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『 " あの出来事 " は、白昼夢であってほしかった・・・』 彼の心模様を " ハレーション " で表現する [第12週・4部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

今回は第12週・「あなたのおかげで」の特集記事の4部ということになる。ちなみに、第12週・3部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

それで今回の記事は、第12週60話の中盤から後半部を集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。

この記事を執筆するのにあたっては、『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察していく。さらに筆者の感想を交えながら、この作品の深層に迫っていきたい。


○力が必要になった時・・・ 彼女の脳裏に " 彼の顔 " が浮かんでくる


ある日、パラ・アスリートの鮫島祐希(演・菅原小春)のサポートプランを会議するため、Weather Experts社に「チーム・サメジマ」のスタッフが集まった。


*第12週60話 より


鮫島に感化されたこともあってか、これまで以上にサポートに熱が入る、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。鮫島も嬉しそうだ。

会議の議題としては、鮫島の身体的な生理・生化学的なデータとその知見が無いと、気象条件とすり合わせたシミュレーションが出来ない。そのためには、医師のサポートも必要だという結論になる。

ただし医師のサポートとなれば、高額の費用が追加で必要となるため、ボランティア的にサポートしてもらえるような人物が必要だった。百音は、ふと、青年医師である " 菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)の顔 " が脳裏に浮かんできたのだが・・・


*医師のサポートが必要ということで、ふと " 菅波の顔 " が脳裏に浮かぶ百音。しかし、菅波の現状から鑑みると、既に時間的余裕も無いだろうということで、頭から追い出そうとする素振りを見せる [第12週60話 より]


菅波は登米と東京の間を行き来しているため、既に時間的な余裕がないだろうと、百音はすぐに頭の中から追い出すような素振りを見せると、鮫島がその様子に気づき『誰か、おるん?』と百音に問いかける。驚きの表情を隠せない彼女。さらに、登米でのフィールドワークの経験がある内田衛(演・清水尋也氏)も " 菅波の存在 " に感づいたらしく、さらに動揺を隠せない百音。


*鮫島とサポートスタッフ一同に、医師の候補がいることを悟られ、動揺を隠せない百音 [第12週60話 より]


結局、そのサポートを百音が菅波に依頼することになってしまう。



○彼女の体技と所作によって・・・ " 迷う百音 " の背中を強く後押しする


百音は帰宅し、鮫島のサポートを菅波に依頼することになった経緯を、野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)に話す。百音は、どうもそのことに乗り気ではなさそうだ。その雰囲気を感じ取った明日美は、『菅波先生に頼めばいいじゃん。何で言わないの? えっ、何、意識してんの! やだ、もう、かわいいな! 』と百音を茶化す。


*医学的サポートを菅波に依頼する経緯を、明日美に話した百音。百音が乗り気ではない雰囲気を感じ取った明日美は、『菅波先生に頼めばいいじゃん。何で言わないの? えっ、何、意識してんの! やだ、もう、かわいいな! 』と百音を茶化す [第12週60話 より]


さてこのシーンでは、カメラワークや演出が非常に秀逸だ。この百音と明日美のやり取りは、ステディーカムなどの手持ちのカメラを用いて " シーンを1カット " で撮っているところが、注目のポイントだろう。


*ステディーカム [Wikipediaより]


まずこのシーンでは、医学的なサポートを菅波に依頼することに、百音が躊躇している様子が窺える。


*明日美の『えっ、何、意識してんの! やだ、もう、かわいいな! 』のセリフの際には、百音は上手方向を向いている。登場人物が上手方向を向いている場合は " ネガティブ思考 " ということを映像で表現しているため、百音は菅波に依頼することに、乗り気ではないということなのだろう。青色の矢印は上手方向を指し示す [第12週60話 より]


シーンの前半で百音は、上手方向を向いているわけだ。『映像力学』的には( 詳しい理論はこちら )登場人物が上手方向を向いている場合は " ネガティブ思考 " ということを映像で表現していることになる。要するに、百音は菅波に依頼することには、乗り気ではないというメンタリティーなのだろう。

それで、明日美はこれから出勤となり、出入り口方向に向かうため、百音と立ち位置が入れ替わる。


*これから出勤となる明日美と、立ち位置が入れ替わる百音 [第12週60話 より]


この立ち位置の入れ替わりによって、明日美が百音を下手方向へと導いていくことになるわけだ。


*明日美と立ち位置が入れ替わり、下手方向へと導かれる百音。登場人物が下手を向き、進んでいくということは、" 未来へと進む・ポジティブ思考 " ということを表現しているため、百音は明日美に背中を押され、この瞬間に、菅波に依頼することを決めたということなのだろう [第12週60話 より]


登場人物が下手を向き、進んでいくということは、" 未来へと進む・ポジティブ思考 " ということを映像として表現しているため、百音は明日美に背中を押され、" この瞬間 " に菅波に依頼することを決めたということなのだろう。


*困惑の表情を隠せないが、菅波に依頼することを決める百音 [第12週60話 より]


明日美の後押しが無かったら、百音は依頼しなかった・・・ それを表現する機能を持たせたものだろう。この作品ではこのようなシーンを、あらゆるところで何気なく、自然にインサートすることによって、ドラマツルギーに深さと厚みを付与しているところが、さすがだ。



○百音の迷いと " かしこまった文面メール " に・・・ 彼が置かれている状況が透けて見える


明日美の後押しもあってか、百音は菅波に " 医学的なサポートの依頼話 " をすることにした。しかし、" どのようにして話を切り出そうか " と考えあぐねるように部屋を歩き回る彼女。


*百音は菅波に " 医学的なサポートの依頼話 " を、どのようにして話を切り出そうか、考えあぐねるように部屋を歩き回る [第12週60話 より]


さてこのシーン、果たして明日美の言うところの、百音が菅波を " 異性として意識している " ことで、依頼の話を切り出すことに考えあぐねているのだろうか? 皆さんはどのように考えますか?

筆者には、百音はどうも " あのこと " が気になって、菅波に依頼することに躊躇があるのではないかと考えている。


過去の記事でも考察した通り、菅波の経歴から鑑みると、おそらくこの年の2016年に " 外科専門医 " の称号を取得したと考えられる。


*よねま診療所の医師プロフィール。2016年前後の設定のものと思われる。菅波の称号は " 外科専門医 " のみで、取得したばかりだと考えられる [『おかえりモネ』・公式twitterより ]


当然の次のステップである " 呼吸器外科専門医 " の取得も考えているだろうから、さらにNCD登録病院などで、症例数や手技数を稼がなくてはならない。

だからこそ、この年の春に、菅波の指導医である中村信弘(演・平山祐介氏)から、そろそろ東京の医局チームに戻った方がいいというサジェスチョンがあったわけだ。

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