最適設計の話



最適設計とは

最適設計とは、設計対象の数理モデルを構築し、そのもとで設計変数や制約条件、目的関数(最小化あるいは最大化したい評価指標)を設定し、各種のアルゴリズムを用いて数理的に適解を探索する作業のことです。

従来、設計者が行っていた設計案の提案と検証という反復プロセスを最適化アルゴリズムによる数理処理で代替することで、設計者が思いつかない解を合理的に生み出すことが期待されています。



最適設計の手順

次の5段階プロセスで構成されます。

【1.設計案生成と選択】
概念設計に相当する段階です。最適化の前提となる設計対象の大まかな構造を決定します。

【2.対象系のモデル化】
1で定義した設計案をもとに数理モデルを構築します。 設計対象を支配する物理現象について領域間、構成要素間の関係を把握した上でシステムの目的に必要応じて簡略化を行います。

【3.最適設計問題の定式化】
構築した数理モデルを踏まえ、設計の目的を考慮した設計変数・制約条件・目的関数を設定します。

【4.解空間把握と分析】
サンプリングなどを行うことによって解の分布の傾向を調べたり、感度解析を行ったりすることによって重要な設計変数の見極めを行います。

【5.最適解の探索】
解空間の把握によって得られた情報などをもとに最適化手法や計算の範囲などを決定します。 最適化計算を実行し、その結果が設計解として妥当であるか検討します。



最適設計の経験的知識

前節で述べたプロセスは「試行錯誤」を通じて進められます。「試行錯誤」とは不具合が発生したときに原因がどの段階にあるのかを探り、その原因を解決するための方法を検討し修正を加えることです。

設計者は不具合が発生したときの状況や、そのときに得られたデータ、専門的知識、自らの経験などから原因に見当をつけ、解決策を探っています。これら一連の内容こそが、最適設計を進めるにあたって必要な「経験的知識」です。


最適設計の課題

実際の設計現場では最適設計はなかなか活用されていません。 設計問題の定式化や数理モデル化が熟練者の勘、経験に依存しているためです。

設計者は設計の目的を踏まえて、計算コストや精度を考慮しつつ適切な工学モデルを構築し、適切な最適化問題として定式化し、問題に適した最適化手法を選択し、得られた最適解の妥当性を検証する必要があります。しかし、そもそも設計では初めからこれらを適切に設定することは不可能です。

そのため設計者は 「システムの性能に対して本質的に重要な物理現象は何か」、「どのように簡略化してモデル化するか」、「何を設計変数にすべきか」、「有効な制約は何か」などを探りながら設計を進めることになります。 つまり設計を進めながら同時に解くべき問題を明確にし、より良い解決策を探すという試行錯誤が最適設計には不可欠です。


この視点で考えると最適設計を進めていくためには、物理現象に関する体系的な専門知識は勿論、試行錯誤の過程で経験的知識を獲得していくことが必要です。 しかし最適設計プロセスの内容の多くは暗黙的であり、その経験的知識を把握し、記述することは設計者本人にも困難です。


最適設計のポイント1

システムの最適設計を行う上では次のプロセスを適切に行うことが重要です。

・何らかの工学解析モデルによる設計解の評価
・最適化問題の定式化
・アルゴリズム選択

最適設計のポイント2

システム化の対象は複雑な複合領域の現象がほとんどです。このような複雑現象に対し解析モデルを構築し定式化するためには、次の方法によって、重要部のみに着目したりシステム自体を簡略化することで対応します。

・システム化する挙動を限定する
・次元を下げる
・幾何学的な対称性を利用する

この過程ではシステムの種類、工学解析の目的、 設計対象この物理的特徴や設計リードタイムなど様々な観点から、計算結果が適切な精度を保証していなければなりません。

こうしたモデリングと定式化のプロセスこそが最適化の核心です。 その内容は通常、設計者の暗黙的な判断、経験に依存しており、最適設計の検証、妥当性確認や結果の再利用に向けては、そのような経験的な知識の明示化が課題です。


複合領域システムとは

機械製品は多くの構成要素から成るシステムです。 また技術領域も、構造や流体、熱、振動、 電気系、制御系など複数にまたがった物理現象に支配されています。そのような対象の最適設計においては、単独分野での最適解の寄せ集めが必ずしも全体としては最適ではありません。

個々の領域の設計問題を一体化、あるいは同時に考慮しながら全体として最適なシステムを追求する必要があります。 このように最適設計が複雑で困難となるものを「複合領域システム」と呼びます。

複合領域システムの最適設計

上述した最適設計の課題は、 問題が複雑化する複合領域システムにおいてさらに顕著となります。複合領域システムの最適設計に向けては、複合領域の連成解析を行える CAEツールや、各種の解析ツールを統合して最適化を実行するためのプロセス管理ツールなどが実用化されています。 しかしながら、これらはあくまでも計算過程の支援を行うものであり、その前提となる数理モデル化および定式化の支援に関しては対象外となっています。




参考文献

井上晴規、 中山寛之、野間口大、藤田喜久雄、 複合領域システムの最適設計における設計者の思考過程の記述的管理法、2014年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集


野間口大、中山寛之、 井上晴規、 戸田康太郎、 藤田喜久雄複合領域システムの最適設計における経験的知識の獲得プロセスの分析、日本機械学会論文集, 2015

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