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ポストヒューマニティーズとはなんぞや⑧

ちょっと間が空いてしまった。
前回の続き。ポストヒューマニティーズとは、「思考する人間」がいて「思考する対象であるモノ」がある、という人間ありきの世界観を乗り越えようとする試みであり、どう乗り越えようとするかは哲学者によって多種多様、というところまで書いた。その多種多様をまとめてみよう、というのが今回。

岡本裕一朗の「いま世界の哲学者が考えていること」、青土社の「現代思想2019年1月号」などを参考に、いろんな資料をかじり読みしながら照らし合わせて考えてゆくことにする。

例えば人間が絶滅した後の世界について考える、というのもポストヒューマンの一環だし、「思考」から独立した「存在」について考えよう(=「私」がいなくてもモノは存在する)という考えもポストヒューマンだし、道徳や善悪を人がどう判断するかを、脳波で測定し、証明するような方法(心は脳が生み出したもの。人間を、ちょっとロボットちっく、あるいは非・人間として捉えていく)もポストヒューマン。

なるほど。人間不在に向かって開かれていくものは全て、「ポストヒューマン的」と言って間違いではないようだ。それだけ、まだまだ混沌としていて、それぞれが全く違うことを自由に言っていて、体系的ではない状況らしい。

「いま世界の哲学者が考えていること」で、それを半ば強引に体系的にしてくれているので、とりあえずその区分に従う。

①自然主義的転回

心を自然科学的に研究するためこう呼ばれる。自然科学的に研究、とはなんだろう。
人間が決めたルール(赤信号は止まれなど)以前の、自然界の法則(重力など)について学ぶのが自然科学らしい。
また、自然科学と並列される科学分野として、人文科学がある。人間の内面について科学する学問だ。そして心、というのはいかにも人文科学に含まれそうなトピックだ。

つまり、「心を自然主義的に研究する」をもっと詳しく翻訳すると「心は普通人文科学の分野だが、それを自然科学の領域に入れて、自然科学の手法で研究する。つまり、『この人がこういう判断を下したのは脳波の動きがこうで脳のこの部分がこう働いたからでこういう法則に基づきその判断が下された』というようなやり方で心の理解にアプローチする」という感じだろうか。この方法を突き詰めると心の消去につながる。「心」という名前の器官は元来存在しておらず、感情や善悪、道徳などを司る人間の神秘的な部分を便宜的に「心」と呼んで来たが、全ては脳の働きで説明できるとあれば、心は不要になる。これまでの人間理解を覆す、確かにポストヒューマン的な転回だ。

関わりのある学者→ポール・M・チャーチランド、アンディ・クラーク、デイヴィッド・J・チャーマーズ、ジョシュア・グリーン など

②メディア、技術的論的転回

媒体に注目する考え方。これはどういうことかというと、例えば言葉でコミュニケーションを取る場合、音を発する口や喉が必要で、聴くための耳が必要で、書く場合にはペンや紙が必要。媒体に注目するというのは、こういうものに注目するということらしい。
我々は言語に支配されているのでは、というのがポスト構造主義だったが、そうではなく、我々はそれを伝達するメディア(媒体)に支配されているのだ、という風に転回させた考え。

関わりのある学者→ベルナール・スティグレール、ジュビレ・クレーマー、ダニエル・ブーニュー、レジス・ドブレ、フリードリヒ・キトラー など

③実在論的転回

「思考」ではなく「存在」に注目する考え方。実在論、という考えは、古くからある。むしろ構造主義以前からある。それに対して「新・実在論」として、これまでの哲学を踏まえた新しい実在論という考えらしい。ではそもそもの実在論とはどんな立場なのだろう。ちなみに英語ではrealism=リアリズム。時代と場所によって色々な意味を包括する言葉のようだが、大枠では「意識や主観とは独立した、客観的な存在を認める立場」と言えそう。
それが、構造主義によって「客観的な存在というものはなく、人によって色々な見え方があるだけだ。それぞれの文化や歴史的背景、言語によって見えるものは違う」という風に主流の考え方が変化していったわけだが、それをもう一度ひっくり返す立場。

一体どうひっくり返すのか。この実在論的転回は、さらに細かく色々な考えをする人がいるようで、こういう考えが実在論的転回だ、と一言で言うのが難しそう。次回に、実在論的転回をもう少し細かく見ていくことにしたい。

関わりのある学者→カンタン・メイヤスー、グレアム・ハーマン、イアン・ハミルトン・グラント、レイ・ブラシエ、マルクス・ガブリエル など


以上が、「いま世界の哲学者が考えていること」の区分に従って、ポストヒューマニティーズの潮流を自分なりにできる限り噛み砕いてまとめたもの。だんだんポストヒューマニティーズというものの実体がすこーし見えてきた。

5月中には職場の書店でポストヒューマニティーズのフェアをやりたいと思う。答えなんかないような問題だが、それまでにもう少し、頭の中をクリアにしておきたい。



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