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ちょっと泣いちゃった
あらすじ的な
いぬちゃんはうつ伏せに寝ているのだが、起こせど起こせどまったく無反応だ。いぬちゃんはどうしちゃったのか。
「いぬちゃんよう」
「おい、いぬちゃん」
暇でひまで、目の前のまんまるを突っついてみるも全く返事は返ってこない。
「いぬちゃんらしくないじゃんかよ」
「昨日のカキでもあたったか?いぬちゃんは食いしん坊だからなあ」
「いぬよう、たわらがよう。もちもちがよう」
まんまるのくせに、あんまりだんまりを決め込むものだからいつもなら怒る言葉も言ってみた。
「ねえ、いぬちゃん」
うつ伏せに寝る彼(?)のからだをころがすように揺すってみたが、反応がない。いつもならすぐ怒って、叩いたり突進してきたりするのにちょっとおかしい。
「いぬちゃんどしたの、本当にお腹とか痛いか?」
いぬちゃんはしんどい時、黙る。何にも言わず、何かに耐えている。もともと不思議なやつだが、こういうところは特によくわからない。いつかTwitterで盲導犬は何をされても吠えたりしないよう訓練されているから悪いやつがお尻にスプーンを刺したみたいな事が投稿されていたのを思い出した。なんだかいぬちゃんもかわいそうだ。そんな事を思いつつ、いぬを揺らすのに疲れたので部屋の隅に座っていぬの尻をを眺めていると、母が夕飯だと吠えた。
「いぬちゃん、ごはんだよ。そろそろ起きな」
また眠るいぬを揺すってみ、呼んでも起きないので、ほっぺのもこもこを引っ張ったり、しっぽをむんずり掴んだりしてみたがやっぱり起きない。こんなことはあまりない。
「いぬちゃん知らんからね。わたし先行くからね」
一瞬最悪の場合が思い浮かんだが、「どうせ寝てるのだ」ともみけした。
すっかり母が皿を並べ終え、「手伝いたくないからわざとゆっくり来た」など言う。そんなバカな、部屋からここまでほふく前進でも30秒もかからないし30秒で済む用事とは何なのか。
「いぬも呼んできて。もうごはん」
「いぬちゃん寝てたよ」
「もう一回呼んで来い」
消しきれなかった不安が、母の言葉で簡単に吹き飛んだ。一応、また部屋を覗き母に聞こえるように大声でいぬちゃんを呼んでみたが無反応だ。
わたしは米をよそい味噌汁を注いで運んで席についた。お母さん、最近何だかちょっとおかしい。被害妄想過ぎるというか何というか……母への愚痴を心で唱え、それでも今日の味噌汁はわたし好みで、お母さんはそういうとこがある。
「いぬは?」
「やっぱし寝てた。そういう時もあるよ」
「珍しいな」
お母さんはトイレに行くついでに、夕飯に遅れる不届き者をいつものように怒鳴って呼びつけた。いつ聞いても胸糞が悪い声だ。結局いぬちゃんは出てこなかったみたいで、ドスドス歩いて母が戻ってくる。
「どうだった」
「返事もなかった」
「どうしたのかな、いぬちゃん」
「知らん。作る身にもなってみろや。せっかく温かいものを食べさせてやろうと……」
母はたくさん怒鳴ったがそこから先はよく聞こえなかった。聞きたくないことは聞けないようにできているので、わたしはまだ大丈夫だ。母の怒りは私の生活に向き、私のバイトについていつものように何かを言い始めた。圧倒的な謗りのなか、わたしは無事完食し、「ごちそうさま」と言って部屋を出た。
いぬちゃんはまだ横になっていて、しっぽがべたんと床についている。
「いぬちゃん、しんどいなら言ってみな。力にはなれんけど」
第一にいぬが病気だなんて聞いたこともないし、なんなら死なない生き物だと聞いている。そうしたわけのわからない図太さを持ついぬちゃんなのにどうしてしまったのか、あの不安が蘇りわたしは辛くなってちょっと助けが欲しくなった。
「ねえ、お母さん。いぬちゃんがおかしいよ」
母と部屋に行き、母もいぬを揺すって呼んでみた。何度も何度も呼んでみた。母とわたしが代わる代わる呼んでみた。それでもいぬはやっぱり動かず、二人顔を見合わせた時、互いに血の気が引いたのが分かった。それから母は暴走列車のように救急車を呼び、私はお父さんと弟に連絡するのを任され泣き顔になってそれに応じた。夢中になっていると母の悲鳴が聞こえた。
母と父にコテンパンに怒られつくしたいぬちゃんは、痩せたというか一回り小さくなったように見えた。いぬちゃんはうつむきながら部屋に戻ってきて、こなれたように入ろうとしてドア枠に頭をぶつけた。
「いぬちゃん、わたしは本当に心配したよ」
泣き腫れた顔を見せつけるようにいぬをにらんで言ってやった。いぬちゃんは「すみません」と一言言ってわたしに寄り添ってきた。いぬちゃん、わたしは本当に心配したよ。
「でも、昨日まるって言った」
前言撤回、バトル開始。といきたいところだけどやっぱり今は泣かせほしい。いぬちゃんにもたれると、いぬちゃんはびっくりして、わたしを泣かせてくれた。いぬちゃんだいすき。
おわり
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