企業の社会貢献の話

企業の社会貢献という発想は経営の目的に矛盾するように思われます。ビジネスによって獲得した利益を社会に再分配することは、企業本来の目的と齟齬をきたす感じがします。企業はなぜ利益を社会に還元するのでしょうか。



企業視点の社会貢献

それは企業のビジネスに関わる人たちが、社会貢献活動を、その企業への信頼感に結び付ける価値と捉えているためです。あるいは、その企業で働く従業員が、自らの仕事と社会との接点を知り、それを就業意欲や組織としての一体感に結びつけるためです。社会貢献は企業にとって経費のかかる活動ですが、それによって社会からの信用、という非金銭的な価値を得ることができます。企業のビジネスが組織外に認知され、信用を得るために社会貢献活動が効果的だとするならば、その活動に経費を投じることは必ずしも経営の目的に反するとはいえません。



消費者視点の社会貢献

近年、消費者側からも社会的責任(CSR Corporate Social Responsibility)への注目が高まっています。その理由として、様々な産業が成熟したことにより、商品の差別化が困難になったことが挙げられます。従来、消費者による製品の選択基準は主に品質でした。しかし、企業の不祥事が続く中で社会的責任も製品評価規準と見なされる度合いが高まりました。また近年はインターネットが整備されたことによる情報コストの低下も相まって消費者による企業活動の可視性が高まったことも要因として挙げられます。




企業への信頼とは

企業への信頼とは、企業に対して個人が抱いている諸々の期待です。「信用」と「能力」2つの要素から構成される概念です。

【信用】
信用とは、企業が信託された責務と責任を果たす意図を持ち、場合によっては自社の利益よりも他者の利益を尊重することに対する期待です。具体的には環境保護や、雇用や昇進の公平性、地域コミュニティへの関与、文化活動へのスポンサーシップ、その他、社会貢献活動などに対する評価です。

【能力】
他方、能力とは、製品やサービスを提供する技術などの、企業が業務を遂行するうえで必要な能力を有することに対する期待です。具体的には従業員の専門性や、内部調査の卓越性、開発、技術革新、製品の専門性、顧客志向、業界でのリーダーシップなどへの評価です。




企業の社会貢献活動とは

企業の社会貢献活動とは、慈善的な目的で金銭や物品、労力を提供する主体的な行為のことです。具体的には次の2つの属性があります。「利他性」および「事業領域との適合性」です。

【利他性】
利他性とは、直接的な利益よりも他者の利益を重視する企業の姿勢のことです。企業は直接的な利益を求めて社会貢献活動を実施しません。しかし社会貢献活動を実施する結果として、企業に間接的な利益がもたらされる場合はあります。間接的な利益とは、企業の購買行動に繋がる企業評価の向上などの企業収益に直接寄与しない利益です。この間接的な利益として企業の信頼の向上を挙げることができます。

【事業領域との適合性】
事業領域との適合性とは、社会貢献活動と事業領域との組み合わせに対して、ある判断基準でなされる評価のことです。しかしこれらの評価は、時代背景や適合性を見出す消費者によって異なるため、一意に規定できません。

適合性の例として、例えば、企業が自社の事業領域との適合性の高い社会貢献活動を実施することによって、当該企業の業務遂行能力が消費者に認知されます。それゆえ当該企業の事業領域における業務遂行能力についての期待、すなわち能力が高まります。また適合性が高い場合、消費者がCSR活動に対して抱く胡散臭さや不信感といった疑念を解消させることができます。


参考文献

高田一樹、企業の社会貢献と大義―ピンクリボン活動の事例にもとづいて ―

柿崎洋一、企業の統合的な社会的責任の概念的枠組、経営力創成研究、第12号、2016

薗部靖史、企業の社会貢献活動が信頼に及ぼす影響、日本商業学会、第10巻、第3号、2008



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