自宅での食事が増えてコンビニが美味しさを極める時代に、レストランがやるべきこと

年始にジョブチューンというTV番組でコンビニ三強が自社商品を一流シェフに召し上がっていただく企画を見ていた。100回以上試作を行いベストな結び加減、塩梅を追求したおむすびを7人のシェフが美味しいかどうか、ジャッジをする。開発担当者が手を合わせて祈る中、7人が満場一致で美味しいと言った。また、人気飲食店監修の元、中には800円するようなリッチな弁当なども開発されていて、各社が美味しさの追求に力を入れている。

大量消費・大量生産の時代の象徴である「安かろう悪かろう」はもう終わったのかもしれない。コンビニ各社が細部へのこだわりを追求し「便利で手軽な上に美味しい」を作り出している中で、僕らのような小さいレストランは何に取り組んだらいいだろうか?

「答えはお客様の中にある。」

僕たちが大事にしている考え方である。改めてこれからのお客様の生活を想像してみる。


新しい生活様式が僕らの日常になるのだから

人々の生活スタイルが変わっても胃袋の数は変わらない。コロナウイルスの影響で、多くの飲食店が苦境に晒される中、スーパーマーケットの売り上げが上がり、ミールキットを利用する方が増えた。

また、外でリアルに″体験″が出来なくなり巣篭もり需要が高まる中で、自宅でできるエンタメに投資する方が増えた。

今年も自宅での食事の機会は増えるだろう。
さらに味覚・聴覚・嗅覚・臭覚・触覚で体感する食体験だけではなく、頭や心でも感じて楽しめるエンタメ的コンテンツが増えてくるはずだ。そのようなコンテンツでシェフの出張サービスがあるが、既存の価値をスライドするのではなく、他にも新しい体験価値の創出が必要だ。


ポケットマルシェさんがやられている『食べる通信』のように各地域のこだわりの逸品と生産者のインタビュー冊子が同梱され、ストーリーを感じながら美味しい+学びのある食体験を提供しているサービスが、僕は好きだ。そんな「物語付きミールキット」の類の商品は、自炊の需要が高まる今、ますますチャンスがあるのではないかと考えている。

さらに、そこにビデオ通話を使用して実際に生産者の方と直接話ができたり、オンライン料理教室が特典として付くとどうだろうか。個別でやっていらっしゃるサービスはあると思うが、パッケージングされて一気通貫できると自宅での「食×エンタメ体験」として選択肢に上がるのではないかと思う。


たくさんの「気持ちいい」「楽しい」を作ってこそレストラン

世の中には美味しいものがたくさんある。そんな中でレストランは美味しいを超えた感動体験を提供する存在であり続けなければならない、と思っている。

昨年はテイクアウトやデリバリーが一斉に始まったばかりで、どのお店も試行錯誤していた。レストランの味わいを詰め込んだテイクアウト商品は美味しさだけでも十分喜んでもらえた。リテラシーがまだ高い分野ではなかったからである。しかし、多くの方が一斉にテイクアウトやデリバリーを体験し、お客様の物差しがより細かくなったことで、今年はより体験を精緻に設計しなければ感動を生むことはできない。

僕らは昔よりもせっかちになっていると思う。YouTubeのような、長尺の動画は早口で端的にまとめられているものがよく見られるし、Tik tokのような、音とリンクしテンポよく進む短尺の動画をアップロードしてユーザー同士がつながるサービスもすっかり浸透している。かつてのマスメディアとSNSを回遊しながら、コンテンツとの出会いを求めている。様々なコンテンツが生まれすぎていて、もはや消費できない。だからこそ、幕の内弁当みたいに詰め込まれた、時間対満足感が高いコンテンツが好まれるのではないだろうか。

1月2日に放映された「逃げるは恥だが役に立つ」の新春スペシャルはまさに「令和」のコンテンツであった。夫婦の在り方の変化だけではなく、ジェンダーへの問いかけ、コロナ禍生活の振り返り、さらにNHKの人気番組ねぽりんぱほりんとのコラボ…。これでもかと詰め込みながらもストーリーを作る編集力。TwitterやInstagramなどを見ると、多くの反響があった。


それらを通して、お客様は費用対効果だけではなく時間対満足感も求めている、と感じた。料理においても同じように捉えてチューニングしていくべきではないだろうか、と思う。シンプルでわかりやすい美味しさはもちろん重要ではある。その上でさらに体験が詰め込まれた料理を用意すると、美味しいだけではなく楽しいや気持ちいい時間も提供できる。そういったトータルの食体験に感動したお客様は、SNSへ投稿し友人知人にどんどん拡がっていく。

だから、今年は色々な体験を詰め込んだ弁当に勝機があると考えている。

感動する食体験は、見た目や味だけではなし得ない。

僕らは、レストランを通した総合的な食体験で得られる「気持ちよさ」や「楽しさ」を大事にしている。

僕らが提供するものはまさにそうだ。ふわふわで吸水力が凄まじいIKEUCHI ORGANICのおしぼり、3日に1回研ぎに出し驚異的に切れるナイフ、食べたことのない組み合わせだけど抜群に美味しい料理、気持ちの良いサービス、などお客様が体験するもの全てにこだわりを持っている。お客様にとって気持ち良い体験とは何か、を徹底的に考え抜く。それがレストランであると思う。

そして、コロナ禍において自宅でのリッチな食体験の需要がますます高まることが予想される中で、テイクアウトやデリバリー商品にもこのイズムを反映していくことが重要である。

例えば、気持ちの良いサービス ⇒ 丁寧なお品書き になるだろう。おしぼりや割り箸はどうだ?もっと気持ち良いものはないか?楽しませることはできないか?

そして、「少しでも自宅でレストランを感じられるように。」と作ったのが「sio贅沢弁当」だ。

お客様から嬉しい言葉を沢山いただいた。

テイクアウトやデリバリーは、レストランのように最新の注意を払って料理を食べていただけるわけではない。これまでやってきた「美味しい」では通用しない。時間が経ってしまうと水分が出てくるし、何より熱々のものは出せない。最悪のコンディションを想定した上で「それでも抜群に美味しい」に挑戦する必要がある。

そんな僕たちが昨年作ったのはHEY!バインミーチキントーバーライス 。どんなときでも美味しく食べられる僕らの究極のテイクアウト料理だ。ただ美味しいだけではなく、「気持ちいい」や「楽しい」商品になっている。

レストランは「気持ちよさ」や「楽しさ」を提供する場所だ、と考えている。

昨年は、レストランが考える「美味しい」を詰めた”弁当1.0”
今年は、「気持ちいい」「楽しい」を詰め込んだ”弁当2.0”の時代だ。


コンビニが便利な上に美味しさを追求している。僕らは、美味しさはもちろん、もっとその先を進んでいかなければならない。

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