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今度こそ " 彼女の抱える痛み " を受け止めたい・・・ " その思い " が彼の指先に宿る時 [第14週・2部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。
前回から第14週・「離れられないもの」の特集記事へ突入し、今回はその2部の記事ということになる。ちなみに、第14週・1部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、第14週・67話の後半部から68話の前半部を集中的に取り上げた記事だ。それでこの放送回でも筆者が考える、本作・全120話の中でも " 屈指の名シーン・注目シーン " がふんだんにあるため、今回もそれらのシーンを、かなり丁寧に分析・考察していきたいと考えている。
したがって、今回の記事は2万7千字を越え、過去最長をさらに更新してしまった。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成にもなっている。
記事としては、この放送回では『映像力学』的なギミックが、ふんだんに散りばめられているため、その視点からの分析や考察、演者の表情や所作、シーン設定などから複合的に解釈・考察を展開する。
またお約束にはなるが、『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら ) も用いて、そこから浮き彫りになった登場人物や俳優の心情などを探りつつ、この作品の世界観の深層に迫っていきたいと思う。
○小さな状況設定を丹念に積み重ねることで・・・ " 作品の質感の高さと統一感を生み出すこと " に成功する
東北・石音町の集中豪雨に起因した土砂災害。気象庁担当の社会部記者の沢渡公平(演・玉置玲央氏)は、朝の報道番組・『あさキラッ』内で特集を組みたいと、報道気象班のスタッフミーティングで力説する。
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そのミーティングの中で、石音町は『もはや、住めなくなっている』、『土地を離れるしかない』という意見が飛び交って、それを聞いていられなくなった百音は、
『百音 : " 無理な話 " じゃないでしょうか。』
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と不快感を露わにする。ミーティング後、気象キャスターの朝岡覚(演・西島秀俊氏)から、
『朝岡 : 永浦さん・・・ 申し訳ない。』
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と詫びを入れられるも、そのことは、
[ 私は故郷・亀島に、こんなにも強い愛着を感じているのに・・・ 正面から向き合わず、逃げ出してしまった ]
ということを、百音に対して明確に突きつける結果となる。それと同時に、
[ 逃げた私が・・・ " 土地(故郷)に対する愛着を持っている " と言えるのだろうか? ]
[ 土地に愛着を持った人々の気持ちを理解できているようで、実は " その本質 " を全く理解できていなかったのではないか? 私は実は " 中途半端な存在 " だったのではないか? ]
という思いが百音の脳裏で交錯し、そして増幅していった。
帰宅後、『汐見湯』のコインランドリーで洗濯をしながら、朝岡の言葉によって突き付けられた " 自身の故郷・亀島への愛着と、人々の土地[(故郷]に対する愛着 " について、考えあぐねていると・・・
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青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)がやって来る。" あの日 " から・・・
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" あの日 " から・・・ 既に10日以上が経過していた。
『菅波 : あ・・・ どうも。』
『百音 : お久しぶりです。』
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ぎこちない空気感が・・・ コインランドリー内を満たしていった。
さて、過去記事でも特集したように『汐見湯』のコインランドリーでは、スウェーデンの『Electrolux』製の業務用洗濯機「W100MP」・「W160MP」と、サンヨー製の業務用洗濯機「ASW-45C」が設置されている。百音は『Electrolux』製の業務用洗濯機がお気に入りらしく、本作ではそれを用いるシーンしか出て来ない。
ということは、このシーンでは、百音の正面の " 2番機 " を用いて洗濯をしている可能性が高い。
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また、やはり過去記事でも触れたように、菅波が登場するシーンでは百音が使う洗濯機の回転方向にも法則性があり、今回のシーンでも注意深く観察すると " 反時計回りの逆転で回転しているタイミング " で、菅波がコインランドリー内に足を踏み入れるのだ (その理由と詳細な考察はこちらからどうぞ)。
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ではなぜ、このような法則性を本作の中で徹底させているのだろうか。これは「洗濯機が逆転をすれば、コインランドリーに菅波が登場する」ということを、視聴者に対してサブリミナル的に印象付けをしたいということが、その狙いだろう。
これと同様の効果を狙っているのが、過去の記事でも取り上げた通り、菅波がコインランドリーに立ち寄る際には、" 猫の鳴き声のSE(効果音)を入れる " というものが挙げられる。当然この菅波の登場シーンでも、猫の鳴き声のSEが入っている。ちなみにこれは演出部のアイデアではなく、音響効果部のアイデアらしい。
Q・ 東京編で出てくる猫の鳴き声には、どのような意味合いがあったのか?
『梶原 : それは・・・ 僕も分らないんだけど(笑)。(音響)効果部っていうチームがいるんですよ。MA(Multi Audio)という工程でBGMを入れたり、セリフをきれいに聴こえるように調整したりだとか、(衝撃音などの)いわゆる効果音を入れたりですね。その工程で「ニャー」っていうんですよね。「今、猫が鳴いた?」みたいな。「映像には映ってないけどな」っていう話をして。』
『梶原 : 音響効果さんは「野良猫が住み着いているんだ」と。そういう路地裏の猫が住み着いているみたいな、自分の中での " 裏設定 " をしていたようで、これは面白いと。』
『梶原 : だから・・・ ちょっとやや過剰に鳴いたのかもしれないですね。スイマセン・・・ 具体的なシーンは覚えていないですけど。うちの音響効果さんの設定ではありましたね。』
それで筆者としては、この猫の鳴き声のSEが、菅波の人物像を的確に表現しているようにも感じられるわけだ。
[ 猫のように群れずに・・・ 周りに流されず、" 自分の信念 " を貫いて生きる ]
したがって猫の鳴き声のSEも、菅波の人物像をサブリミナル的に印象付けることを狙っているのだろう。そして、こういった小さな積み重ねを怠らないことが、" 作品の質感の高さと統一感を生み出すこと " に成功していると感じるわけだ。
○この場所は、一緒に過ごせる時間を " アリバイ " のように生み出してくれる・・・ 魔法の空間
百音と菅波は、今まで秘めていた心の内をさらけ出したことと、新しい感情の芽生えのためか、お互いにぎこちない雰囲気を醸し出し、その空気感がコインランドリー内を満たしていく。
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『菅波 : こないだは・・・ 』
『百音 : ん? 』
『菅波 : あっ、いや・・・ 』
『百音 : あ・・ あっ、先生。そこの洗濯機、空いてます。 』
さて、菅波の『こないだは・・・ 』という言葉に、百音はそれをはぐらかそうとする素振りを見せる。菅波が言葉を発した直後の百音のカットが、非常に印象的だ。
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百音の表情は、菅波の反応に非常に驚いているように見える。この前には " 菅波の背中を擦った回想シーン " がインサートされ、これは百音の脳裏に描かれたものを再現していると考えて良いと思う。
[ 先生とは年の差もあるのに・・・ " あの瞬間だけ " は母性のような感情が沸き起こってしまった ]
といった新しい感情の芽生えや菅波に対して、ある意味 " 失礼 " にもなりかねない感情が、再び百音の脳裏に浮かんでいたため、それらを彼に悟られないようにと『そこの洗濯機、空いてます』と、はぐらかすような素振りを見せたのだろう。
また菅波の所作もぎこちない。彼が用いようとする " 3番機 " の「W160MP」には、洗剤・柔軟剤の自動投入機能が付いている。
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これまでに菅波は、このコインランドリーに散々通っており、用いる洗濯機に洗剤・柔軟剤の自動投入機能が付いていることを、今更になって知らないわけがない。それにも関わらず、洗剤を投入しようとする菅波。
『百音 : そこ、洗剤・・・ 』
『菅波 : あ・・・ そうでした。 』
『百音 : ややこしいですよね。柔軟剤も自動って賢い・・・ 』
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さて菅波も百音と同様に、『Electrolux』製の業務用洗濯機がお気に入りのようだ。したがってこれらが埋まっている時には、彼は洗濯をせずに帰ってしまうこともあった ( 第10週・50話「気象予報は誰のため?」)。そうなると・・・
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洗剤・柔軟剤の自動投入機能がある『Electrolux』製の業務用洗濯機を、あえて狙ってこのコインランドリーに来ているのに " 洗剤を自宅から持参してくる " って・・・ 合理性を追求する菅波先生にしては、なんか不自然じゃないですかね・・・ 先生(笑)。
百歩譲って、サンヨー製の業務用洗濯機「ASW-45C」も設置されているため、『Electrolux』製の業務用洗濯機が空いていなければ、最悪はそれで洗濯しようと、洗剤を持参した可能性も否定はできないが・・・ ちなみに、「ASW-45C」の方は、現在は2台共に使用中のようだ。
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したがって、" 3番機の「W160MP」だけが空いていた " ということにはなるのだが・・・ 。やはり・・・ この記事をご覧の方が男性であれば、" 若き日の恋愛偏差値が低かった頃(?!) " を思い出してみて下さい。そう!!
[ コインランドリーで彼女と逢えたならば・・・ 今日こそは、必ず食事に誘うんだ・・・ ]
と、菅波は家を出る前から " そのこと " で頭の中が一杯だったために、不自然なのにも関わらず、思わず洗剤を持参してしまったということが、本当のところではなかろうか。
さらに言えば、ここ最近は・・・ 事あるごとに菅波は、『汐見湯』のコインランドリーに立ち寄っては様子を窺い、百音と遭遇することを心待ちにしていた可能性も否定できない。
『鈴木奈穂子アナウンサー : 坂口さんによると、この時(百音に背中を擦られたシーン)が、ハッキリと " モネへの恋心 " を自覚した瞬間なんだそうです。』
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ということは・・・ この日から菅波は、
[ 次回に彼女とコインランドリーで逢えたならば・・・ 必ず食事に誘うんだ・・・ ]
という思いを10日間以上抱えて、悶々と日々を過ごしてきたということなのではなかろうか。そしてようやく・・・逢えた。菅波は " 千載一遇のチャンス " とばかりに、誘い文句を口にする。
『菅波 : そばでも食べませんか? 』
『百音 : ややこしいですよね。柔軟剤も自動って賢い・・・ 』
『菅波 : そこの角にあったでしょ? そば屋。 』
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その緊張のためか、百音の顔をまともに見て誘えない菅波。誘われた百音も驚きを隠せない。そして、彼女のこの表情が印象的だ。
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[ 食事に誘われるって・・・ どういうこと? ]
このような感情が、百音の脳裏に渦巻いた瞬間のようにも筆者には見える。さらに照れ臭さを隠すように、菅波はこのように語る。
『菅波 : 昼飯、まだなんです。あっ、もう食べましたか? 』
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この問いかけに、百音は言葉を発することができず、無言で首を横に振る。先生・・・ 百音がまだ昼食を摂ってなくて良かったですね(笑顔)。
これ・・・ もし、彼女が既に昼食を摂っていて、食事を断られてとしても・・・ 菅波のような " 打たれ弱いメンタリティーを持った人物 " だと、かなりダメージを受けるのではないだろうか。そのような「もし、断られたら・・・ どうしよう?」という動揺をも感じさせる彼の表情が、非常に印象的だろう。そして畳み込むように、果敢に攻める菅波。
『菅波 : 48分・・・ で戻りましょう。 』
と " 3番機の「W160MP」" の残り時間表示を見つめ、百音に語る菅波。
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この洗濯機の残り時間表示に目をやる時、菅波は下手方向に視線を送ることになる。『映像力学』的には ( 詳しい理論はこちら )、下手方向に " 未来 " があることになるため、
[ コインランドリーの洗濯機は・・・ 二人に " 時間という未来 " を与えてくれる存在 ]
というものになるわけだ。さらに言えば二人にとって、このコインランドリーは、
[ 一緒に過ごせる時間を、" アリバイ " のように生み出してくれる魔法の空間 ]
という存在にもなるのだろう。そして既に " この時 " が・・・ そうだったわけなのだ。
『菅波 : あと11分です。 』
『百音 : ん? 』
『菅波 : 洗濯が終わるまで・・・ 僕は、ここにいなきゃいけない。 』
『百音 : はい。 』
『菅波 : ついでに聞きますよ。』
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そして二人の間には、無言の時間が流れて・・・ 菅波が止めを刺すが如く、このように語りかける。
『菅波 : 行きますか? 』
『百音 : はい! 』
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さて、菅波からの昼食の誘いに、非常に力強く『はい! 』と答えた百音。この時の彼女の心模様を、皆さんはどのように捉えましたか? 筆者としては、この時の百音の心模様は、明確な恋愛感情を自覚した状態での返答ではないと考えている。
その理由の一つとしては、演じる清原果耶氏が『あさイチ』・2021年10月19日放送に出演した際、「この時点(65~66話)では、百音は菅波に対する恋愛感情を抱いていない」と明言していることが、やはり大きい。
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しかし筆者としては、実は " このカット " が、百音が非常に力強く『はい! 』と答えた背後には、" あまり恋愛感情を含んでいない " ということを的確に表現してるのではないかと考えている。
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今回は百音は下手側・座位で、菅波は上手側・立位の状態・・・ そう!! 前回 (65話) とは逆の位置関係になっているんです!!
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要するに『映像力学』の視点で考えると、下手側・座位の登場人物が " 弱者 " 、上手側・立位の登場人物が " 強者 " となり、菅波と百音の心理的・精神的な優勢・劣勢を表現している。ということは、前回は下手側・座位の菅波が抱えていた " 挫折と重い十字架 " を、上手側・立位の百音が受け止めたわけだ。
しかし今回は、百音の方が下手側・座位となっており、「誰かに話を聞いてほしい。受け止めてほしい」という劣勢のメンタリティーとなっている。そこで上手側・立位の、精神的に優勢になっている菅波が、それを受け止める展開であることを表現しているのだろう。そして、この瞬間の百音の表層的な心模様は、
[ ちょうど・・・ 誰かに " この思い " を話をしたかった。誰かに聞いてもらいたかった ]
[ 先生であれば・・・ " この思い " を理解して、受け止めてくれるに違いない ]
というものであり、その感情が彼女を『はい! 』と、力強く答えさせたのではないかと考えている。まぁ、「話を聞いてほしい」ということが " 恋愛感情の源泉 " にも繋がるだろうが、やはり恋愛偏差値の低い百音には、この段階では、「これが恋愛感情である」という実感を持ってはいないという感じではなかろうか。その一方で、
[ 先生に食事に誘われて・・・ 嬉しい ]
という思いも、潜在的に生まれてないわけがない。要するに彼女が " その気持ち " に気づいていないだけなのだろう。そして百音が『はい! 』と答えた直後の菅波の表情も、これまた非常に印象的だ。
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ニンマリとするぐらいの微妙な表情の変化だが、本当はガッツポーズしたいのをグッと抑えている感じですよね・・・ 先生(笑顔)。そして、
『菅波 : あと47分です。 』
と百音を急かす。この時の彼女の表情も、非常に印象的だ。
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[ 先生に食事に誘われた・・・ どういうこと? ]
[ 「あと47分」って・・・ どういうこと? ]
といった、" 戸惑いの色 " を感じさせる百音の表情だ。そして、蕎麦屋へと向かった菅波を追いかけるように、百音もコインランドリーを後にする。その進行方向も非常に興味深い。
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菅波に先導されるように、百音は下手方向に向かってフレームから捌ける。やはり『映像力学』的には、下手方向に " 未来 " があることになるため、
[ 百音は菅波に先導されて、未来へと歩んでいく ]
[ 二人で一緒に・・・ 未来へと歩みを進めていく ]
ということを、映像で暗示していることになるわけだ。
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そして二人が蕎麦屋へ向かった後、コインランドリーに百音のルームメイトで、幼馴染でもある野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)が入ってくる。彼女は、二人のやり取りを立ち聞きしていたらしく、
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