2023年『首』感想
2023年映画『首』(監督/脚本/原作/ 北野武)鑑賞。
昨年11月には鑑賞していたのに随分遅くなってしまいました。
そして! 尾張言葉で話す狂気の織田信長を演じ、鮮烈な印象を残した加瀬亮さんは、2024年3月8日に行われた第47回日本アカデミー賞にて優秀助演男優賞を受賞されました。納得です。おめでとうございます。🏆✨
封切り前、映画の宣伝で西島秀俊さん、加瀬亮さん、大森南朋さんがテレビ番組に出ていた。『首』を紹介したのはタレントのフワちゃんだったが彼女はいつものキャラクターで「楽しい『首』! みんな観てねー!」と明るく紹介していて、いや、楽しいは違うだろう、とその時は笑ったけれど、いざ蓋を開けてみるとあながち間違ってもいなかった。前評判通り、たくさんの死体が出て来たけれど、確かに楽しい映画だった。
戦国時代で、処刑すら当然のように公衆の面前で行われるが、野次馬の百姓、茂助(中村獅童さん)らはショーでも観るかのように斬首の瞬間を楽しみ、首を落とされた遺体が身に着けていた物を盗む。更に茂助は仲間の手柄を奪ってでも侍になりたいと言う野心を持ち、家族を捨てて出て行く。なぜそれほどまでに勝手で強欲なのか。それは、上に立つ人間が揃いも揃って人の命を軽く見ているからだ。
常に自分の影武者を用意させて何度襲われても無事でいる家康(小林薫さん)しかり、信長(加瀬亮さん)からの理不尽な暴力に耐え、ストレス発散で信長に見立てた人間を呆気なく殺す光秀(西島さん)も、切腹と言う一世一代の儀に対してあくびをしながら「長い!」と文句を言う秀吉(ビートたけしさん)も。全員が命に対して軽い。あまりに軽く描かれるのでここまで来ると笑えてしまう。
とにかく御託はいい。死は無であり、生きた者だけが成り上がれる。文句があるなら俺の首でも斬ってみやがれ。そう笑いながら相手を挑発する。そこまで徹底したたけしさんの本気のブラックジョークの世界だった。
公開されてから話題になった男色の濃さ、信長の首を狙う光秀たちの思惑、それらを上回る秀吉、秀長(大森南朋さん)、黒田官兵衛(浅野忠信さん)らによる頭脳戦など見所盛沢山であるが、個人的に印象的だったのは曾呂利新左衛門(木村祐一さん)と行動を共にする二人の百姓、丁次と半次(アマレス兄弟さん)が登場する場面。
それまで侍になるチャンスを掴むために簡単に人を殺していた二人だったが、ずっと一緒に行動していた二人の内、一人が罠にかかって死んでしまい、それを見たもう一人は動揺し、悲痛な声を上げる。この映画の中で唯一、人間的な感情が表され、この作品の中では異色なシーンだった。
所詮、お祭り騒ぎができる死は他人事だから。
けれど自分の身近な存在が同じ目に遭えば心の痛みが生まれる。しかし、それを知った所でこの世の中は変わらない。知らない方が幸せなのが多分、この作品の世界だ。
元忍者だが、巧みな話術でちゃっかり秀吉に取り入る曾呂利に対しても、秀吉は一見受け入れたように見せかけて「どうせお前、死ぬけどな」と、さらりと言って泳がせておく。史実上、そして作中でも生き延びる秀吉だがそんな彼の背後にもすぐそこに裏切りが潜んでいる。
と、ここまで長々と書きましたが難しく考えなくても良いくらい、この映画は痛快な娯楽作品でした。とても面白かった。まだまだ書ききれないくらい個性の強いキャラクターがたくさん登場します。また観たいです。
そして個人的に……(西島さんオンリーの感想)
西島さん演じる光秀と荒木村重(遠藤憲一さん)の、かなり露骨な濡れ場を初めて知り、劇場内で静かに一人動揺。暗くて良かった。
村重が光秀に向かって「お前が初めて俺を抱いてくれた夜」と言ったのを聴いた時、一瞬耳を疑った(笑)
信長には「ハゲ!」と連呼されるが、確かにここまで剃っちゃう? と言うくらい耳の近くまで剃り上げた髷姿なので今まで見て来た時代劇の髷姿とは若干異なって見え、うん、ハゲだと思った(失礼か)。
信長に負けず劣らず残虐な性質を持っていて、跡目狙いの好機が訪れたら呆気ないくらい邪魔者を消す光秀ですが、眉目秀麗なので出かける時の正装(すいません。正式名称を知りません)の高貴な姿は痺れました。ただ銃もイマイチ上手くないし、護ってもらわなければ呆気なく追い詰められてしまう。
けれど最期の瞬間、相手に自分を触らせない。首なら自分で斬る。その後なら好きにしろ、私に息がある内は決して私に触れるな。そう言いたげな潔癖さは非常に官能的でした。ほとんど男性しか出て来ない中、西島さんの光秀は作中一番色気を感じました。
※一番好きな予告です。