月光に染まる彼女。その時計は・・・ " あの日 " から止まったままだった [第15週・2部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。
今回は第15週・「百音と未知」の特集記事の2部ということになる。ちなみにこの前の特集記事となる、第15週・1部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
さて前回の記事でも書いたように、この第15週・「百音と未知」は、筆者が特に大きな感銘を受けた放送週だ。その中の73話は、「この週の放送話の中では見所が少ない」と思っている人々も多そうだが・・・。この一見すると地味に見える73話も、75話や第16週の「切なくドラマティックな展開」を、さらに際立たせるための " 非常に効果的なスパイス " となる重要なシーンが含まれている。またそのシーンは、作品全体の中でも非常に重要な意味合いを含んだ、" 隠れた名シーン " であると筆者は捉えているわけだ。
その73話の " 隠れた名シーン " は出演俳優の演技は当然ながら、特にライティングやグレーディング(映像の階調・色調の補正)に創意工夫を凝らし、驚くようなアプローチで、登場人物の心模様の深層を描き出している。この考察記事を書くことが、 約2年間に渡って書き続けることが出来た " そのモチベーションの一つ " になっていったと言っても過言ではない。したがって今回の記事は73話だけにフォーカスを当てて、記事を展開していきたいと思う。
それで73話は、映像のルック(シャープネスや明るさ、色味など)を巧み利用することで、特に妹・未知のセリフでは語られない " 秘めた心模様 " を効果的に表現することに成功している。そして主人公・百音のキャスターデビューが、妹・未知や幼馴染の及川亮、そして菅波光太朗に至るまで「どのような影響を与えていたのか」ということを深く分析・考察していきたい。そのため、この記事ではストーリー展開の時間軸が前後していることをご了承頂きたい。
そしてこの73話では、『映像力学』的な演出手法も効果的に取り入れられているため、この辺もじっくりと分析・考察してしていく。
また今回は、『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら )によって、特に亮の表情から、これまで見落としていた " セリフでは語られない心情 " が浮き彫りになってきた。ぜひとも、この部分に注目して読んで頂きたいと思う。
○『ダメだよ』という言葉の背後には、「 " 関係性を壊したくない " というだけで・・・ それから逃げ回るの? 」という思いが滲む
主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)の妹・未知 (みーちゃん 演・蒔田彩珠氏)が静岡出張を終え、再び東京のシェアハウス・『汐見湯』に戻ってきた。百音の部屋に、未知と野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)が集まって、久しぶりの " 幼馴染の女子会 " に話しの花が咲く。
妹・未知が「青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)に会いたい」と言ったため、今週末に会う約束を取り付けたことを明日美に報告する百音。
さて、明日美の語ることには一理ある。お互いが思いを寄せ、" 両想い " を何となく感じ取っている関係性で満足してしまうことは、恋愛の中では往々にしてあるだろう。しかしその一方で・・・ そのことは " 一抹の不安 " も頭の片隅に抱えながらだ。なぜならば、その関係性に " 確定的なもの " が何も無いからであり、今の百音と菅波の関係性が " 正にそれそのもの " というところだろう。したがって明日美は百音に、このように迫る。
さて、なぜ明日美は " このタイミング " で、百音に告白を迫るのか? 当然、彼女もこの場に居合わせたからだ。
" 確定的なもの " が何も無い二人の関係性の中で・・・ 菅波の言葉は、百音に対する " この段階で思いつく中での最大の愛の告白 " だったわけだ。時系列で言えば、この日が2016年10月21日[金] だった。今現在が、おそらく2016年11月24日[木]前後だと思われるため、あれから既に1ヶ月が経過していたわけだ。そのような経過の中で、明日美は『先生とモネ、ほっとくと何にも進展しないんだもん』とも語っている。ということは、
[ 先生は勇気を振り絞って、愛をぶつけてきたのに・・・ モネ、あなたは1ヶ月近くも、" それ " に答えてないんじゃないの? ]
と常々、明日美は考えていたのではなかろうか。だからこそ、百音に告白を迫ったのだろう。しかしこれに対して百音は、このように答える。
この百音の反応を・・・ 皆さんはどのように感じましたか? いくら彼女に浮いた話もなく、たとえ " 恋愛偏差値 " が低かったとしても、さすがに菅波の好意が自分の方へと向いている・・・ そして 「 " あの宣言 " が愛の告白だった」ということぐらい、既に重々分っているはずだろう。
その一方で、彼女にとって「何でも話せて相談できる相手」、「東京での心の拠り所」が菅波という存在であることも間違いない。もし皆さんがそのような存在に、いざ告白するとなったら・・・ " このような感情 " が沸き起こってはこないだろうか。
[ もし行動を起こして、気まずくなって関係性が壊れるぐらいだったならば・・・ 何も行動せず、" この関係性が続く " ほうがよっぽど良い ]
といった " 守りに入る " ようなメンタリティーだ。百音が「告白する気は全く無い」とキッパリ語るのは、そのようなメンタリティーが強く作用しているからではなかろうか。しかし、それに対して明日美の方も、
とキッパリと言い切ったのだ。さて、この時の明日美の表情や語り口を、皆さんはどのように捉えましたか?
筆者には、明日美としては珍しく、" 百音を冷たく突き放した " ような雰囲気に感じられたわけだ。そしてそのことは " カットの構成上 " でも、十二分に表現されている。それでこのシーンでの、明日美単独を映すカットは " 正面のカット " が中心となっている。
しかし百音が、「告白するつもりは全く無い」と言い切った直後の明日美のカットでは、このシーン唯一の " 下手方向を向いた仰角ぎみのカット " を入れてくるのだ。
さらに、この直前にはMA(Multi Audio:音声編集ダビング)において、サウンド・トラックも完全に消音処理をしたことで、聴覚的にも視覚的にも『 ダメだよ』というセリフに、インパクトを付与しているわけだ。そして、この瞬間の明日美の中には、
[ モネ・・・ 先生の好意が、あなたへと向いていることを既に知っている。 " あの宣言 " が、あなたへと向けた愛の告白であることも重々分っている。それにも関わらず・・・ 「関係性を壊したくない」というだけで、あなたはそれから逃げ回るの? モネ・・・ あなたはズルいよ ]
といったような思いが沸き起こって来た。だからこそ彼女は『ダメだよ』と、百音に冷たく言い放ったのだろう。この明日美の反応に、驚きを隠せない百音の表情も象徴的だ。
百音の表情からは、これまでの明日美との関係性の中で、ここまで冷たく突き放されたことが無かったことが伝わってくる。そして明日美は、このように力説する。
さてこの時のカットでも、百音と明日美の配置が暗喩的だ。『映像力学』の視点で捉えれば( 詳しい理論はこちら )、通常は主人公の定位置が上手側になることが多く、この作品でも例に漏れず、主人公・百音の定位置は上手側だ。
また、同じく『映像力学』の視点で考えると、尊敬する人物、上位の人物、力量が上の人物、あるいは " 教えを授けるシーン " では、その人物が上手に配置されることが多い。
このシーンでは、明日美が百音を諭すシーンでもあるため、彼女を上手側に配置して、" 明日美が百音に教えを授ける " ということを映像で強調しているのだろう。
それで明日美が語ったことは、やはり一つの真理だ。今回の百音のように、菅波との関係性を壊したくなくて、行動を起こさず守りの姿勢を取ったとしても・・・ 日々状況は変化していく。たとえ二人の気持ちが揺るがないものであったとしても、物理的な距離感や周辺の人間関係の影響によって、気持ちが覚めて薄れていくこともある。だからこそ、
[ 二人の気持ちが高まっているという " 奇跡のようなタイミング " で・・・ お互いの気持ちを確かめ合った方がいい。お互いの思いを固めたほうがいい。それから逃げ回ってしまうと・・・ " 確定的なもの " を持てずに、その状態でアクシデントに遭遇すると " その気持ちや思い " が簡単に壊れていく ]
[ " 確定的なもの " を、二人で共有さえしておけば・・・ 多少のアクシデントぐらいでは、" その気持ちや思い " が簡単に壊れていくことはない ]
明日美はこのようなことを、百音に諭したかったのではなかろうか。そしてこのことは、彼女が " 過去の亮との恋愛 " の中で学んだことが、そこはかとなく伝わってくる。しかし明日美のあまりにも力の入った熱弁に、百音は言うまでも無く、妹・未知までも呆気に取られる。
そしてこのエピソードが・・・ 今後のストーリー展開の " 布石 " にもなっているわけだ。
○「顔を合わせてしまうと・・・ 未だに " 好きだ " という感情は蘇ってくる」 その心の揺らぎを・・・ 彼女は敏感に感じ取る
その夜の寝入る前に、妹・未知は日中のエピソードを語り出す。
妹・未知は何も答えなかったが・・・ 百音は以前に、明日美から聞いたことを話して聞かせる。
さて、このことは百音が上京したての頃の、「妹・未知と亮との距離が近づいている」ということが話題に上がった時に、明日美がこのように語ったことだった。
この時に明日美は、満面の笑みを浮かべて『もう、りょーちんとはとっくに無理なの』と亮には心残りが無いことを、百音に笑い飛ばしながら語ったわけなのだが・・・ 過去記事でも考察したように " 彼女の心情 " は、そんなに簡単なものではなかったと思われた。
その理由としては、この直後にビールを飲み干した明日美は、 " そのビール缶を握りつぶす " という所作をするところが暗示的だろうか。
映像作品が手元にある方々は、この第11週・52話のシーンの字幕表記に、ぜひとも注目して頂きたいと思う。このカットでは『缶を潰す音』という字幕表記が入っている。音響効果については、そのすべてが字幕表記の対象となるわけではなく、演出家のディレクションレベルの表現ならば、字幕表記とはならないことが多い。
ということは、台本のト書きに " 明日美が缶を握りつぶす " という演出上の指示が、既に書いてあった可能性が高いということになる。要するに、脚本を担当した安達奈緒子氏が " 明日美が缶を握りつぶす " ということが、このストーリー展開の中で、非常に重要な意味と機能を持っていると判断したため、あえてト書きに " その所作 " を書き入れた可能性が高くなるのだ。
ではなぜ " 明日美が缶を握りつぶす " という行為に及んだのか? その瞬間の彼女の心情は何なのか? 皆さんは、どのように考えますか? 筆者はこのように考察したわけだ。
[ モネ・・・ あなたは今でも分って無いの? モネのおかげで・・・ 私は、りょーちんを諦めたんだよ!! ]
といった明日美の「正直、今でも悔しい・・・」といったような心の叫びが、 " ビール缶を握りつぶす " という所作に表れたと感じられてしょうがないのだ。したがって彼女の中には " 亮に対する心残り " が、未だに蠢いていたというところではではなかろうか。
その一方で、『 恋愛は・・・ 距離だよ。そばにいることが、一番大事なの。もう、りょーちんとはとっくに無理なの』という言葉も、明日美の本音なのだろう。ということは、
[ りょーちんと顔を合わせてしまうと、未だに " 好きだ " という感情は蘇ってくるが・・・ 物理的な距離がある今となっては、「もう交際したい」とは思わない ]
ということが、彼女の複雑な心模様なのだろう。この明日美の心の揺らぎを・・・ 妹・未知は、何となく感じ取っているように筆者には感じられるわけなのだ。
この妹・未知が語った『そうなんだ』には、
[ スーちゃんは、本当にりょーちんのことを諦めたのだろうか? 本当は未だに・・・ 心残りがあるのではないのだろうか? ]
といった疑問符のニュアンスが、筆者には感じられたわけだ。さすがの百音も " そのニュアンス " を感じ取ったのか、このようにフォローする。
とは言え、明日美と姉・百音の存在は・・・ 妹・未知にとって、心を掻き乱される " 不安要素 " となっていく。
○彼女たちの複雑な心模様を・・・" 色相 " で表現する
姉妹の寝入る前の会話は続き、妹・未知は慣れない東京という街に疲れたと語ると、百音は「明日はゆっくり過ごしな」と気遣う。それに対して妹・未知は、このように語る。
さて、何気ない姉妹のやり取りのため、見落とされがちだが・・・ この約1分40秒のシーンには、今後の75話や第16週においての「切なくドラマティックな展開」を、さらに際立たせるための " 非常に効果的なスパイス " になっている。そして筆者としては、全120話の中でも非常に重要なシーンであり、且つ " 隠れた名シーン " の一つだと考えている。
それで、なぜ妹・未知は『早く帰りたい。やっぱり島がいい』と語るのか? その一つは彼女自身が語っている通り、" 慣れない大都会・東京 " というものに辟易したことは間違いなかろう。
そして妹・未知が『早く帰りたい。やっぱり島がいい』と語る、そのもう一つの理由が " このセリフ " で語られている。
姉・百音は当然ながら、明日美も故郷・亀島では幼い頃から家族のように過ごし、育ってきた妹・未知。その " 良く知る二人 " が上京して約半年が経過し・・・ 今では " 大都会・東京 " に、既に馴染んで闊歩している。その一方は、
[ " 大都会・東京 " に圧倒され、気後れしている " 私 " がいる ]
ということを思い知ったわけだ。元来、負けず嫌いの性格でもある妹・未知が、たとえ幼馴染で年上であったとしても、「 " 気後れしている自分 " というものを、これ以上は二人に見られたくない」という心情も、やはり大きいのではなかろうか。そして彼女にとって、やはりショックだったのは・・・ これだった。
モニター画面に映る姉は、" 大都会・東京という街 " に洗練されて、これまで目にしたことが無いような " 華やかな雰囲気 " を解き放っている。要するに、東京という街で・・・ これからどんどん変わっていく " 姉・百音 " が映し出されていたわけだ。その対岸には、
[ 変わらない。いや・・・ " 変われない私 " がいる ]
ということも突き付けられた妹・未知だったのだ。だからこそ、会話の展開がこのように続く。
さて、「" 大都会・東京 " という街で洗練されて、変わっていく姉・百音」に対して、「" 大都会・東京 " という街に気後れして、変われない妹・未知」との対比が、今後のストーリー展開で非常に重要になってくるシーンでもある。
また布団に入っているシーンのため、" 所作や立ち位置の変化 " などでは二人の心模様は表現できない。したがって、どうしても映像が単調になりがちなシーンではあるのだが・・・実はこのシーンは、制作陣の創意工夫が最大限に込められたものであり、筆者としては、これこそが " 隠れた名シーン " であると考えている理由だ。
それでこのシーンの冒頭から、実は " 姉妹の対比 " が映像として表現されていることに、皆さんはお気づきだったでしょうか?
恥ずかしながら筆者は初見で、そこはかとない違和感を感じつつも、" そのこと " には全く気づかずに・・・ この後の75話を観てようやく、" その演出と表現手法 " に気づき、「あっ!!」と思わず声が出て、鳥肌が立つほど驚いてしまった。まず、この画像を見てほしい。
このシーンでは、百音と妹・未知では明らかに " 何か違う " のだが・・・ 鋭い方々は既にお気づきだろうが、お分かりになりますか? ヒントは " 映像のルック " だ。
そうなのだ。百音と妹・未知では、ライティングが全く違っている・・・ そう!! 百音にはあえて " 暖色(オレンジ)系の色味 " のライトを当て、妹・未知には " 寒色(ブルー)系の色味 " のライトを当てて、シーンを撮影しているのだ。
この " 姉妹の顔の色相の違い " を短絡的に捉えれば、単純に「妹・未知の顔は月光に照らされている」ということであり、「百音は廊下から透過した白熱電球に照らされている」という " 状況設定の違いだけ " となるのだろうが・・・
では逆説的に " 姉妹の顔の色相の違い " を、「あえて映像で表現する必要性があった」と仮定してみよう。「いやいや、考えすぎでは?」、「ただの偶然では?」と仰る方々もいらっしゃるかもしれない。確かにロケセットでの撮影であれば、偶然の産物もあるかもしれないが・・・ ここは純然たるスタジオセットだ。照明機器を自在に駆使し、演出家の狙い通りのライティングが再現できる場所だ。
しかもこの週の演出は、ライティングや " 映像のルック " に対しては、かなりの拘りを持っている一木正恵氏だ。このライティングに全く狙いが無いとは、到底考えられない。
このように、そもそも映像作品というものは、撮影時のライティングは当然ながら、ポストプロダクション(撮影後の仕上げ作業)におけるグレーディング(映像の階調・色調の補正)なども駆使して、" 映像のルック " には細心の注意を払うわけだ。
ではここで、今作の主演である清原果耶氏が関わった、別の映像作品である『愛唄 -約束のナクヒト-(2019年)』で、その実例を見てみよう。
さて、月光がさざ波に反射する " 美しい月夜 " の映像だが、実際の撮影は・・・ なんと日中に行われている(笑)。このシーンでは、実は「デイフォーナイト(Day for Night)」という、特殊効果を用いて撮影しているのだ。
なぜこのような特殊効果を使ってまで、わざわざ日中の撮影かと言えば、この日付が「2018年4月10日」となっている。当時の清原氏の年齢は16歳であり、おそらく労働基準法の観点から、深夜の撮影を避けたことが大きな要因と考えられるわけだ。
いずれにしても映像作品というものは " 映像のルック " が、演出的にも視聴者の印象としても大きく影響を与える。したがって、撮影後のポストプロダクションの段階であってもグレーディングなどの手法を駆使して、収録素材からは全く違う " 別のルックの映像 " さえ作り出すことも可能なのだ。ということは、映像の明るさや階調、色調、色相を自在に変化させることで、演出家の表現意図を完全に反映できる・・・ さらに言い換えれば " 映像のルック " こそが、演出家の表現意図が最も滲み出ていると言っても過言ではないのだ。
また今作においても、ライティングやグレーディングなどの手法を用いて、登場人物の心理描写を " 映像のルック " で表現する手法が、あらゆるところで見受けられる。
そして百音と妹・未知の就寝シーンは、その演出意図からも鑑みて、全120話の中でも最もライティングを効果的に用いた、" 隠れた名シーン " だと断言してもよいだろう。
○月光に染まる彼女。その時計は・・・ " あの日 " から止まったままだった
それで話を戻そう。73話での百音と妹・未知の寝入る前の会話のシーンで、なぜ二人の顔の色相を変えているのか?
まずその一つには、
○暖色系の光に染まる百音 ・・・ 大都会・東京に馴染んで既にホーム
○寒色系の光に染まる妹・未知 ・・・ 大都会・東京に気後れしてアウェー
といったような " 演出と表現意図 " があったのではないか、と筆者は捉えている。そのように考えると、次のようなセリフの展開も頷ける。
字幕表記を確認すると、百音の『そう?』にはしっかりと疑問符がついている。ということは、百音としては「結構、東京も楽しいよ」というニュアンスが、このセリフからも既に滲み出ているのだ。さらに妹・未知が語る、
という言葉には " 既に百音は東京をホームにしているように見える " という意味合いと共に、
[ 私は " あの日 " 以来、" 新しい日常 " を受け入れられず、未来へと踏み出せていないのに・・・ お姉ちゃんは " 東京 " という街に馴染み " あの日 " を過去のものとして " 新しい日常 " を受け入れ、未来へと歩き出そうとしている・・・ ]
というニュアンスが背後に見え隠れする・・・ そう!!! 妹・未知は、" あの日 " から・・・ 彼女の中の時計は止まったままだったのだ。
" あの日 " から、5年という月日が経過しても、妹・未知の中の時計は・・・ まだ止まったままだったのだ。その一方で故郷・亀島を離れ、宮城からも離れた百音は、東京という街に馴染んでいく中で、" あの日 " が徐々に過去のものとなり、「" 新しい日常 " を受け入れ、未来へと歩き出そうとしている」といったように、妹・未知の目には映っていたわけだ。だからこそ、このように語るのだろう。そして、
という一連のセリフの展開の最後には、" このカット " がインサートされる。
百音は " 暖色系の光 " を浴び、「妹・未知の目には、姉・百音の顔が血色が良く映っている」という表現意図になっているわけだ。そうなると、
[ お姉ちゃんは・・・ 思うがままに東京の生活を謳歌し、東京という街が既に " ホーム " になっている。そして " あの日 " のことは・・・ 過去のものになりつつあるんだ ]
といった「自分だけ取り残されてしまった」ということを思い知った。だからこそ、
と妹・未知は表情が曇ったまま、力なく答えたのではなかろうか。しかし・・・
と言葉が続くが・・・ 果たしてこれが、本当に " 妹・未知の本心 " なのだろうか? 筆者には、とても彼女の本心には思えなかったのだ。
確かに彼女は、地味で堅実な人物像だ。その服装などから鑑みても、決してファッションにも敏感ではなく・・・ " 華やかさ " とは縁遠い。したがって、「華やかで光り輝く東京よりも、私は故郷・亀島の方が好きだ」という心情も分らなくはない。
しかし妹・未知は社会人とはいえ、未だ10代の女の子でもある。華やかなものや、華やかな東京という街に憧れを持っていてもおかしくは無い。また将来も見据えて、「自由気ままに生きてみたい」と考えていてもおかしくは無いのだ。しかし、彼女は頑なに『私は島がいい』と繰り返す。なぜか?
皆さんには、こういった経験が無いだろうか。自分自身が興味を持っていたことを、家族や親しい友人が先行して始めてしまい・・・ バツが悪くなり、とうとう始められなくなってしまったことを。そして、その家族や親しい友人が「始めてみればいいじゃないか。結構、楽しいよ」と誘われて、その時にどのように答えるか・・・ 筆者だったならば、
「もういいよ。今さら・・・ 」
と拗ねた気分で答えるかもしれない(苦笑)。そうなのだ!! この妹・未知の、
『いいよ。私は。私は島がいい』
といった言葉の裏側には、
[ お姉ちゃんが、先行して自由気ままに行動するから・・・ 私はバツが悪くて、新しいことも始められない ]
[ お姉ちゃんは " あの日 " のことを過去のことにして・・・ これからは日々変わっていく。それに対して私は " あの日 " のことに囚われてしまって・・・ 全然変われない。私だけ・・・ どんどん取り残されていくんだ・・・ ]
といった、取り残されていく絶望感や焦燥感も含めた " 妹・未知の拗ねたニュアンス " が、筆者には見え隠れしてしょうがないのだ。そして、そのことに・・・ 姉・百音も敏感に気づいていたのではなかろうか。
妹・未知が抱く、" その心情 " の根源は、百音は未だ把握できていないようだったが・・・ 妹が自分に向けた " 拗ねたニュアンス " というものは、敏感に感じ取っていたのだろう。
その証拠として、妹・未知が『いいよ。私は。私は島がいい』と語るカットでは、彼女にはカメラのピントを合わせず、その表情を覗きこむ百音の方にカメラのピントを合わせている。やはり姉は、 " 妹が自分に向けている心情 " というものに敏感に気づいていたのではなかろうか。
○妹のフラストレーションの高まりを・・・ 『そっか』という言葉で受け止める
さらに百音と妹・未知の寝入る前の会話のシーンでの、顔の色相の違いは、" このような意味合い " が付与されているのではないかと筆者は考えている。
○寒色系の光に染まる妹・未知 ・・・ 仕事も恋愛も不安要素が多い
○暖色系の光に染まる百音 ・・・ 仕事も恋愛も順風満帆
今の百音は、仕事も恋愛も順風満帆で絶好調のタームだ。一方の妹・未知は・・・ 仕事が上手くいかずに壁にぶつかっていることが、過去の放送回でも示されている。
妹・未知は、自身の仕事に対して『" 好きなこと " なのかな・・・ 』と、迷いを感じ始めていた。それにも関わらず、
と百音の前では語るわけだ。筆者には・・・ もう、強がりを言っているようにしか聞こえない。それぐらい妹・未知は、
[ お姉ちゃんには・・・ 絶対に弱みを見せたくない ]
と思っているのではなかろうか。もっと言えば、
[ 勝手に島を・・・ 実家を出て行って、好き勝手やっているお姉ちゃんに・・・ 私の何が分るの? ]
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