" この仕事 " で誰かを守りたかった。でも・・・ 守れなかった。[第11週・2部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その作品の筆者の感想と『映像力学』の視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨で展開されているのが " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事だ。
前回から第11週・「相手を知れば怖くない」の特集記事に突入し、今回はその2部ということになる。ちなみに、第11週・1部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、特に第11週の53(後半部)~54話を集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。
それで今回の記事の前半は、ストーリー展開と状況説明が主になっており、後半部で筆者の分析・考察、そして感想が展開される。また『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察することで、この作品の深層に迫っていきたい。
○ " 喜びと落胆の狭間 " に揺れ動く・・・ 彼女たちや彼らの葛藤を。
永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)が、上京してから4ヶ月が経過しようとしている、2016年8月。
気象報道の仕事にも慣れ始めて、神野マリアンナ莉子(演・今田美桜氏)とコンビを組んで担当する気象情報コーナーも好評のようで、社会部気象班デスクの高村沙都子(演・高岡早紀氏)から、朝の報道番組・『あさキラッ』の視聴者からの感想メールを渡される二人。
早速、視聴者の感想メールを読むことに。日々奮闘して " 伝えよう " としていることが、確実に伝わっているということを実感する二人。
その喜びは一入のようで、仕事に対してさらにモチベーションが上がっていく二人だった。
そんな束の間の喜びを感じているところに、報道気象班のスタッフルームに速報が飛び込んでくる。一文字市の今西バイパスのアンダーパスが冠水して、乗用車の水没事故が発生したとのこと。
気象予報士たちは、その時間帯の降水の状況を把握していない様子だ。しかし、気象キャスターである朝岡覚(演・西島秀俊氏)がレーダーを確認すると、局所的な雨雲が確認できる。
水没した乗用車の運転手や同乗者の安否は不明で、現在、消防・警察で確認中とのことだった。
朝岡は、Weather Experts社の交通気象班に所属する野坂碧(演・森田望智氏)に、独自の情報やデータが無いか問い合わせる。この今西バイパスのアンダーパスは先月に開通したばかりだということで、予測のための過去のデータも不足していたため、不運が重なったということに。
そして、気象庁担当の社会部記者の沢渡公平(演・玉置玲央氏)が取材を終えて、報道気象班のスタッフルームに入ってくる。気象庁は東海付近で、大気が不安定になっていることに注視はしていたものの、雨量の予測などは難しい事象だったようだ。
そして水没した乗用車の運転手は意識を取り戻したが、同乗者が溺水で心肺蘇生中ということだった。
報道気象班のスタッフルームに重い空気が漂い、百音の表情も一気に曇っていく。気象予報士の内田衛(演・清水尋也氏)はこのように語る。
意気消沈する気象予報士たち。続けて彼らは、このように語り合う。
そして、朝岡はこのように総括する。
さて、皆さんはこのストーリー展開をどのように感じましたか? この東京編では " 水 " というものが、重要なキーワードとしてストーリーを動かしていく機能を持っているわけだ。そして、この東京編のあらゆるところで " 水 " に関連するものやそのエピソードが出てくる。
例えば、百音が勤務する『Weather Experts』の社屋は、都心のウォーターフロントに立地し、居住するシェアハウス・『汐見湯』も築地というウォーターフロントに存在するというようにだ。今後のストーリー展開でも " 水 " に関わるものが、頻繁に登場してくるところが非常に興味深い。
そして、この朝岡が語った『 " 水 " ですね、やはり』という言葉に百音が強く反応しているところが象徴的だ。さらに朝岡の語った、
『 " 水 " がどう動いて、どこにたまるかを読み切れなきゃ、この先 " 災害 " は防げない・・・』
という言葉で、百音の表情がどんどん緊張したものになっていく。
直前まで、視聴者のメールに癒されていた柔和な表情とは雲泥の差だ。この百音の表情の対比が、今後のストーリー展開のコントラストとしても、非常に効いてくるわけだ。
○ " この仕事 " で誰かを守りたかった。でも・・・ 守れなかった。
" アンダーパスでの水没事故 " をキッカケに " どうすれば、災害から命を守れるのか " と思いつめたように考え始めてしまった百音。
さてここでは " 内省する百音のシーン " が入ってくるわけだが、回想などはあるものの彼女には一切セリフを語らせず、その表情の変化だけを捉えた映像になっているところが興味深い。
1話・15分のこの作品に、驚くことになんとこのシーンだけでも、約44秒という時間を使っている。この作品が、近々の他の地上波TVドラマとは圧倒的に違うところが、" セリフに依存しない、抑制的で内省的な表現手法 " というのをふんだんに採用しているところだ。
こういった表現手法が " 短絡的にストーリー展開を知りたい " という人々にとっては " いらないシーン " や " 無駄なシーン " 、" 早送りして飛ばすシーン " となってしまうのだろう。しかし、この東京編でのストーリー展開が動き始めた瞬間が、この " 内省する百音のシーン " であり、非常に重要な機能を果たしているのではないかと、筆者は考えている。
では、このシーンで百音は " 何を省みている " のか。気象報道に携わって約4ヶ月が経過し、それなりにやりがいを日々感じてはいる。しかし・・・
上京の際に家族に誓った " あの言葉と思い " が・・・ この瞬間に百音の脳裏に蘇ってきていた。それと同時に、このような思いが彼女の中で沸き起こってきたのではなかろうか。
[ " この仕事 " で誰かを守りたかった。でも・・・ 守れなかった ]
そして内田が語った、
『相手は不特定多数だし、カバーしなきゃならない範囲も広すぎる。それで関わってくるのが " 命 " とかってなると・・・ 』
という言葉が、" 気象予報は各地域に根差したものでなければならない " ということを、潜在的かもしれないが、この時に初めて百音は意識をし始めた瞬間でもあるのではなかろうか。それと同時に、彼女はこのような思いに至った。
よろしければサポートのほどお願いします。頂いたサポートは、各種資料や活動費として使わせて頂きます。