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SAUNA

覚えていて悲しんでいるよりも、忘れて微笑んでいるほうがいい。
ネットで見つけたイギリスの詩人の素敵な言葉。

地獄のような熱い部屋にどうしてお金を出して入るのか。
そこに入れば本当に痩せるのか。
お洒落キーワードである”北欧”感に惑わされているだけではないのか。
忘れ物を取りに行くのはスポーツ選手だけなのか。
僕が年を経て見つけた忘れ物がサウナにありました。

思い起こせば小学生の頃、父親がやたらとサウナに入ってて。何故おっさんは熱い部屋に行きたがるのか。幼い僕にとってはそれはかなりの謎だった。

お兄さんと呼ばれる頃になり、サウナはおっさんだけの愉悦ではなく、老若男女(ろうにゃく”にゃん”にょ。って言っちゃう)が楽しめるものだったんだ。と気がついた。

灼熱のサウナルームで湘北戦に向かう牧が「試合はまだですか。監督」と頭にタオルをかけている絵が脳裏によぎる。

水風呂に入る度に思う。サウナは水風呂に入るための準備段階で、水風呂に入るためにサウナに通っているんじゃないかと。

そして外気浴へ。サウナ・水風呂と日常にない温度差に体が「やばいよ、やばいよ」と警告灯を急速に回しだした途端、に訪れる外気浴のリラックスモード。体と脳は大混乱。

アドレナリンが出ているのにリラックス。鞭で打たれながら飴を舐めるような。太陽と北風が同時に現れるような。アクセルを踏みながらブレーキをかけるような。

未来も過去もなくてただ今しかなくて。
体をなでる風が優しくて心地よくて。

感覚が研ぎ澄まされる……気がする。

不安や後悔も消え去って、鳥のさえずり(スーパー銭湯で流れるボリューム激小のBGM。サウナ後にしか聞こえない音)の♬チュッピチュ チュッピッチュ チュッ♪がマルーン5「メモリーズ」に聞こえてきて。最初からあったはずの湯を注ぐモーター音に初めて気づいて。

幼い頃は水風呂や外気浴の良さなんてわからなかった。でもそこに忘れ物が落ちていて、大人になった僕はそれを拾った。幼い頃の謎と一緒に。

サウナに行くと言いながら楽しみにしているのは水風呂と外気浴で、だけど「ちょっくら外気浴に言ってくるわ」と言ったって妻は「はぁ? 庭に行け」って返答するだけだろうから、僕は今日も「サウナに行く」と家を出る。

ちなみのちなみにですが、僕はサウナでは痩せられない。

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