「自分ならでは」の価値を発揮し続ける。Yukariさんの「キャリアストーリー」(#私だけのキャリアストーリー 005)
金井由香里(Yukari)さんが仕事でやりがいを感じる瞬間は、「自分の価値を認めてくれる人に対し、期待された以上の価値を提供できたと感じる時」だと言う。
「与えられた指示をこなすだけではなく、得た情報から全体を俯瞰して、自分がどう能動的に動けば役員そして組織のために自らの価値を最大化できるのかを考えながら、自分のできることをパズルを解くように考えるのが好きです」と語るYukariさん。現在は外資系IT企業で、”Administrative Business Partner”という肩書で仕事をしている。
「このRole(仕事)は、役員と一緒に仕事をすることで組織全体を俯瞰できるような情報に接する機会が多い立場でもあります。その情報を元に、ある時にはプロジェクトを牽引したり、またある時には広報のような動き方をしたり…。仕事の範疇を広げようと思えば、自分次第でいくらでもできる範囲を広げられる。そんな今の立場に、日々背負う物事の大きさを実感しつつも楽しさを感じながら働けていると思います。」(Yukariさん)
自分の価値を高める「先回り」の考え方
これまで、企業の役員や経営幹部などのビジネス業務を補佐する「エグゼクティブ・アシスタント」(EA)としてキャリアを築いてきたYukariさん。しかし、「実は、元々今のようなポジションを目指していたわけではなく、自分自身もいわゆる『秘書』のような仕事が好きだったわけではなかったんです」と言う。
「私にとって、『上から降ってきた仕事をこなす』という一般的な秘書に対するイメージのような働き方は、あまり合っていないように感じていました」とYukariさん。
「仕事をする上で私が目指しているのは、人が何を求めているかを汲み取って、それに対して先回りしながら価値を提供する、という働き方です。そのためには、情報が集まってくる環境を整える事とボスやチームメンバーなど周りの人たちと信頼関係を築くことが大切なのです。そういう意味で言えば、EA(Executive Assistant)/BP(Business Partner)というポジションは役員と日々接する中で組織の次の動きや必要な情報を把握して全体を俯瞰することができるので、合っているのかも知れません。」(Yukariさん)
YukariさんがEAとしての働き方を志すようになった原点は、大手商業施設でのコンシェルジュとしての経験だという。
日々多種多様な顧客層が訪問する商業施設で、アテンダント業務を担っていたYukariさん。企業の社長から外国人ゲスト、家族連れから子どもまで…異なるニーズをもった顧客と日々接する中で、「相手が何を求めているのか」を常に先回りして考え、一人ひとりに対してホスピタリティをもって柔軟に対応するコミュニケーション術が身に付いた。
多数の訪問者を相手に対応を続けていたある日、コンシェルジュとしてのスキルを特定の組織の中で発揮することで自らの経験をより活かせるのではないかと考え、転職を決意。EAに転身し、身につけたホスピタリティを特定の組織やチームのために継続的に発揮するキャリアを歩み始めた。
「特定の人のために継続して価値を提供することができれば、長期的な信頼関係の構築ができて、お互いのパフォーマンスが上がり、より効率の良い仕事ができるのではないかと考えたんです」とYukariさんは振り返る。
「元々、組織やチーム全体の動きを見るようなポジションが好きで、その人がわざわざやらなくても良いことを先回りして対応しておく、というような動き方ができればと思っていました。信頼関係を築いてより多くの情報が入ってくれば、きっとより大きな価値を発揮しながら仕事ができるのではないかと考えたんです。」
「求められ続ける自分」であるために
EAのキャリアを歩み始めてからは、共に働く企業役員やチームに対して「いかに付加価値を与えられるか」を意識して仕事を進めてきたというYukariさん。コンシェルジュ時代の経験を活かしながら、相手が何を求めているのかを先読みして自ら動くことを心がけた。
「何かを依頼された時、ただ言われたことをこなすだけではなく、それ以上の価値を出したいと考えていました。それによって(ボスとの)信頼関係を築けるのと同時に、自分自身の価値も認めてもらいたいと思っていたんです」とYukariさんは言う。
「私が信頼し尊敬しているボスに、『価値がある存在』だと認めて欲しいと思う気持ちが強かったのかも知れません。認めてくれるのは誰でも良いわけではなく、私という人材の価値を評価し、対価を払っても良いと思っている人に対して、私自身もそれ以上の価値を提供したい。そんな思いが大きなモチベーションとなっていました。」
所属やポジション、パートナーとして共に働くボスが変われば、求められるスキルも変わっていく。その度にYukariさんは自らのスキルを磨き直し、「求められる自分」であり続けることを意識して信頼構築に取り組んできたと言う。
「求められ続ける自分であるためには、リスキリング(知識やスキルの再習得)や学び直しが不可欠だと考えています。特定の組織や誰かに依存するのではなく、常に自分自身をアップデートし続けながら、双方向的に『あなたがいて良かった』と思えるような信頼関係を築くことが大切だと思うんです。」
こうしてEA/BPの仕事を続ける中で、徐々に従来の「秘書」というイメージを打破したいと考えるようになったというYukariさん。
「秘書というと、対外的にはどうしても役員ありきで、しかも与えられた仕事をしているというように見られてしまうことが多いです。ただ、同じ目的を目指して一緒に働く以上、双方向的に価値を提供し合うパートナーのような存在であることが本来のあるべき姿だと思います。『言われたことをやる』というのは大前提で、情報を能動的に取りに行ってチーム全体の動きを効率化するにはどうすればいいか、まで考えて、提案し、時には自分がリードして動くことがEAの役割だと考えています。」
「だからこそ、私にしかできない仕事や、私にしか与えられない価値みたいなものを認めてくれる人に対し、しっかりと付加価値を提供し続けなけれいけない。『誰でも良い』ではなく、『この人だから』こそお願いしたい、と思われ続けるような自分自身であり続けることが、結果として従来の秘書のイメージを打破することにつながると信じています。」
頑張りを、人は見てくれる。
EA/BPとして仕事をする上で嬉しいと感じる瞬間は、共に働く役員やそのチームが自分の価値を認識して貢献を認めてくれた時だとYukariさんは言う。
「先日、米国から重役が来日するということで、日本滞在時のスケジュールはもちろん、ロジ回りやお客様訪問、それに伴う事前準備のアレンジメントとイベントの計画を頼まれていたんです。イベントが終わった後、『こんなスムーズで心地の良い滞在は初めてだった』と重役が声をかけてくれました。自分のボスからは『入社早々(この時、Yukariは転職後新しい会社で業務を開始して3か月が過ぎた頃)丸投げといっていいくらい全てを任せてしまったけど、信じて任せて本当によかった。』という言葉も頂くことができ、自身の働きを評価してくれたようで嬉しくなりました。」
また、ある時にはEA/BPとして共に働くボスが書籍を出版した際、Yukariさんの名前を仕事上の「パートナー」として著書の中に記載し、日々の貢献を讃えてくれたという。
「自分の名前をこうして残してくれたという嬉しさもありますが、それ以上に尊敬できる役員がこうして日々の仕事を見て、価値を認めてくれていたのだと感じられたのが何より嬉しかったです」とYukariさんは振り返る。
「もちろん、EA/BPとしての日々の業務の中には『本当に私がやるべきなのだろうか』というような仕事もあります。それでも、誰も気づかないと思っていた所でコツコツと積み上げていたことを、知らない所でボスが見ていてくれたのだと知り、自分の価値を認められたように感じました」とYukariさん。
「便利な『誰か』としてではなく、私という人材の価値や貢献を認めて、ビジネス上の『パートナー』として信頼しながら仕事を任せてくれる。そんな人と一緒にお互いを認め合いながら仕事をできることは、EA/BPという今の仕事ならではの醍醐味だと感じています。」
今後も、様々なポジションや役員、チームと仕事をする中で、「自分ならでは」の価値を発揮しながら仕事に取り組みたい、とYukariさんは言う。
「誰かにぶら下がったり、依存したりするのではなく、常に一人のプロフェッショナルとして自立した存在でいたいと思うんです。これからもボスにとっての信頼できるビジネスパートナーとして、『Yukariでなければダメだ』と思われるような価値を発揮し続けられる存在であり続けたいですね。」
(文・村井秀輔)