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物理的な距離感と心の距離感。その "相関関係と因果関係" について・・・ 的確に描きたい。[第11週・1部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その作品の筆者の感想と『映像力学』の視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨で展開されているのが " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事だ。
今回から第11週・「相手を知れば怖くない」の特集記事を展開する。この特集記事は3部構成を予定しており、今回はその1部ということになる。ちなみに、第10週・3部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、特に第11週の前半部となる51~53話(前半)を取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。
さて、前週の第10週・「気象予報は誰のため?」と今回の第11週は、記事にすることが非常に難しい週だと考えていた。東京編に突入し、主人公を取り巻く環境や状況説明も多いためだ。
しかし、記事を書くために念入りに放送回を見返すと・・・ 実は多くの情報を見落としていたことに気づく。今回の第11週も、実はこの作品の根幹に関わる重要なテーマを " 巧みに暗示されていた " ことが改めて分かった。今回の記事はその辺についても触れていきたいと思う。
それで、今回の記事は筆者の分析・考察、そして感想が中心に展開される。また『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察することで、この作品の深層に迫っていきたい。
○ " その不安感 " は・・・ 一体 "どこ" から生まれてきているのだろうか?
Weather Experts社に採用が決まり、明日の初出社に向けて、丹念にアイロンがけを行う主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。彼女の幼馴染で、シェアハウス・『汐見湯』に一緒に住むことになった、野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)と、今日の仙台での強風について話す。
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故郷・亀島の幼馴染の後藤三生(みつお 演・前田航基)と早坂悠人(演・髙田彪我)が、偶然にも遭遇した仙台の強風で発生した看板落下事故について、明日美はテレビで幾度も取り上げられていたこともあってか、かなり危なかったのではと百音に語る。それに対して、百音はこのように語った。
『百音 : 仙台の強風ね。少し前に分ってたの。でもニュースじゃ、二人に直接、伝えることは出来ないんだよね・・・ 』
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それに対して明日美は、このように応える。
『明日美 : 当たり前じゃん。テレビだもん。それにさ、ほんとうにヤバかったら電話するでしょ。』
『百音 : うん。そうなんだけど・・・ 』
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さてこのシーン、冷静に考えてみれば明日美の語ったことは、至極その通りだと思う。気象予報士として知見をもとに、幼馴染に危険が迫っているとするならば、電話やSNSを使って直接知らせれば良いだけの話だ。何も、全国に放送される番組内で " 限定的な情報 " を放送波に乗せる必然性は無い。しかし、明日美が語ったことに対する百音の反応が、
『うん。そうなんだけど・・・ 』
と、いまいちしっくりせず、彼女の中でモヤモヤが残っているような雰囲気だ。正直に言えば、筆者も初見の際は「家族や幼馴染に危険が迫っていたとしても・・・ なぜここまで " 知らせる " ということに百音が拘りを持っているのか」が理解が出来なかった。視聴者の気持ちを代弁するように、明日美はこのように語る。
『明日美 : そもそもさあ、モネは私たちのこと、心配しすぎじゃない? 』
筆者は初見の際は、明日美の語った『モネは私たちのこと、心配しすぎじゃない? 』という言葉を深く考えず、「東日本大震災によって生まれた、幼馴染との分断が、百音にこのような感情を抱かせている」という程度で流して考えていた。
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[第3週・15話「故郷の海へ」より]
しかし、よくよく考えてみると家族は当然だったとしても、幼馴染の身の安全に対して、ここまで百音が不安にかられるのも不自然な感じもする。それで、このシーンを何度も見直してみても・・・ " 百音がかられている不安感の源泉 " が一体何なのか見えてこない。そのことは・・・ 実は、百音もよく分っていなかったのだ。
『明日美 : そもそもさあ、モネは私たちのこと、心配しすぎじゃない? 』
『百音 : そう・・・ ? 』
『明日美 : うん。』
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その夜、明日美に指摘されたこともあってか、 " 百音がかられている不安感の源泉 " について思いを巡らせているようで、なかなか眠れない様子だ。
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そして百音は、日中に気象キャスターである朝岡覚(演・西島秀俊氏)に強く訴えかけた " この言葉 " を思い返していた。
『百音 : 「天気予報は、全国の人のため」それも分ります。でも・・・ 私が " この仕事で守りたい " のは、この幼馴染みたいな " 自分の大切な人たち " なんです。』
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やはり、この " 不安感の源泉がどこから来ているのか? " ということを、百音自身もよく分っていないことが、このシーンからもよく分ると思う。
この第11週のサブタイトルとなっている「相手を知れば怖くない」。実はこの東京編では " 百音がかられている不安感の源泉が一体何なのか? " ということにも、これからフォーカスを当てていくわけだ。そのキッカケとなる週が第11週であることを、サブタイトルでも明示しているのだろう。そしてその一端が・・・ この週の後半から少しずつ見え隠れしてくる。
○下町の路地裏に猫が住み着いているという " 裏設定 " と菅波との因果関係
百音は、眠れないまま " 不安感の源泉 " について思いを巡らせていると、日中に青年医師である菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)へと送ったメールの返信が届く。
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上京初日から、いきなり気象報道に携わることになり、Weather Experts社にも正式採用が決まった。喜びと興奮をそのままに長文のメールをしたためて送った百音だったが、菅波から返信は『がんばってください』という淡白なものだった。
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[第11週・51話より]
『百音 : これだけ? まあ、先生ならこんなもんか 』
といったん納得するものの、そこはかとないモヤモヤ感が沸き起こって、眠れなくなる百音。再びスマートフォンを起動させ、文面を読み返す。
『百音 : 長文、送りつけた私が、めちゃめちゃ恥ずかしいんですけど。』
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再び眠ろうとするが、やはりモヤモヤ感が拭えず・・・
『百音 : 恥ずかしい? 何で? 』
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と布団の中で独りごちる百音。
さて皆さんは、このシーンをどのように捉えたでしょうか? 筆者は初見の際には、この百音の『恥ずかしい 何で』というセリフには、" 気持ちを乗せて長文を送ったのに、何で返信がこれだけなの? " という、菅波に問いかけるような意味合いがあると考えていた。しかし、何回も繰り返して観ていると・・・ どうも違った意味合いのニュアンスが込められているように感じられてくる。
それで鋭い方々は、既に百音のこのセリフに注目していると思う。
『恥ずかしい? 何で? 』
映像作品が手元にある方々は、ぜひ字幕表記を確認して頂きたい。実は、この二つのセリフには、疑問符が付く " 疑問形 " の文章になっているのだ。では、このセリフは誰に対して問いかけているかというと、当然、百音自身に問いかけているということになる。要するに、
『長文、送りつけた私が、めちゃめちゃ恥ずかしいんですけど 』
という感情が咄嗟に沸き起こったのだが、冷静に考えてみると " なぜ恥ずかしいという感情が沸き起こってきたのか? " という、 " 恥ずかしいと感じるその源泉 " についても、百音自身がまだよく分っていないということを表現したシーンなのだろう。実は東京編は、百音自身がまだ気づいていない " その思い " に対してもフォーカスを当て、彼女自身が徐々に気づいていく過程を描いてもいるのだ。
さらに筆者が注目しているのは、前回の記事でも触れている、第51話の4:03前後から頻繁に入ってくる " 猫の鳴き声 " の音響効果だ。
この東京編になって、菅波が百音にメールの返信をしたり、コインランドリーでニアミスしたりする時には、その直前に必ずと言っていいほど、 " 猫の鳴き声 " の音響効果が入ってくる。そのため筆者は " 猫の鳴き声 " の音響効果がシーンに入っている場合には、菅波が『汐見湯』の近辺をうろついている可能性が高いと考えているわけだ。
さてこの作品の舞台となった、気仙沼で行われたトークイベント・『「ドラマはこうして作られる」演出のお仕事大公開 (2022年11月3日)』の際、第11週の演出を担当した梶原登城氏が質疑応答の中で、この " 猫の鳴き声 " の音響効果について言及している。
Q・ 東京編で出てくる猫の鳴き声には、どのような意味合いがあったのか?
『梶原 : それは・・・ 僕も分らないんだけど(笑)。(音響)効果部っていうチームがいるんですよ。MA(Multi Audio)という工程でBGMを入れたり、セリフをきれいに聴こえるように調整したりだとか、(衝撃音などの)いわゆる効果音を入れたりですね。その工程で「ニャー」っていうんですよね。「今、猫が鳴いた?」みたいな。「映像には映ってないけどな」っていう話をして。』
『梶原 : 音響効果さんは「野良猫が住み着いているんだ」と。そういう路地裏の猫が住み着いているみたいな、自分の中での " 裏設定 " をしていたようで、これは面白いと。』
『梶原 : だから・・・ ちょっとやや過剰に鳴いたのかもしれないですね。スイマセン・・・ 具体的なシーンは覚えていないですけど。うちの音響効果さんの設定ではありましたね。』
[パワーわんこの書き取ったメモから]
今回の東京編での " 猫の鳴き声 " は、梶原氏には全く意図はなく、音響効果担当者の判断による " 独自の裏設定 " によって入れていたということだろう。ということは、その真相は音響効果担当者に聞いてみないと分らないところだが・・・ 状況証拠から鑑みるとやはり・・・ 菅波とリンクしていることは間違いないと筆者は考えている。
地上波のTVドラマを制作する場合、監督(演出家)はすべての制作工程に立ち会うが、実はそれぞれの工程には裁量権が認められている。したがって、実はそのすべてが監督のディレクションとは限らないのだ。
要するに " 猫の鳴き声 " が入る時は、音響効果担当者の " 独自の裏設定 " によって、やはり菅波が『汐見湯』の近辺をうろついている可能性が高いと考えても良いのではなかろうか。
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