【読んだ本の話+α】陶芸家・鹿児島睦さんが生み出す、今まで見たことがない世界に触れる。
今回は、令和6年2月24日(土)~令和6年4月14日(日)まで、静岡県三島市で開催中の陶芸家・鹿児島睦(まこと)さんの展覧会「まいにち展」を見た記録と。
ミュージアムショップで購入した本「鹿児島睦の器の本」(2017年発行/美術出版社)の感想です。
鹿児島睦(かごしままこと)さんの「まいにち展」へ
陶芸家でありアーティストである鹿児島さんを知ったのは、「陶芸好きな人がインスタで公開していた」器の写真を見てから。
鹿児島さんが作った素敵なお皿に朝ごはんが盛り付けられていて。
「この、なんともかわいらしいお皿は何?」
そう感じて、深く調べたことがきっかけです。
いがらしろみさんとコラボしていたり。梨木香歩さんと絵本をつくったり。あちこちでお名前と器の写真を見聞きするものの、実物を見たことはありませんでした。
それが、現在静岡県三島市にある美術館で開催中の展覧会で、実物を間近で見られると知り。
行ってまいりました。
近距離で見つめる、手仕事の質感
手描きの絵が施されたお皿たち。
そのすべてが手づくりです。
鹿児島さんは沖縄の美大で学ばれた後にサラリーマンを経験し、独立。小さな工房で、粘土を伸ばし、型にはめて、お皿をつくって絵を施しています。
染付、鉄絵、かき落とし、型押し、下絵付けなど、あらゆる技法を駆使して生み出す、少しずつ表情が異なるお皿たち。
作品ではないのだそう。
お皿はあくまで日常で使われるものだから、日々に溶け込むものであるべきだ、とこの日購入した「鹿児島睦の器の本」にも書かれていました。
黒地・下絵付けの大皿が並ぶギャラリー
鹿児島さんのお皿を思い浮かべる時、最も印象的なのがこの、黒地にカラフルな色で動物や花、植物が描かれたシリーズ。
繊細。
でも大胆(絵柄に書き込まれた細い線は、絵が仕上がってから細いニードルのようなもので下書きもなくザクザク削って仕上げている※展覧会の動画で拝見)。
途方もない。
これをすべてひとりでもくもくと作り上げる動画を見ながら、これを「日常の道具」と表現できるその強さに想いを馳せました。
(これらのお皿を購入するには一枚数十万円かかります。公式サイトのオンラインショップ参照)
梨木香歩さんとのコラボブックの紹介コーナーも
児童文学作家、梨木香歩さんが、鹿児島さんのお皿に合わせて文章をつくった絵本「蛇の棲む水たまり」の内容を展示するコーナーがありました。
とても深くてとても心を満たす作品。
概要は、「ユニコーンになりたかった馬が、蛇が棲んでいる水たまりへ行くと、水溜りの中でだけ蛇は竜の姿になれるのを知る。でも水から出てしまうと蛇に戻る。
蛇は、実は龍であることを誇りに思いながら、ひけらかすことはない。
馬はたくさんの出会いを経て、ついに、ユニコーンになることができた。でもそれはほかの誰かに知らせる必要はない、自信を持って生きればいいという境地に達して、抜け出した仲間のもとに帰る」というようなお話だと感じました(違ったらすみません)。
もし自分が手元に置くなら
白地に青い染付のお皿がいいなと思います。
釉薬をかける前に、白を残したい部分に蝋を引いて。そこに釉薬をかけて焼成すると、マスキングされてない部分が青く焼き上がるのだそう。
マスキングしきれなくて少し残る感じとか。
青い花や葉っぱの中を飾る細い線の描き込みとか。
すべて味わいになっていて、惹かれます。
世界中のコレクターが愛用する器の紹介
2017年発行のこちらの本。
鹿児島さんは自分がつくったものの写真とか、資料とか、全く残されないそうで。
出版社の方が、鹿児島さんのお皿を扱うショップに掛け合い、購入した人を割り出し、オーナーさんの家を訪ねてコレクションを見せてもらいながら、魅力を語ってもらうというスタイルで編集された本です。
すごい労力ですが。
日本人だけではなく、ロサンジェルスや台湾のショップでも売られているだけあり、海外のオーナーさんたちも数多く登場し、読み応えがあります。
初期の作品は今と少し風合いが違うのもかわいらしい。
このうつわを日常使いできるようになるには、かなりの社会的ステージアップが必要だなと個人的には思うのですが。でも、大好きなものほど日常に取り込みたい。その気持ちはわかります。
なんとなく。
商業ベースにのりながら作りたいものをつくり続ける
「鹿児島睦の器の本」の最後のインタビュー記事に興味深い一文を見つけました。
このくだりは、どんなクリエイターにも当てはまるし、なんの職業についても大切にするべき姿勢だと感じたのです。
まず人間関係を築いて(会社員でも職場とか取引先とか)。
その上で売りたいものを売る。引き出したい情報を引き出す。
だから皿は「アートではない」のだけど、表現したいものを世に出し続けることに成功している、稀有な存在だなと感じます。
ああ、だから惹かれるのですね。