい感情
2楽章 小川のほとりの風景
3楽章 田舎の人々の楽しい集い
4楽章 雷鳴、嵐
5楽章 牧人の歌 嵐の後の神への感謝と一緒になった慈悲深い気持ち
ティンパニは、雷担当に間違いありません。“ゴロゴロ”と“ピカッ”と落雷の“ドーン”そして4楽章終盤では遠ざかっていく雷。遠雷といえばベルリオーズ(1803-1869)『幻想交響曲』(1830)の3楽章『野の風景』の最後の部分が遠雷を表現しています。こちらはティンパニ4台、奏者4人、それに対して田園はずっとシンプルなスタイルですが遠ざかる様子がよくわかります。
2楽章の終わりにはフルート、オーボエ、クラリネットでナイチンゲール、ウズラ、カッコウの鳴き声が表現され、本当に鳥の声のようです。本物の鳥のような音はマーラー(1860-1911)と思っていましたが、ベートーベンが先んじていました。
今回6番田園を演奏すると、ベートーベン交響曲全曲演奏にリーチがかかる。あとは1番を残すのみ。しかし、コンプリートは難しそう。過去に1番演奏の機会をスルーしたのが今になって悔やまれる。
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タイトル画像は『田園』のベートーベン自筆譜の一部です。下の書籍から引用いたしました。
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