ほろ苦き歓喜
私の救世主は、チョコレートとビールだ。
ストレスが極限に達すると、味がわからなくなる。
「栄養が取れればいいや」と言っていた自分を張り倒したい。
口の中のものを飲み込むのも苦痛だ。
そんなときに、新海誠監督『言の葉の庭』のワンシーンを思い出した。
映画の中で、「これだけは味がわかる」と言って、雪野先生が食べていたものは何だったか。
縋るように、冷蔵庫に眠っていたそれらに手を伸ばした。
実食。
ビンゴ。
私の知っている、味がする。
「おいしい」「生きてる」
ふたつのことばが、口からまろびでた。
おそらく、苦味は生物にとって本能的に感知すべき味覚なのだろう。
毒のあるもの(ないしそれに擬態するもの)は、えてして苦い。
味覚とは、生の実感なのだ。
板チョコを割って口に放り込み、舌の上でじんわり溶かす。
ビールを喉へ流しこむと、炭酸の泡とホップが渦を描く。
「生きたい」と心の臓から叫ぶような苦味が、口の中でダンスしていた。