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「感染症の世界史」を読んで考えたこと


①「情報」もウイルスと似ている

 正直に言ってこれを読み終えたいま、ウイルスのことをウイルスくんと呼んでもいいような気さえしている。人類vsウイルスの終わらぬ戦いを生き抜いてきた「幸運な子孫」同士、これからも戦いは続いていくよね…もはや人間とウイルスの関係って切磋琢磨ってやつじゃないの…と妙な達観に陥っている。

 でも、本から顔をあげると外にはマスク姿の人々。外が危険じゃ子供は遊べないし、仕事もできないし、貯金は減っていくし、呑気に達観している場合ではない。全くない。

 しかし、もしも自分の起こす行動に実用性のみを求めるのであれば、手洗いの正しい方法とか、消毒用アルコールを購入するコツとか、初めて認可された治療薬の副作用を知っておくとか、そういうことに時間を使った方が良い。それでもこうやってある程度の時間をかけて本を読み歴史を学ぶということには別の価値があると思う。その価値の一つとして、氾濫する情報への耐性をつけるということがあるのではないだろうか。例えば、ウン百万人感染、ナン万人死亡…という数字を前に、その膨大さが発するオーラに気圧されてしまう。本を読んで過去の数字を知っていたら、少しはオーラに惑わされずに済むかもしれない。

 情報そのものが、ウイルスに例えられることは結構ある。誰かが発したフェイクニュースが世界中に感染すること。インフルエンサーが投稿したお菓子が売り場から姿を消すこと。「情報」というウイルスに対する抗体は、知性ってやつなんじゃかしら、とうまいことかけてみたりなぞして。


②概要をとても大まかに

 この本は新型コロナ流行より前、平成30年に書かれた本だ。感染症とは何か、という一般知識に始まり、人類の発達がいかに病原菌の流行を拡大させたか、人間にとってどんな悲惨な被害が出たか、これまでの代表的な感染症はどう始まり、広がっていったのかなどが述べられ、最後には今後感染症が拡大しそうな地域は?というこれからのことが書いてある。
そしてもう、その「これから」はやってきてしまったわけなのだった。

もうやってきてしまった「これから」のことは、もちろんこの本には書いていないが、活かすことが出来ると感じたところはたくさんあった。

私なりに気になったあれこれを書いてみる。


③過去を知ること−新型コロナもまた、歴史上の数ある感染症との戦いの一つ

 感染症は生命誕生から続く生物進化の一環なのだと言う。マラリア、ペスト、天然痘、ハシカ、結核、インフルエンザなど…人類とウイルスの激しい攻防の歴史を紐解けば、数え切れないほどに出てくる。人が病気と必死に戦うように、ウイルスもまた生き残るために戦っている。薬剤に対する耐性を獲得し、強い毒性を持つ系統に入れ替わり、突然変異を繰り返して人間の防御を巧みにかいくぐる。それをまた人間が、新しい薬剤で抑え込む…
 だんだんレベルが上がるイタチごっこが永遠に続いて行くのが、人間とウイルスとの運命らしい。

 そして、新しい感染症(新興感染症またはエマージング感染症というらしい)が次々と出現しているという。それは人間の生活の発展と切っても切れない関係にある。

過密な集落が発達、
家畜との密接化、
急増する肉食需要に応えるために鶏、豚、牛などの大量生産、
ペットブーム、
大量移動、高速移動、

などにより、これまで人とは接触のなかったウイルスがばらまかれるきっかけになっているらしい。(例えばアマゾンの奥地にいたコウモリが保有していたウイルス。長い間ウイルスとコウモリとの間では共存関係にあったが、コウモリは森林伐採で住処を追われ、これまでと別の場所で生活を始めた。そのコウモリがかじった木の実を別の霊長類が食し、付着していた唾液から感染し…という具合に、人への感染にたどり着く、その感染者が飛行機などで簡単に海を渡る事で世界に感染していく…など)

 そして、これまで感染症の世界的な流行は3〜40年周期で起きてきた。が、1968年の香港風邪以来起きていない。そろそろ起きるのでは、と本書の中は述べていた。それが、今というわけなのだ。

 歴史のことをかじったとしても、それですぐに何かの役に立つわけではないが、客観性を得ることは出来たと思う。自分は、長い歴史の中の、そして広い世界の中のほんの小さな点なのだ、と思うことは、少しは心をゆるめることにつながる。家にこもっている時間も多く、世界が狭くなりがちな時こそ、本を読んで視界が広くすると楽になると思う。


④ 現在を知ること−いま流行している新型コロナのこと

 今流行っている新型コロナとはなんなのか。「新型コロナウイルス」というのが固有名詞のように使われているけれど、なんとSARSもMERSも新型コロナウイルスだという。今更なんだ、と言われそうだが、恥ずかしながら私はこの本で初めて知った。今回流行しているウイルスの固有名はCOVID19だ。ということは、SARS→MERS→COVID19と突然変異をして進化したの?とも考えたが、ちょっと調べると全然違って、それぞれ別のウイルスらしい。とはいえ、こう連続でコロナウイルスの襲来が続くと、やはり虎視眈々とウイルスに狙われていたような気がしてならない。
本書より、SARSとMERSの感染状況について抜粋する。

 SARSは2002年11月に中国で最初の感染者が出た。自然宿主はコウモリ。市場で売られている野生動物の肉から感染したと思われる。収束した2003年9月までに8098人が感染、774人の死亡者。

 MERSは2012年の暮れから2013年5月にかけて中東で流行。1992年には、ウイルスが存在していたことを確認。ラクダが感染源と言われる。2014年10月までに855人の感染、死者は333人。ここまでが本書からの抜粋。2020年1月の時点ではまだ感染者が出ている、とインターネットに書いてある。

 そしてCOVID19の感染者は400万人を越え、約30万人が死亡しているという(2020.5.11)。

 ちなみに、今でもマラリアの年間感染者数は3億〜5億、100〜150万人が死亡、と書いてある。数字だけで見るとマラリアの方がずっと深刻に見える。たくさんの方が亡くなっている以上、どちらがより深刻かと比べるのはナンセンスだが、あえて特徴を挙げるとすれば、

マラリアは、人から人へはうつらず、ウイルスを持つ蚊に刺されなければ感染することはない。
治療薬も副作用の少なく精度の高いものへと進化している。
過去の大流行時代に比べれば、根絶に向かってだんだん減少している。

などがあるかもしれない。年間3億でも過去に比べればマシ、というのはなんとも恐ろしい数字だ。逆にいうと、COVID19は

人から人へ感染する
治療薬がまだない
感染者がどんどん増えている

数字だけでみれば日本は今は少しずつ減少傾向にあるようだが、世界規模ではまだまだ、風邪で言うところの「引き始め」〜「今夜が峠」の間のどこかにいるわけで、これが「峠を越える」まではやはりまだまだ収束に向かうとは言えないのだろう。


⑤これからのこと、まとめ

 これから新型コロナ(COVID19)はどう決着がついていくのだろう。本書によると、人類と感染症との戦いがどう決着するかは、次の四つに分けられるのだという。

① 人間が敗北し、死ぬ。ウイルスも道連れになること多し。
② ウイルスが敗北して絶滅する。
③ 和平関係を築く。
④ それぞれが防御を固め果てしなく戦う。

 エボラ出血熱などの、薬がなく致死率の高い感染症は①に該当する。流行地域を隔離して、収束するのをひたすら待つしかないのだという。両者の共倒れとも言える。
 ②はすでに予防接種が義務付けられているような感染症だ。ワクチンが開発され、ほとんどウイルスを根絶できているという状況。
 ③は日和見菌というやつだ。普段からひとの体内にいて、免疫力が低下した時に悪性に変化し、症状が現れたりする。ピロリ菌などがそうだ。
 ④は、普段からひとの体内にいるというよりは、一度感染するとそのまま菌が残り、再発したりする。水疱瘡が、大人になってから帯状疱疹になる、など。

 新型コロナの行く末としては、②を目指すということになると思う。

(①はないと思う。致死率の低さからしても、宿主ごとウイルスを殺す、というところまでは追い詰められていないはず。③も、普段から体内にいるウイルスではないので違うと思う。④は、字面だけみると合っていると気もするが、感染するとウイルスが体内に残るわけではないと思うのでやはり違う)

 例えばインフルエンザは決着したと言えるのだろうか。まず驚いたのが、「スペインかぜ」も「アジアかぜ」も「香港かぜ」も全部インフルエンザなのだということ。そして、インフルエンザのパンデミックはこれまで何度も発生しているのだという。予防接種も薬もあるので、なんとなくインフルエンザは克服できているような感じがしていたが、インフルエンザは突然変異の速度が早くらしく、どんどん進化を遂げている。またパンデミックがいつ起きてもおかしくはないという状況のようだ。それでも、インフルエンザは一度かかれば免疫がつくらしいし、季節が過ぎれば勝手に収束するので、まだ安心できるところがあるような気がする。

 もしかしたら新型コロナは、季節関係なくずっと存在するインフルエンザ、という感じになっていくのかもしれない。インフルエンザよりも潜伏期間が長い分、手強い気はするけれど、一度かかることで免疫がついていくのであれば、未来はそれほど暗くはないような気がする。人間も少しずつ新型コロナに対して強くなっていき、ウイルスもそんな人類に対して強くなっていく。また人間が頑張り、「生命誕生から続く生物進化の一環」として、歴史をなぞるイタチごっこに落ち着くのかもしれない。

 少し余談だが、先日テレビで、ウイルスというものは進化が進むに従って致死率が落ちていく、というようなことを言っていた。宿主を殺してしまえばウイルスも共倒れになってしまうから、殺さない程度に感染させるほうが得だ、ということらしい。
 しかし、そうともばかり言えないような気もする。潜伏期間が長く致死率は低め、というのが新型コロナの特徴だ。潜伏期間が長いと隔離などの措置が遅くなる分広く感染させやすいわけだが、広く感染させた上に致死率も低いとなると、一度かかって治る人も多いことになる。そうすると免疫を持つ人はだんだん増えていき…、ウイルスにとっては、結局行き場をなくすことにはならないか。
 一度感染させたら宿主を殺す、としないと宿主の免疫獲得に繋がってしまい、その代わり宿主を殺したら自分も死ぬことになる、というのは、ウイルスもなかなか難儀な宿命を背負っている。最強のウイルスは潜伏期間がめっちゃ長く、いざ発症したら致死率がすごく高い、という性質なのではないだろうか。
 それにしても、ウイルス目線で考え始めたら、いよいよこれは同志ではないか。

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