弟子から見た、sio鳥羽周作が見つめる″星付きレストランがファミレスを持つ″という景色
「ねぇ、おりたくさんは家族になったの?」
にこにこと愛くるしく笑いながら、まっすぐな目でこっちを見ている。
鳥羽さんの長男だ。
「ガルル…ガウ!!」
毎週金曜日は、恐竜ごっこで朝が始まる。
兄弟揃ってハマっているようで、僕も恐竜役を迫られた。
「今日は恐竜まだー?」
「今日はできないよー。(カチカチ)」
「なんで?昨日は良いのに今日はダメなの?」
「そう!あれは金曜日しかできない約束なんだ。ごめんね…。(我ながら謎の返し)」
すると、毎週金曜日だけ律儀におねだりされるようになった。素直でええ子や…。
交渉も得意で、最近は月曜日に金曜日分の恐竜の前借りを求められる。
それはなんでもありになっちゃうからダメだよ、とすかさず諭す。
「えー」
頬を膨らませながらもそそくさとテーブルに向かい、口いっぱいに頬ばり白いひげをつけながらこっちを見ている。
この距離感だと、毎日かわいい。
師匠の子どもたちに、僕もしっかり癒されている。
連続する転機を、ものにしたい
今年の4月、何の前触れもなくTwitterで弟子に任命された。前代未聞のオンラインによるサプライズ襲名。
寝食を共にする。
弟子になって半年、朝から晩まで仕事の話をする。
鳥羽の仕事は多岐にわたる。
レストランsio、ビストロo/sio、洋食喫茶パーラー大箸の経営戦略、メニュー開発。
そして、外せない用事がない限りはお店に立ち料理を作る。
経営者でありながら、トッププレイヤー。
最強の二足のわらじを履いているわけだが、それだけではない。
スッキリの月1レギュラーを始めとするTV出演に、数々のメニュー開発のオーダー。
料理人としてクリエイターとして経営者として、毎日のようにあるメディア取材。
昼間は、打ち合わせの合間に #おうちでsio のレシピを試作をしTwitterに投稿する。
夜は、基本営業に立ち終了後には、新メニューの試作し、2ヶ月に一度必ずコースを変える。営業もあるが、最近はイベント登壇や打ち合わせという日もある。
帰りは、各店舗の反省改善点を洗い出し施策を練り、早ければその日のうちに企画を出す。
自宅に着いたら、一度荷物を置き散歩に向かう。戦略立案とメニュー開発が捗る大事な時間だ。体を動かしながら、頭を動かす。クリエイターとしてのゴールデンタイムとなっている。
そして、僕も気づかない合間にTwitterとInstagramでコメント返信している。
誰よりも、熱狂してやっている。すべて。
そんな鳥羽と長く同じ時間を過ごす僕。
その瞬間を目撃し、文化を作るお手伝いをする。
ぶっちゃけ、ものすごく大変だ。しかし、これ程にロマンがある時間はなかなか味わえない。
料理人は、料理を選ばない。
僕たちは、料理のジャンルにこだわらないというイズムがある。どんな料理も難しさがあるし、尊い。
目の前の人が求めるものを美味しく作れる筋力をつけておくために、日々料理と向き合っている。
「いつも僕が焼き奉行だけど、さすがに鳥羽っちにお願いするよ」
とある会社の経営者との焼肉に同席した。
その時に料理人としての美味しさに対する飽くなき探究心を感じた。
様々な部位の肉を見て、どう食べさせるかというゴール設定を組み立て、焼いていく。
片面を焼いたら半分に折り、厚さを作ることで点で火入れを狙った″しんもも″
カリカリに焼き上げる厚切りの″イチボ″
1枚ずつさっと炙り余分な油を落とした″サーロイン″
ここまで肉の種類で狙いをつけて焼くお肉を食べるのは初めてだった。
しんももとか、もはや謎。半折りで厚さを出すことで絶妙な厚さの肉に火入れする。
噛み締める、″ダチ″の喜ぶ姿を見るのが、料理人として何よりも嬉しい瞬間である。
ダチを本当に喜ばせるためには、技術が必要だ。
現代における弟子とは、精神家族
三食を共にする。
行きの電車でレシピを開発し、帰宅時にその日の営業を振り返る。
「ずっと変わらないよ、とばっちは。」と魚民で昔からの友達からの話を聞き、鳥羽さんのお父さんお母さんのお手製ごはんをいただく。
ここでしか見えない景色がある。
だが、この席はいつまでもいられるところではない。
終わりのない戦いに向かう。
そのためには、将軍の力だけではなく、強い″軍″を作れるようにそれぞれが進化していかなければならない。
必要な筋力を付けるために、誰とどんな環境でどう過ごすか。弟子入りという、精神と時の部屋への入門。
僕にしか伝えられないことがある、そう思っている。
鳥羽は、美味しいで世界を変えようとしている。
レストランの限界と、レストランの活かし方
星付きレストランを運営し上場している企業はひらまつさんだけと聞いた。
レストランは、総合芸術だ。
美味しい料理にホスピタリティ、素敵な空間に心地よいサービス。
素晴らしい体験を与えることができる。
sioの客席は約20席。
1日に幸せにできる人数には限りがあり、料理界でのキング・オブ・ポップへの道のりの中では、歯痒いところがあった。
「まだまだ足りねぇよ。」
その渇きが、ジャンルレスでの店舗展開につながっている。
鳥羽はレストランsioも好きだが、o/sioもパーラー大箸も大好きだ。
多店舗展開が意味することは、多くの人に美味しい(おいしい)を届けられるということ。
チキントーバーライス やHEY!バインミーもそうだが、おいしいではなく″美味しい″を搭載したポップには、大きな可能性がある。
1日20人の特別な日を祝いながらも、2万人の胃袋も満たしつつ、家族の晩ごはんや一人暮らしの自炊もサポートする。
料理の力で課題を解決し、幸せの分母を増やすためには、美味しい思考=sioのイズムが必要不可欠である。
イズムを磨き続けて、感動を生む料理を届けたい。届け切る。
これからどんな物語になるのか、特等席で見ながらも、一緒に景色を作れたら。
どんなときも、幸せの分母を増やすために。