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一杯のポタージュとまちづくり

それは一通のメールから始まりました。

宮崎県西都市のまちづくり会社の方からの「お土産づくり」を手伝ってほしいという内容。何でも商品開発に行き詰まっているとのこと。

呼ばれればどこにでも飛んでいく癖があり二つ返事で会いに行くと伝えて4日後には宮崎へ向けて車を走らせていました。

私の自宅から西都市までおよそ3時間。
道中で今まで食を扱っていなかったまちづくり会社がなぜ地域のお土産づくりを始めることになったのか、そこにはどんな経緯があるのか思いを馳せていました。


なぜお土産をつくるの?

古墳の街、西都

まちづくり会社に到着し早速ヒアリングを始めました。
主な内容としては下記の通りです。

  • 西都市にはこれといったお土産がない

  • 農業は盛んだがこの地域特有の産品があるわけでもない

  • 古墳が有名だがそれ故「古墳しかない」と揶揄されることもある

  • 観光客は多いが宮崎市と近いため日帰りばかり

  • 街に活気がない

そして今回のお土産づくりを通してもっと色んな方に西都市を認知してもらうきっかけにしたいと。

ただ、話を聞く限りもっと深い動機があるのではないかと感じました。言語化されていない、何か鬱屈した感情が伝わってきたのです。

このままだと「西都市のお土産をつくる」ことが目的になってしまい上手く行かないだろうと感じました。作ったはいいがどう売るの?特産品を素材に使うだけで売れるお土産になるの?そんな地域のお土産が日本中に溢れています。

なので「なぜお土産をつくるのか」「その先に何を目指すのか」「どんな未来を描いているのか」と深掘りをし、このお土産をつくる先、もっと言うとまちづくりのビジョンから考えましょうと提案しました。

ビジョンづくりから始める商品開発

何度も通ってビジョンを決める

「食のブランディング」を依頼したはずなのにまちづくりのビジョンから考える…?チームの皆さんから困惑した空気が伝わってきたのですが、現状で進めることの危うさを伝え、ビジョンから逆算して何をすべきか明確にした方が上手くいくからと納得してもらいました。

ビジョンづくりは「ロジックモデル」という手法で取り組みます。ロジックモデルとは、

ある施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したもの

文部科学省「ロジックモデルについて」

と定義されています。具体的にはビジョンを策定し、そのビジョンを実現するにはそれに関わる生活者にどんな変化が必要か(アウトカム)→その変化を生み出すにはどんな施策が必要か(アウトプット)→その為にはどんな活動をせねばならないか→その活動にはどんなリソースが必要か、、とビジョンからどんどん逆算して「今やるべきこと」を見つけていく手法です。このようなワークシートを用いて考えていきます。

ロジックモデル

ビジョンから考えるけど整えるのは資源から。バックキャスティングと呼ばれる将来のありたい姿から今やるべきことを導く思考法です。

このロジックモデルを作るべく何度も何度も西都市に通い「本音」を引き出すワークショップを行い、最終的に「アップデート可能なまちへの土壌を創る」というビジョンに決まりました。

ビジョンに込められた想い

実はチームの皆さんは移住者ばかりで「外様」だからこそ感じる西都市の空気感を感じていたそうです。それは西都市が非常に保守的でどこか諦めにも似た感覚の人が多いこと、若い人たちが「この街を変えていこう!」という気すら起こりにくい空気になっているとのことでした。

だとしたらその街の空気から変えていく事がまちづくりに繋がっていくのではないかと考えたのです。自分たちがお土産づくりを通して西都市でもこんな事が出来ると背中を見せ続ける事で少しずつでも市民の感覚が変わり、後を追って新しい事を始める人が現れるのではないかと。

そんな想いが「アップデート可能なまちへの土壌を創る」というビジョンに込められています。

まちづくりってそもそも何なの?

ロジックモデルで街の未来を考える

そもそも「まちづくり」とは何か。いわゆる地方で「まちづくり会社」と呼ばれる企業は、都心でデベロッパーが手掛ける直接的に街をつくる事とは異なります。では何をやっているのかというと、私は「人と人の接点を再開発」しているのではないかと思うのです。

人口が減り時代も変わり、街に求められる機能が変わっています。街はそのままで良いはずはないのに何も変わらず、コミュニケーションの機会はどんどん失われ、生活する上での不便さや人が交わることが少なく活気のない状態を抱え続けている地域が多いのではないかと思います。

人が幸せを感じるのは自分の行動が誰かの為になった時。であればこのような地方の状態は幸せを感じにくいのではないでしょうか。おせっかいかも知れませんが「人と人の接点を再開発」する事で小さな幸せが伝播して、やがてそれはそこで暮らす人たちにとって住みやすい環境をつくることに繋がっていくのではないかと思うのです。

今回決まった「アップデート可能なまちへの土壌を創る」というビジョンは自分たちのお土産づくりという行動を通してその接点を作りたいのだなと理解しました。

具体的に何をやる?

さて、ビジョンが決まったので後はどうすれば実現出来るかを考え、その為に何をする必要があるかを再びチームの皆んなで考えました。そこで出てきたのは主に3つ。

①まずは当然お土産づくり。何も持たない自分たちが西都市の農産品を使って商品開発をし、人々に支持されるブランドに育てる事で生産者の方々にも新しい可能性を感じてもらえれば、と考えています。

②二つ目はチームメンバーのような移住者を中心とした西都市を変えていきたい人を「カワリモン」と呼び、そのコミュニティをつくること。外様だからこそ感じる西都市の可能性を広げていければと、すでに「西都カワリモンLab.」として活動を始めています。

③そして最後にこのお土産を通して西都市民のシビックプライド(地域への誇りと愛着)を醸成させていくこと。自ら街に赴き市民と接点を持ち、この商品をじわじわと浸透させていき最終的には西都市に対し誇りを持ってもらいたいとのことでした。

これらアウトカム・アウトプットを決めてようやくお土産の開発に着手しました。

地域のお土産の企画をつくる

清酒発祥の地、都萬神社

商品の企画は西都市の歴史や文化を掘り下げる所から始めました。神話が数多く残る宮崎県。西都市も例外ではなく、「清酒発祥の地」とされる神社があります。

それは「都萬神社」といい、日本書紀の中で木花開耶姫が3人の御子を母乳の代わりにお米を発酵させたものを与えて育てたという神話が残る神社でした。それが清酒の始まりだと。

お米を発酵させて作る、つまり甘酒の原点がこの西都市で生まれている。農業が盛んで様々な野菜や果物が栽培されるが、品種自体は珍しいものは少なく素材に使ったとしても差別化が難しいという現状。そこでこの西都市に残る神話から甘酒を使ったお土産にしてはどうかと企画が決まりました。

レシピ作成には『ザ・プレミアム・モルツ presents CHEF-1グランプリ2023』で全国461名の応募の中から勝ち進み、見事準優勝に輝いたフードクリエイターの丸山千里さんに参加してもらい、西都市の甘酒と農産物で3種のポタージュが完成しました。名前は木花開耶姫にあやかり、西都市の色とりどりの農産物にちなみ「コノハナイロ」と名付けました。

全国で引っ張りだこの丸山千里さん

私がビジョンから作りましょうと面倒なことを言ってしまったが為に非常に時間がかかりましたが晴れて完成に至りました。さぁ、後は売るだけ…ではありません。

ここで当初のビジョンに立ち返ります。このお土産プロジェクトはあくまで「アップデート可能なまちへの土壌を創る」ことが目的。まずは西都市民の皆さんに受け入れてもらわなくてはいけない。そこでPOPUPによる「振る舞い」を提案しました。

「コノハナイロ」デビュー!

「西都花まつり」での振る舞いPOPUP

古墳群の周りの広大な敷地に桜とコスモス畑が広がる西都原古墳群で毎年催される「西都花まつり」。4万5000人が集まる中で無料の振る舞いを行いました。ブランドのお披露目もありますが、まずは西都市民の皆さまに飲んでもらいたいという想い。でも本当に受け入れてくれるのか、現実は冷ややかなんじゃないか、不安を感じながらのPOPUP出店。

しかし、嬉しいことに結果は300人分用意したポタージュがたったの2時間でなくなりました。一度飲んだ人が美味しかったからと別の人を連れてくる。その連鎖であっという間になくなったそう。私も現地に応援に駆けつけましたがPOPUPに集まる人々を見て胸が熱くなる想いでした。

宮崎市「街市」出店の準備風景

又、その1ヶ月後に今度は宮崎市の一番街で12年間も続けている「街市」という商店街にPOPUPを出せる催しに出店させてもらい、ここでも400人分を振る舞いました。どんなスープなのか説明に耳を傾ける人、おかわりを求める人、友人同志で楽しそうに試食する人、そこには間違いなく数々の「接点」が生まれていました。

まちづくりを一杯のポタージュから

このスープが西都市の、そして宮崎県の定番お土産になるにはまだまだ道のりは長いでしょう。でも一見すると非効率な、こうした宮崎県や西都市で暮らす方々との交流を続ける事で街の風景や市民の生活に溶け込み、じわじわと内側からブランドが浸透していく、そんな姿を目指してもらいたいと願っています。

そして皆さんにお配りした一杯のポタージュから始まったブランドの姿を見た西都市の方々が、「何か西都って面白くなってきたよね」と感じてもらい、積極的に西都市のことを友人知人に語る様になり、自分でも何か始めてみたくなる、そんな循環をつくれたらこのお土産プロジェクトの成功と言えるのかな、と思います。

最後にお願い

この西都市の「コノハナイロ」、現在Makuakeで先行販売中です。食に関わったことのない会社がより良い街の未来を描きたいとプロの手を借りチャレンジしている姿は全国のまちづくりに関わる方々にぜひ知ってほしいです。

そして西都市や宮崎県出身だったり何かしらの縁がある皆さま、この新しいお土産のプロジェクトを応援してもらえると嬉しいです。

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