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君がため
我が衣手に 雪はふりつつ
「21世紀にもなると、スーパーで調達するんだけどね」
プラスチックのパックを片手に苦笑いしつつ、台所に立つ。
せり、なずな。ごぎょう、はこべら、ほとけのざ。
すずな、すずしろ。これぞ七草。
蕪や大根はともかく、ほかの草はなかなか台所ではお目にかかれない。
トントンと刻んでいると、青臭いかほりをが鼻孔をくすぐる。
ガスコンロの土鍋が、ことことと音を立てはじめた。
火を弱め、一度だけ鍋底から大きくかき混ぜる。
お米の甘い匂いがふっと鍋から外界へと旅立ったところで、蓋をする。
「冷えるね。外は雪降ってた?」
寝床の君が目を覚ましたらしい。
「うっすら積もってたかな。」
君が休む部屋には窓がない。
雪化粧した街並みを君が目にできる日は、またくるのだろうか。
火の面倒を見ながら30分。
炊きあがった艷やかな白粥に塩をひとつまみ。
そこに若菜をさっと和えると、七草粥の完成だ。
長寿と健康を祈る粥を器によそい、君のもとに運ぶ。
願いを込めて、いただきます。
をしからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな