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説明力の話2(異論・否定)


はじめに

「できる人」は説明する相手や目的、シチュエーションによって話の組み立て方を使い分けています。

説明する相手はいつも同じではありません。また説明の目的そのものが常に同じであることもありません。 時間的な制約、相手の人数など様々です。

本記事では目的やシチュエーションに合わせた最適な説明方法を型としてまとめました。



「異論」の型

「それについては別の考えがあります」

相手の意見や主張に納得できず、反論や異論を唱えたいときに用いるのがお勧めです。


【ポイント1】
ポイントは次の2つです。
①「いかに相手に聞く耳を持って貰うか」
② 「いかに説得力を持たせられるか」

②は勿論①も特に重要です。どんなに素晴らしい反論も相手が聞いてくれなければ意味がありません。


【ポイント2】
ポイント1で述べた②の実現には以下のことに注意します。

・いきなり否定しないこと
・逆説ではく順接を上手く活用すること
・異論と同時に代替案も提示すること
・対立する点が全体ではなく部分的であることをアピールすること



【説明の流れ】
まずは「確かに●●というご意見は、すごくわかります」と相手の意見を復唱し受け止めたことをアピールします。 いきなり異論を唱えないことが異論を通す上で重要です。

真っ向から全否定をする話し出しでは誰にも聞く耳を持ちません。正論であったとしても、相手に心の扉を閉ざされないような入り方を心がけます。

次に自分は別の考えを持っていることを示唆します。「その上で●●とおっしゃっていた部分についてのみ、 私には別の考えがあります」

「しかし」や「ただ」のように逆接ではなく、 「その上で」や「だからこそ」のように、順接で表現することが重要です。 相手のメンタルブロックを作る可能性のある表現は避けます。

またその相手の意見や主張の 「全体」ではなく、その「一部」に自分は別の考えを持っていることを示唆します。 ポイントは対立するのが部分的であることをアピールすることです。

そして最後に反対意見を提示し、理由も添えます。「その考えというのは、●●というものです。なぜなら●●という事実があるのです」

単に反論や異論を唱えるだけでなく、議論であれば代替案も提示することが望ましいです。また理由も加えることで説得力を高め、相手の反論を防ぎます。


【具体例】
確かに「住民の安全を考えた場合、渋滞を緩和するために道路を建設すべき」という主張は非常によくわかります。渋滞緩和の対策を行うことは大賛成なのですが、その上で道路建設についてのみ私は別の考えがあります。

住民の安全性を考えるならば、道路を建設するよりも、例えば子どもたちの通学時間帯のみ交通規制を行うといった対策はどうでしょうか。

というのも、実は道路建設は中長期的には通勤圏が広がり住宅開発が進んで、結果的には交通量が増えてしまうという他県のデータがあるのです。





「クリティカル」の型

「そもそも、その●●は本当に正しいのでしょ
うか?」


前提を覆して議論の主導権を握りたいときに有効です。クリティカルとは直訳すると「批判的な」 という意味です。しかし目の前の相手を責めたり他人をバッシングするものではありません。

議論で議題に挙げられた内容の本質を捉えたり、場合によっては根底を覆したりする機能が「クリティカル」です。議論の方向性を自分で定めることができ主導権を握ることができます。 周囲からは「本質的な人、視野の広い人」と思われます。



【説明の流れ】
まずは「おっしゃることはもっともです」と
相手の発言や考えを受け入れる態勢を整えます。

次に疑問とその理由を投げかけます。
「ただその●●は本当に正しいのでしょうか? なぜなら、 前提となっている●●はそもそも今の状況では成り立たないものだからです」

自分の意見や主張をそのままダイレクトに伝えるのではなく、あえて疑問形にして相手に投げかけるのがコツです。 目的は、謙虚さを示すというよりも、 相手にいったん考える余地を持ってもらうことです。

最後に事実ベースで裏づけを提示します。
「現に、■■のようなことがありました」
理由の根拠を明確にして、自分の意見に論理性を持たせることで、 相手の納得度を高めます。やみくもに「ちゃぶ台返し」をすればいいというわけではありません。科学的なエビデンスを入れることができれば、さらに説得力は増します。



【ポイント】
クリティカルな視点を持つためには、議論で他の人が触れていない前提や一般常識に注目し、それをいったん疑ってみることです。



【具体例】
確かに、その施策を実行されたいお気持ちはすごく理解できます。ただ、今の議論における「前提」そのものを見直す必要があるのではないかと考えています。

なぜなら、 その「前提」となっている条例が制定されたのは30年も前のことで、今は環境が変わっているからです。

実際に、 道路の交通量が5倍以上に膨れ上がった国があり、30年前の条例を考え直すことになったという事例があります。


参考文献

・犬塚壮志、説明組み立て図鑑、SBクリエイティブ(2021)
・藤沢晃治、分かりやすい説明の技術-最強のプレゼンテーション15のルール、講談社(2002)

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