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質素なスーツ姿で立ち竦む。その視線の先には・・・ 日本中の脚光を一身に集める " 華々しい姉 " が映っていた [第15週・1部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。
今回は第15週・「百音と未知」の特集記事の1部ということになる。ちなみにこの前の特集記事となる、第14週・5部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
さて、この企画を書き始めるキッカケは、この第15週・「百音と未知」と第16週・「若き者たち」、第19週・「島へ」という三つの週に、特に大きな感銘を受けたことだ( 単体の放送回では、第9週・「雨のち旅立ち」の45話 )。
これらの週では、感動的なストーリー展開と出演俳優の演技・演出は当然ながら、構図やカメラワーク、ライティング、グレーディング(映像の階調・色調の補正)、編集、MA(Multi Audio:音声編集ダビング)などの細部に至るまで創意工夫がなされており、映像作品としては珠玉のものだと思う。したがって、これらの週の分析・考察の記事を書くことをモチベーションとして・・・ 約2年間に渡って書き続けてきた。 念願の第15週の記事が書ける・・・ ようやくここまで辿りついた。
さて、この第15週と翌週の第16週の主役はハッキリ言って、主人公・百音の妹である未知だ・・・ というか多くの視聴者は、どうしても百音と菅波の恋愛の道行に注目してしまいがちだろう。しかし、この作品全体に通奏低音のように流れるテーマは、「百音と未知の姉妹間の確執と和解」であり、脚本を担当した安達奈緒子氏も、そのテーマを全120話に渡って丹念に描いていたわけだ。
さて、この週での妹・未知の行動や態度は、放送当時は批判的なものが多かったように思う。しかし筆者は彼女に対しては同情的であり、その心情に思いを馳せると・・・ 胸を掻きむしられる程に切なくて苦しい。
そして、第15週と第16週の見どころも、映像のルック(シャープネスや明るさ、色味など)を巧み利用することで、特に妹・未知のセリフでは語られない " 秘めた心模様 " を効果的に表現している。筆者としては、特にこの部分に注目して頂きたい放送週だと考えている。
それで今回は、第15週・71~72話の後半部までを取り上げた記事であり、『映像力学』的なギミックは基本的なものが多いため、あまり取り上げてはいない。また分析・考察のため、この記事ではストーリー展開の時間軸が前後していることをご了承頂きたい。
さらに今回は、『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら )を積極的に活用し、特に妹・未知の表情も含めて、セリフでは語られない " 秘めた心模様 " にフィーチャーしている。ぜひとも、この部分に注目して読んで頂きたいと思う。
○今なら・・・ " 心を掻き乱されず " に真正面から向き合える
父・耕治(演・内野聖陽氏)が帰郷して、しばらく経過したある日、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)の妹・未知 (みーちゃん 演・蒔田彩珠氏)が上京して、百音の住むシェアハウス・『汐見湯』に立ち寄る。
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妹・未知は、『明後日、静岡で水産庁の検討会があるので、ついでに立ち寄った』と語る。
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さて、ここで時系列を確認したい。番組的にはたった1話が進んだだけなので、父・耕治が帰郷してから約1週間~10日前後の経過ですぐさま、今度は妹・未知が上京したと思いきや・・・ 実は彼女が上京したのは、それから既に1ヶ月前後が経っていたという時間の流れなのだ。
それで今一度、その時系列を確認したいと思う。まず父・耕治の上京は、祖父・龍己(演・藤竜也氏)の牡蠣の品評会の金賞受賞レセプションがキッカケで、その賞状をよく見ると『平成28年10月20日』と書かれていたのが分る。
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またその同日に百音は、妹・未知へとメールを送っている。その画面には、同じく『2016年10月20日(木)』との表示がある。
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この翌日( 2016年10月21日[金] )の午後( カラスの鳴き声が聞こえるので夕方付近か? )に父・耕治は、青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)に対して、『百音を、よろしく頼みます! 』と言い残し、故郷・亀島へと帰っていった。
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それで妹・未知が上京するキッカケとなった、静岡での検討会の日程が『2016年11月21日(月)』となっている。
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となると、妹・未知が『汐見湯』に立ち寄った日付は、" 2016年11月19日(土) " ということになる。
そうなのだ。実は父・耕治の帰郷し、今度は妹・未知が『汐見湯』に来るまでに、既に約1ヶ月近くの時間が経過していることが確認できる。それで筆者は、 " この1ヶ月間 " というものが「第15週のキーポイントになっているではないか? 」と考えているため、この時系列に注目しているということなのだ。
まず、百音と妹・未知には " 姉妹の間にある溝 " が、" あの一件 " からさらに一段と深まって・・・ " かなり疎遠な状態へ " と関係性が悪化していたわけだ。
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この姉妹が疎遠な状態は、父・耕治が上京していた " 2016年10月20日(木) " でも続いていたわけだ。
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妹・未知は、祖父・龍己の牡蠣の品評会の受賞レセプションにも、帯同はしなかった。その理由を彼女は、母・亜哉子(演・鈴木京香氏)に対して『仕事休めないから』と語っていたが・・・ おそらく百音に会いたくなかったというのが、本音ではなかろうか。
そのような妹・未知が、たとえ母・亜哉子の「百音と菅波の様子を偵察させる」という特命があり、また静岡出張があったとしても、わざわざ東京に立ち寄ったことが大きな心境の変化を示している。もし百音に会いたくなければ、静岡に直接向かうことだって出来たわけだ。では、" この1ヶ月間 " での「妹・未知の心境の大きな変化」は、何が一番の要因なのだろうか? やはりこのシーンから、その心境の変化の要因を垣間見ることが出来る。
『未知 : お母さんがね、「お父さんじゃ、イマイチ分んないから、未知が見てきて」ってさ。』
『百音 : 何を? 』
『未知 : さっき、スーちゃんからも聞いちゃった。会ってみたいな。お姉ちゃんのために、決死の覚悟で牡蠣食べた、お医者さん? 』
『百音 : ああ、いや・・・ 』
『未知 : 静岡から戻ったら、絶対、会わせてね。お母さんから、写真撮ってこいって、言われてるから。』
『百音 : え~・・・ いや・・・ 』
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このシーンでの妹・未知の表情が、いつにも増してより朗らかであり・・・ 全120話の中でも、この彼女の所作が " 最もフェミニンに感じられたシーン " だったのだ。
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[ お姉ちゃんに " 彼氏らしい存在 " が出来た。今なら・・・ " 心を掻き乱されず " に、お姉ちゃんと真正面から向き合える ]
今の状況であれば・・・ 妹・未知は落ち着いたメンタリティーで真正面から、姉・百音と向き合えると考えていたのだろう。しかし・・・
○彼の脳裏には " 一抹の不安 " が過ったが・・・ 「自分のやりたいこと・やるべきことがようやく見つかった」と力強く語る彼女
朝岡の後任となる神野マリアンナ莉子(演・今田美桜氏)と、百音の中継キャスターのデビュー日が迫り、二人共にリハーサルに余念がない。
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とある日、百音は菅波に電話をかけて、中継キャスターデビューの日を知らせる。その際に彼は、このように語る。
『菅波 : でも自分から「やらせてくれ」って言ったのは、今までの永浦さんとは違いますね。あなたは何かをやろうって時には、大抵グズグズ悩む。面倒くさいタイプですから。』
『百音 : 先生、また言い過ぎてます。 』
『菅波 : ああ、ごめん。』
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さて菅波のカドのある物言いは、相も変わらずという感じだが・・・ もし、未だ人間関係が浅い人物が同様のことを言われれば、カチンと来ることは間違いない。しかし百音は菅波と過ごした2年間の中で、
[ 先生は・・・ 言葉をオブラートで包んで表現することで、" その本質が伝わらなくなる " ということを嫌っている ]
ということを重々理解しているのだろう。したがって、今さら菅波の物言いに、気分を害することはない。その一方で百音の菅波の物言いに対して、変化の兆しがある。要するにカドのある物言いに対して、彼女は『先生、また言い過ぎてます』と伝えて、菅波をハンドリングするような兆候だ。それはまるで、「感情のまま突っ走る夫を、妻が巧みな手綱捌きで手懐ける」といったような、お互いを補完する " 絶妙な組み合わせの夫婦の関係 " のようにも感じられる。
また菅波の方も、かしこまったものではなく、二人の親密さを感じさせるような『ああ、ごめん』といった言い回しを、自然に使っていることが印象的だ。いずれにしても、このシーンでは、二人の距離が相当近づいていることを視聴者に感じさせることを狙っているのだろう。さらに二人の会話は続く。
『百音 : いや・・・ まあ、普通はありえないですよね。何の経験もないのに。』
この百音のセリフの直後に、菅波のカットが入ってくるわけなのだが・・・
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さて、この菅波の表情を皆さんはどのように捉えましたか? 筆者には一瞬、彼の表情が曇り、" 何かを危惧している " のような様子にも感じられる。では、菅波は何を危惧しているのか? もう一度、百音のセリフを見て頂きたい。
『まあ、普通はありえないですよね。何の経験もないのに』
これまでの百音であれば、このようなニュアンスの言葉が出てきた場合、彼女はマイナスの思考に陥っていることが考えられ、この後にはネガティブな言葉が続くことが多かったと思う。この時に菅波は、そのことに対して " 一抹の不安 " を感じていたのではなかろうか。しかし続く言葉は、今までとは違っていた。
『百音 : でも、" 今の私 " だから与えられたチャンスなのかなって。 』
『菅波 : 今の? 』
『百音 : 今は、" やりたいこと " がはっきり見えてるんです。 』
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これまでのように、ネガティブな言葉が出てくると思いきや・・・ 『今は、" やりたいこと " がはっきり見えてるんです』と力強く語る百音。その際のカットでは下手方向を向きつつ、しっかりと顔を上げて、明るい表情で語っている。『映像力学』的には( 詳しい理論はこちら )、下手方向には " 未来がある " ため、百音が前向きに一歩踏み出したことを映像で表現しているのだろう。
故郷・亀島を出てから、いや " あの日 " 以降、音楽から遠ざかり・・・ 百音は「自分のやりたいこと・自分のやるべきこと」を、ずっと探し求めてきた。しかし・・・
『百音 : 私が、自分の夢を追って、離れてしまっている間に、また・・・ 大切な人が、何か・・・ つらい目に遭ったらって。それで、怖くなりました。 』
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というように、これまでの百音は「自分のやりたいこと・自分のやるべきこと」を追い求めることで、「大切な人が・・・ また傷ついてしまうのではないか? 」という恐怖心に支配されていた。
しかし、父・耕治と朝岡からの " 思いのタスキ " を受け継ぐことで、百音を支配していた恐怖心が完全に払拭され、彼女の中にも「人生を賭けるほどの価値があるもの」が明確に生まれてきたのだろう。そのことを菅波は、このように代弁する。
『菅波 : ああ・・・ いわば、突然の追い風は、あなた自身にエネルギーがあったから吹いたっていうことですか。』
『百音 : もし、そうなら頑張りたいなって・・・ 』
これまでは比較的に受動的だった百音が、「自分のやりたいこと・やるべきこと」を見出し、" 能動的に未来へと向かって歩き出す " といったタームに、完全に入ったことを表現しているのだろう。
○あの時に・・・ " 思いのボール " を彼女に投げた。今度は、彼女が投げ返してくる・・・
午後の診察の時間が迫り、電話を切ろうとする菅波。しかし、百音は何かを言いたそうだった。
『百音 : ああ、あの・・・ ごめんなさい。あの・・・ もう一つ・・・ 』
『菅波 : はい。』
『百音 : あの・・・ 今週末、お暇ですか? 』
『菅波 : ・・・ 』
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この瞬間に、ハッとさせられた表情を見せる菅波。さて、この時に彼の脳裏に浮かんだことは、
[ 彼女から・・・ 告白されるかもしれない ]
ということだろう。しかしこの後の放送回でもあるように、この時の百音は菅波に対して告白しようとは、まだ考えてもいなかったわけだ。ではなぜ菅波は、そのように捉えてしまったのだろうか。実は前放送回の " この言葉 " が、彼にとっての " 百音への愛情の告白 " のようなものだったわけなのだ。
『菅波 : 永浦さんに " もし何か " あれば、僕に出来ることはするつもりです。』
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[ あの時に・・・ 僕は " 思いのボール " を彼女に投げた。今度は、彼女が " 思いボール " を僕に投げ返してくる・・・ ]
といった菅波の思いもあって、このような言葉が思わず零れてしまった。
『菅波 : ほんと、 " くそ度胸 " ありますね。 』
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いずれにしても、百音は仕事も恋愛も " 能動的なタームに入った " ということを、象徴するようなシーンであることは間違いなかろう。
○質素なスーツ姿で立ち竦む。その視線の先には・・・ 日本中の脚光を一身に集める " 華々しい姉 " が映っていた
とうとう朝岡の降板と、神野と百音のキャスターデビューの日がやって来た。朝岡の後を引き継いだ神野は、自己紹介も卒なくこなして出足は上々。
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一方の百音の方は・・・ 高村デスクもかなり心配している様子だ。故郷・亀島の家族も登米の人々も、そして『汐見湯』の人々も・・・ ハラハラしながらも、百音の出番を今か今かと待ちわびる。
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そして、とうとう・・・ " その時 " が来た。
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リハーサルとは打って変わっての、落ち着いた様子の百音。その安定した語り口は・・・ むしろ堂々としているようにも感じられる。その構成には起承転結があり、しっかりと " オチ " をつけて話を結んだ百音。
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キャスターデビューとしては100点満点の出来だろう。それに対して大喜びをする故郷・亀島の家族、また登米や『汐見湯』の親しい人々。
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『汐見湯』のコミュニティースペースでは、百音のキャスターデビューを見守る人々の輪から外れて・・・・ " 一人だけ離れた片隅 " に妹・未知が立っていた。
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モニター画面に映る " 姉・百音 " は、晴れやかさと堂々とした雰囲気を纏って、妹・未知に眼差し返してくる・・・
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さて、この瞬間の妹・未知の心模様を、皆さんはどのように想像しますか?
筆者には、モニター画面に映る " 姉・百音 " が目に飛び込んできた瞬間に、妹・未知の感情は凍りつき、蝋人形のような " 無表情 " の面持ちになっているように感じられる。これは、 " 姉・百音に抱く嫉妬心 " が滲み出ている表情にも思えるのだ。
ではなぜ、妹・未知は実の姉に対して嫉妬心のような心情が沸き起こってしまうのか? この瞬間の彼女の心情に思いを馳せると・・・ 筆者は切なくて、胸が苦しくなる。
実は第71話の前半のシーンが、このシーンの重要な伏線になっているのだ。まず前半のシーンでは、妹・未知が『汐見湯』に立ち寄った理由を、姉・百音や幼馴染の野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)、井上菜津(演・マイコ氏)に対して、このように説明している。
『明日美 : で? それで、やっと夏休み? もう、ぼちぼち冬だけど? 』
『未知 : ううん。明後日、静岡で水産庁の検討会があるの。』
『奈津 : すいさんちょう? 』
『明日美 : けんとうかい? 』
『未知 : あっ、「養殖業の包括的支援に関する事業者間検討会」っていう・・・ やつが、あるんだけど・・・ 』
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この時、誰一人としてピンとこない様子に、
[ 私の仕事は地味で・・・ 注目もされず、脚光も浴びない ]
ということを、この時にそこはかとなく感じ取ったのだろう。その数日後に妹・未知は、" 姉の華々しい中継キャスターデビュー " を目にすることになるわけだ。
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そのモニター画面の向う側には、華やかなメイクと衣装を身に纏いつつ、スポットライトを浴びながら、日本中の注目と脚光を一身に集める " 姉・百音 " がいた。一方、
[ " その対岸 "には、地味なメイクと質素なスーツ姿で光も当たらない・・・ 誰にも注目もされず、脚光も浴びない " 私 " がいる ]
というような、姉の華やかなメイクと衣装を対比するが如く、地味なメイクと質素なスーツ姿の妹・未知を " カットバック法 " で並べ立てる・・・ 彼女にとってはあまりにも残酷な演出手法だ。
そしてこのカットバック法によって、「お姉ちゃんは " あんなに華々しい場所 " があるのに・・・ 私には無い」といったことを、徹底的に突きつけられる。それと同時に、そこはかとない無力感や焦りの感情が、妹・未知の心の中に沸き起こった瞬間だったのではなかろうか。その証拠として彼女は一瞬だけ、心が凍りついたような呆然とした表情を覗かせる。さらに、「この事実は・・・ とても受け入れられない」という感情もあってか、一瞬だけモニター画面から視線を逸らすのだ。
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しかし姉の活躍は、妹としては嬉しい感情もある。だからこそ・・・ " このような微妙な表情の変化 " を見せるわけだ。
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『汐見湯』の人々が、百音の姿を見て歓喜する様子に、「フッ」と笑みを浮かべるような表情を見せる妹・未知。この笑みの意味を、皆さんはどのように考えますか? 筆者は " 二つの意味がある " と解釈している。まず、モニター画面の活躍する姉に対して、
[ お姉ちゃん・・・ 良かったね ]
と素直に喜んだ感情が沸き起こるのと同時に、
[ これまでは、「永浦家を支えるのは私だ。地元を盛り上げるのは私だ」という自負があり、それに邁進してきたが・・・ 実はそのことは " ただの思い込み " だったのではないか? その自負は " 虚構 " だったのではないのか? ]
といったような、妹・未知自身を " 嘲笑うような笑み " にも感じられたのだ。だからこそ次の瞬間には、
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目を伏せ、暗い表情へと切替わっていく。また、この一連の妹・未知のカットでは、" 映像のルック " にも注目して頂きたい。彼女の微妙な心情の変化を捉えるために、顔にはしっかりと照明を当てている。しかしその一方で、背景は暗めの色調なのだ。この妹・未知の暗い表情へ移り変わりと、背景の暗めの色調が・・・ 第15~16週のストーリー展開に、影を落とすことを暗示しているのだろう。
○そして " コイン " は・・・ とうとう裏返ってしまった
百音の華々しい中継キャスターデビューと、妹・未知がそれを見つめるシーンは、さらに " あのシーン " の伏線回収でもあり、" 相対関係の構造 " になっていることが非常に興味深い。
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妹・未知が水産高校の在学時代に、地元・宮城県のローカルテレビ局に取り上げられたことがあった。妹の活躍を素直に喜びつつも、" この言葉 " に呆然とする百音。
『未知 : (テレビ音声) 将来、私は研究者になって、科学的な見地から日本の水産加工業を、更に発展させる方法を見つけたいと思っています。』
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モニター画面の向う側という、脚光を浴びる晴れ晴れしい場所で、「将来の夢」を力強く語る妹・未知。" その対岸 " に置かれた百音は、
[ 既に妹は 、" 自分のやりたいこと " をしっかりと持っていて、" 将来へのビジョン " も明確にある。しかし私には・・・ 何も無い ]
ということを、徹底的に突き付けられる瞬間でもあったのだ。しかし、「今現在の姉妹は・・・ その状況が逆転して、立場が入れ替わった」といったようなことを、伏線とその回収のストーリー展開に仕立てることで、" 相対関係の構造 " を我々に提示しているのではなかろうか。そして、この作品の演出担当の一人である梶原登城氏は、姉・百音と妹・未知との関係性を「コインの裏表」と表現して語っている。
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